第52話 削除確定領域
収束が進むほど、「残る可能性」は増えるのではなく減っていく。
湊はそれをもう、選択ではなく“確定プロセス”として見ていた。
朝の教室。
机はすでに一つしか残っていない。
だがその一つの机の上に、まだ“消えかけた机の輪郭”が重なっている。
「ねえ湊」
レイの声。
今はもう一つだけだ。
だがその声には、終わりの予告のような揺れが混ざっている。
「私、多分ここまでだと思う」
湊は眉をひそめる。
「何勝手に決めてんだよ」
レイは少しだけ笑う。
「決まってる感じがするの」
そのとき九条が入ってくる。
しかし九条の存在は、以前よりも“固定されすぎている”。
揺らぎがない。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「もう誰が消えるか決まってんのか?」
九条は止まる。
「確定領域に入っている」
レイが不安そうに言う。
「確定って……もう変えられないの?」
九条は静かに答える。
「変化はすでに終わっている」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「終わってるのにまだ動いてるのかよ」
九条は続ける。
「結果だけが残っている状態だ」
その瞬間。
黒板に“消去済みの選択肢”が表示される。
そこにはレイの名前が薄く、確定済みとして浮かびかけている。
そしてすぐに消える。
「……今の見えたか?」
レイは青ざめる。
「私、今“消えた後”を見た気がする」
湊は呟く。
「未来じゃなくて、削除後かよ」
九条は静かに言う。
「削除確定領域だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
残っている廊下は一本だけに近い。
だがその一本も、少しずつ薄くなっている。
レイが隣にいる。
しかし存在は紙のように薄い。
「なあ」
湊は言う。
「お前、まだここにいるつもりか?」
レイは少しだけ間を置く。
「つもりはないかも」
湊は顔をしかめる。
「じゃあ何だよ」
レイは静かに答える。
「残ってるだけ」
九条が言う。
「意志はすでに関係ない」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に“完全に消去された世界の最終ログ”が一瞬だけ見える。
そこには誰もいない。何もない。最初から存在しなかったような空間。
そして消える。
レイが呟く。
「消えるって、こんなに静かなんだ」
湊は静かに言う。
「音も理由も残らないからな」
九条は言う。
「削除は完了しつつある」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“現実は収束ではなく、削除によって最終形へ近づいている”。
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