第51話 選別の圧
収束は「戻ること」ではない。
どれか一つを残すための、静かな削除プロセスだ。
湊はその空気を、はっきりと“減っていく感じ”として受け取っていた。
朝の教室。
机はまだ三層に重なっている。
だがそのうち二つが、少しずつ薄くなっている。
存在が“弱くなる”という現象が、目に見えて進んでいる。
「ねえ湊」
レイの声。
だが今のレイは三人ではない。
一人だけだ。
そして、その一人すら揺れている。
「私、消えるかも」
湊は眉をひそめる。
「何でそうなるんだよ」
レイは少し間を置く。
「残る理由がない感じがする」
そのとき九条が入ってくる。
しかし九条もまた、かつてのような多重ではない。
一つに“寄り始めている”。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「これ、どういう基準で残るんだ?」
九条は止まる。
「選別ではない」
レイが不安そうに言う。
「じゃあ何?」
九条は静かに答える。
「削除耐性だ」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「耐性ってなんだよ……」
九条は続ける。
「現実として矛盾をどれだけ保持できるか」
その瞬間。
黒板に三層の世界が再び現れるが、すぐに崩れる。
崩れるたびに、一つずつ“削除”されていく。
「……今の、消えていったな」
レイは青ざめる。
「選ばれてるんじゃなくて、消されてる」
湊は呟く。
「残るやつを決めてるんじゃねぇ、残れないやつが落ちていってるだけか」
九条は静かに言う。
「それが収束の本質だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
三つあった廊下のうち、二つはもうほとんど存在しない。
残っているのは一つだけに近い“揺れた一本”。
レイが隣にいる。
だがその輪郭は薄い。
「なあ」
湊は言う。
「お前、まだ残れると思うか?」
レイは少しだけ笑う。
「分からない」
九条が静かに言う。
「判断はすでに進んでいる」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に“完全に削除された二つの世界”が一瞬だけ見える。
存在していたはずの可能性。
しかし今はもう、そこに“何もないこと”すら残っていない。
レイが呟く。
「消えるって、跡も残らないんだね」
湊は静かに言う。
「最初からなかったみたいにされるのが、一番きついな」
九条は言う。
「それが選別の進行形だ」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“現実は重なりではなく、削除によって単一へ収束し始めている”。
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