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余白税  作者: 未確定ログ
第五章 候補世界
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第50話 崩壊の選択肢

層間ノイズが常態化した世界では、「正常に戻る」という発想そのものが意味を失っていた。


 湊はもう、崩壊を“避けるもの”ではなく“選択肢の一つ”として見ていた。


 朝の教室。


 湊は机に座る。


 三層の現実は相変わらず重なっている。


 だが今日は、その重なりの中に一つだけ違う揺れがある。


 **“収束の気配”**だ。


「ねえ湊」


 レイの声。


 だが三つのレイのうち、一人だけがはっきりと湊を見ている。


「これ、そろそろ終わる気がする」


 湊は眉をひそめる。


「何がだよ」


 レイは少しだけ間を置く。


「全部」


 そのとき九条が入ってくる。


 だが九条は、いつものような多重ではない。


 一人だけだ。


 湊はすぐに聞く。


「なあ九条」


「これ、収束してんのか?」


 九条は止まる。


「収束は起きている」


 レイが不安そうに言う。


「戻るってこと?」


 九条は静かに答える。


「戻らない」


 沈黙。


 湊は顔をしかめる。


「じゃあ何が起きてんだよ」


 九条は少しだけ間を置く。


「選別だ」


 その瞬間。


 教室の三層が一斉に揺れ、互いに干渉を始める。


 平穏、崩壊、空白。


 それぞれが“唯一の現実”を主張し始める。


「……今の、争ってるな」


 レイは青ざめる。


「どれか一つになるの?」


 湊は呟く。


「一つに戻るんじゃねぇ、どれかが残るだけだろ」


 九条は静かに言う。


「観測が収束する」


 昼休み。


 廊下。


 湊は歩く。


 だが三つの廊下が同時に重なりながら、少しずつ一つに絞られていく。


 レイが隣にいる。


 だが三人のレイのうち、二人が薄れていく。


「なあ」


 湊は言う。


「これ、残るのってどれだ?」


 誰もすぐには答えない。


 九条が静かに言う。


「確率ではない」


 レイが小さく言う。


「じゃあ何で決まるの?」


 九条は少しだけ間を置く。


「整合性だ」


 沈黙。


 その瞬間。


 廊下の奥に“完全に一つに収束した世界”が一瞬だけ見える。


 迷いもノイズもない、ただ一つの現実。


 そして消える。


 レイが呟く。


「さっきの、すごく静かだった」


 湊は静かに言う。


「でもあれは、もう選ばれかけてる世界だ」


 九条は言う。


「収束は進行中だ」


 世界はまだ続いている。


 だが確実に――


 “重なり続けた現実は、単一へと選別され始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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