第54話 消失予告
残存率が数値化された瞬間から、「消えること」は出来事ではなく“予定”になった。
湊はそれを、最悪の静けさとして受け取っていた。
朝の教室。
机はもうほとんど形を保っていない。
輪郭は揺れ、触れようとすると“そこにあったはずの確信”だけが残る。
「ねえ湊」
レイの声。
だがその声は、発声と同時に“消える未来”を含んでいる。
「私さ……明日いない気がする」
湊は眉をひそめる。
「やめろそういうの」
レイは少しだけ笑う。
「でも、予告みたいなのが出てる」
そのとき九条が入ってくる。
九条の存在はもう揺れない。
むしろ“固定された観測装置”のようになっている。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「消える前に分かるもんなのか?」
九条は止まる。
「消失予告が生成されている」
レイが不安そうに言う。
「それって……確定?」
九条は静かに答える。
「確定ではない」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「でも予告って言ったよな」
九条は続ける。
「予告は“削除の準備信号”だ」
その瞬間。
黒板に薄く、レイの名前が浮かぶ。
横に小さく「-48h」。
そしてすぐに消える。
「……今の見たか?」
レイは青ざめる。
「時間ついてた」
湊は呟く。
「もうカウントダウンかよ」
九条は静かに言う。
「残存率が閾値を下回ると予告が発生する」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
廊下の奥に“まだ完全に残っている空間”はもうない。
すべてが薄く、どこかで削除に繋がっている。
レイが隣にいる。
だが存在は途切れ途切れだ。
「なあ」
湊は言う。
「本当に消えるのか?」
レイは少しだけ間を置く。
「分からない」
「でも、準備はされてる」
湊は顔をしかめる。
「準備ってのが一番嫌だな」
九条が言う。
「削除は突然ではない」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に“消失が起きなかった世界”が一瞬だけ見える。
誰も欠けず、誰も減らない、完全な継続。
そして消える。
レイが呟く。
「さっきの世界、ずっと続けばいいのにね」
湊は静かに言う。
「でもそれ、もう選べねぇ側だ」
九条は言う。
「消失予告は不可逆だ」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“存在は終わりを先に提示されながら維持される段階に入っている”。
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