表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余白税  作者: 未確定ログ
第五章 候補世界
PR
48/60

第48話 重ね書き現実

同時存在が安定してしまった世界では、「一つに戻る」という発想自体が消えていく。


 湊はもう、どの自分が本体かではなく、“どの自分が採用されているか”だけを意識していた。


 朝の教室。


 湊は机に座る。


 その机には、三人の湊がそれぞれ別の書き込みをしている。


 ノートには同じ日付で、異なる一日が書かれている。


「ねえ湊」


 レイの声。


 三つのレイが、それぞれ違うトーンで話す。


 不安、無関心、そしてすでに結論に達している声。


「これ、全部今日なんだよね」


 湊は眉をひそめる。


「今日が一個じゃねぇからな」


 そのとき九条が入ってくる。


 だが九条もまた、複数の“説明の九条”として重なっている。


 湊はすぐに聞く。


「なあ九条」


「この世界、どうやって成立してんだ?」


 九条は止まる。


 三重の声が重なる。


「重ね書きだ」


 レイが不安そうに言う。


「重ね書きって、何を?」


 九条は静かに答える。


「現実そのものだ」


 沈黙。


 湊は顔をしかめる。


「上書きじゃなくて重ねてるのかよ」


 九条は否定しない。


 その瞬間。


 黒板に三層の世界が同時に描かれる。


 平穏な授業、崩壊した教室、誰もいない空白。


 それらが消えずに重なり続ける。


「……今の、混ざってたな」


 レイは青ざめる。


「どれも消えてない」


 湊は呟く。


「消えないまま重なってるのか」


 九条は静かに言う。


「それが重ね書き現実だ」


 昼休み。


 廊下。


 湊は歩く。


 一歩ごとに別の世界の廊下が重なる。


 人のいる廊下、崩壊した廊下、無限に続く廊下。


 レイが隣にいる。


 だがその存在も層状に重なっている。


「なあ」


 湊は言う。


「もうどれが本流なんだよ」


 誰も答えない。


 九条が静かに言う。


「本流は存在しない」


 レイが小さく言う。


「じゃあ私たちは?」


 九条は少しだけ間を置く。


「全ての層に同時にいる」


 沈黙。


 その瞬間。


 廊下の奥に“単一だった一日の記憶”が一瞬だけ見える。


 迷いのない時間、一本の現実。


 そして消える。


 レイが呟く。


「さっきの、すごく分かりやすかった」


 湊は静かに言う。


「でももう、それは一枚の層でしかない」


 九条は言う。


「重ね書きは剥がせない」


 世界はまだ続いている。


 だが確実に――


 “現実は単一ではなく、複数層の重なりとして固定されている”。

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ