第47話 同時存在
現実が分岐したまま戻らない世界では、「同じ自分が同時に存在する」ことが日常になる。
湊はもう、それを異常ではなく“状態”として受け入れかけていた。
朝の教室。
湊は机に座る。
その瞬間、三人の湊が同じ席にいる。
黙っている湊、笑っている湊、すでに立ち去った湊。
「ねえ湊」
レイの声。
だが三人のレイが同時に返事をする。
「今の私、どれ?」
湊は眉をひそめる。
「全部お前だろ」
そのとき九条が入ってくる。
しかし入室も三重化している。
ドアを開ける九条、すでに教室にいる九条、入ってこなかった九条。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「もうこれ、存在の意味あるのか?」
九条は止まる。
三つの九条が同時に答える。
「存在は維持されている」
レイが不安そうに言う。
「でも、全部同時にいるよ?」
九条は静かに答える。
「それが同時存在だ」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「整理できねぇなこれ」
九条は否定しない。
その瞬間。
黒板に三つの世界が同時に映る。
平穏な世界。崩壊した世界。まだ始まっていない世界。
そしてすべてが同時に消える。
「……今の、全部本物だったのか?」
レイは青ざめる。
「本物が三つあるの、怖い」
湊は呟く。
「本物って言葉ももうダメだな」
九条は静かに言う。
「本物は選択された結果だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
三人の湊が別々の方向に歩いている。
レイが隣にいる。
しかしそのレイも複数の方向に分かれている。
「なあ」
湊は言う。
「俺、どれが俺か分かんねぇよ」
返答はない。
ただ全ての湊が同時に呼吸している。
九条が言う。
「自己同一性が崩壊している」
レイが小さく言う。
「じゃあ私は……誰?」
九条は少しだけ間を置く。
「観測される集合だ」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に“唯一の湊とレイと九条”が一瞬だけ見える。
一つの会話、一つの歩行、一つの世界。
そして消える。
レイが呟く。
「さっきの、すごく落ち着いてた」
湊は静かに言う。
「でももう戻らねぇ」
九条は言う。
「同時存在は不可逆だ」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“存在は分岐ではなく同時重複として維持されるようになっている”。
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