第34話 未来の先行
未来だけが残る世界では、「まだ起きていないもの」が先に現れる。
湊はそれを、現実として受け取るのをやめかけていた。
受け取った瞬間に、それは過去になるからだ。
朝の教室。
湊は机に座る。
その瞬間、“少し先の自分がすでに座っている”感覚が重なる。
同じ場所に、違う時間の自分がいる。
「ねえ湊」
レイの声。
だがそれは、すでに数秒後にも聞こえる気がする。
「今さ……このあと、何か起きる気がする」
湊は眉をひそめる。
「やめろよそういうの」
そのとき九条が入ってくる。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「未来って先に来てるだろこれ」
九条は止まる。
「先行している」
レイが不安そうに言う。
「未来が先って、どういうこと?」
九条は静かに答える。
「結果が原因より先に観測されている」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「それもう因果関係崩れてねぇか」
九条は否定しない。
その瞬間。
黒板に“まだ起きていない落書き”が一瞬だけ現れる。
すぐに消える。
「……今の何だよ」
レイは青ざめる。
「私、あれ書いた気がする」
湊は呟く。
「いや、書く前に見たんだろ」
九条は静かに言う。
「未来の記憶だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
だが歩く前に“歩いた記憶”がある。
そして歩いた後にも“まだ歩いていない記憶”がある。
レイが隣にいる。
だがレイにも“先のレイ”と“過去のレイ”が重なっている。
「なあ」
湊は言う。
「これ、どこが現実なんだよ」
誰もすぐに答えない。
九条が静かに言う。
「現実は結果としてしか存在しない」
レイが小さく言う。
「じゃあ……今は?」
九条は少しだけ間を置く。
「結果の予告だ」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥で、湊たちが“これから起きる会話をすでに終えた状態”が一瞬だけ見える。
そして消える。
湊は息を吐く。
「未来が先に来るの、気持ち悪すぎる」
レイは震える声で言う。
「もう何が起きても驚けないかも」
九条は静かに言う。
「それが適応だ」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“原因と結果の順序が逆転し始めている”。
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