第21話 収束拒否
“同時に存在する”。
その状態は、最初は違和感だった。
だが今はもう、違和感すら薄れている。
湊はそれが一番危険だと思っていた。
朝の教室。
湊は椅子に座る。
座っているはずなのに、立っている自分の感覚が同時にある。
どちらが“自分”なのか、判別がつかない。
「ねえ湊」
レイが声をかける。
「今さ、湊って……瞬きしてなかったよね?」
湊は眉をひそめる。
「してたけど」
レイは首を振る。
「してない“時間”があった」
湊はため息をつく。
「もう時間の話やめろ」
そのとき九条が入ってくる。
湊はすぐに聞く。
「なあ、収束ってまだしないのか?」
九条は止まる。
「拒否されている」
レイが不安そうに言う。
「誰に?」
九条は静かに答える。
「世界に」
沈黙。
湊は机に手を置く。
「世界って拒否とかすんのかよ」
九条は淡々と続ける。
「収束すると、状態は一つに固定される」
「だが今は、その固定が成立しない」
レイが小さく言う。
「なんで……?」
九条は少しだけ間を置く。
「矛盾が増えすぎている」
湊は顔をしかめる。
「矛盾?」
九条は続ける。
「同時に成立できない状態が、同時に成立している」
沈黙。
その瞬間。
教室の黒板が一瞬だけ“書き換えられる前の状態”に戻る。
何も書かれていない黒板。
そしてすぐ元に戻る。
「……今の」
レイの声が震える。
湊は呟く。
「戻ってた……のか?」
九条は静かに言う。
「収束しようとした痕跡だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
だが足音が“遅れてついてくる”。
現実と行動が一致していない。
「……気持ち悪いなこれ」
そのとき九条が来る。
「慣れろ」
湊は睨む。
「無理だろこんなの」
九条は静かに言う。
「無理なものを維持している状態が今だ」
レイが震える声で言う。
「じゃあ……いつか崩れるの?」
九条は即答しない。
少しだけ間を置く。
「崩壊ではない」
湊は眉をひそめる。
「じゃあ何だよ」
九条は静かに言う。
「分岐の終端だ」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥で“湊が数秒遅れて歩いてくる”。
それを見ている湊自身も、同時にそこにいる。
レイが呟く。
「もうどれが今なのか分かんない……」
九条は言う。
「それが収束拒否だ」
世界はまだ壊れていない。
だが確実に――
“一つにまとまることをやめた現実”になっている。
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