表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余白税  作者: 未確定ログ
第一章 異常の発生
2/41

第2話 消えた一秒

“余白”という言葉を聞いてから、湊は世界の見え方が少しだけ変わっていた。


 何も起きていない時間が、少し怖い。


 何も起きていないはずなのに、「本当に何も起きていないのか?」と疑ってしまう。


 そんな状態で過ごす朝は、やけに長く感じた。


 通学路。


 いつも通りの信号。


 いつも通りの人の流れ。


 湊は歩きながら、無意識に空気を観察していた。


(気のせいだろ、あれは)


 そう思いたいだけだった。


 だが――


 その瞬間は、何の前触れもなく訪れた。


 信号が青に変わる。


 車が動き出す。


 歩行者が一斉に進む。


 その中で。


 世界が、一瞬だけ“途切れた”。


「……っ」


 湊は息を止める。


 音が消えたわけではない。


 光が消えたわけでもない。


 ただ――


 “一秒だけ、世界の進み方が飛んだ”


 次の瞬間には、もう歩道の半分まで進んでいる。


「今の……」


 湊は振り返る。


 誰も止まっていない。


 誰も違和感を持っていない。


 自分だけが、“抜け落ちた一秒”を認識している。


 その日の放課後。


 湊は教室で机に突っ伏していた。


「なあ九条」


 呼びかけると、九条は窓の外から視線を動かさずに答える。


「何だ」


「今日またあったんだけど」


 九条はようやく湊を見る。


「“余白”が拡大している」


 湊は顔をしかめる。


「いや拡大って何だよ。昨日より増えてるってことか?」


 九条は淡々と続ける。


「増えているのではない」


「“気づける人間が増えているだけだ”」


 その言い方に、湊は引っかかる。


「それってつまりさ」


「元からあったってことか?」


 九条は少しだけ間を置く。


「そうだ」


 レイが不安そうに口を挟む。


「それって危なくないの?」


 九条は否定しない。


「危険かどうかはまだ分からない」


「だが、“気づいた瞬間から影響を受ける”」


 湊は眉をひそめる。


「じゃあ見なきゃいいって話じゃね?」


 九条は静かに首を振る。


「見ないと存在できない」


「だが見すぎると崩れる」


 湊はため息をつく。


「めんどくせぇ仕様だなそれ」


 その夜。


 湊は帰り道で、もう一度それを確認しようとしていた。


 怖いのに、確かめたくなる。


 人間の感覚としては、最悪の癖だった。


 駅前の交差点。


 人の流れ。


 そして――


 再び、その瞬間はやってきた。


 人が動く。


 車が進む。


 音が流れる。


 そのすべてが一瞬だけ“滑る”。


 まるで映像が1フレーム抜けたように。


「……まただ」


 湊は確信する。


 今度は間違いじゃない。


 同じ現象だ。


 だが、今回は違うことがあった。


 横に立っていたスーツ姿の男が、小さくつぶやく。


「今……一瞬、飛びましたよね」


 湊は固まる。


「……見えてるのか?」


 男は青ざめた顔で周囲を見回す。


「今の、全員気づいてないんですか……?」


 その瞬間、湊の背中に冷たいものが走る。


 “自分だけじゃない”


 気づいている人間がいる。


 それは安心ではなく、むしろ逆だった。


 その夜。


 九条は短く言った。


「増えたな」


 湊は問い返す。


「何がだよ」


 九条は空を見ながら答える。


「観測者だ」


 レイが息を呑む。


「じゃあこれって……もっと広がるの?」


 九条は否定しない。


「すでに広がっている」


 湊は顔をしかめる。


「で、それが続いたらどうなんだよ」


 九条は少しだけ間を置く。


「世界は、“飛び飛びになる”」


 その言葉の意味は、まだ分からない。


 だが一つだけ確かなことがある。


 この世界はすでに――


 滑らかではなくなり始めている。

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ