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余白税  作者: 未確定ログ
第三章 観測の限界
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第19話 観測者の分裂

固定が失われるということは、「同じものを見ている」という前提が崩れるということだ。


 湊はそれを、嫌でも理解し始めていた。


 朝の教室。


 湊が席に座ると、レイがすぐに口を開く。


「ねえ、今朝の廊下さ」


「人、増えてなかった?」


 湊は眉をひそめる。


「増えてないだろ」


 レイは首を振る。


「いや、確かに一瞬だけ“多かった”」


「でも、気づいたら普通だった」


 湊はため息をつく。


「またそれかよ」


 そのとき九条が入ってくる。


 湊はすぐに聞く。


「なあ、レイがさ」


「人が増えたって言ってるんだけど」


 九条は止まる。


「増えていない」


 レイは固まる。


「え?」


 九条は続ける。


「観測の差だ」


 湊は眉をひそめる。


「観測の差って何だよ」


 九条は淡々と答える。


「同じ現象でも、誰が見るかで結果が変わる」


 レイが不安そうに言う。


「それって……もう同じ世界じゃないってこと?」


 九条は少しだけ間を置く。


「同じだ」


 湊は即座に反論する。


「どこがだよ」


 九条は静かに言う。


「分裂しているのは世界ではない」


「観測者だ」


 沈黙。


 その瞬間。


 教室の窓の外に、同じ校庭が“もう一つ”重なって見える。


 そこには別の生徒たちがいる。


 だが次の瞬間、どちらも消える。


「……今の見えたか?」


 レイは震えながら頷く。


「見えた……気がする」


 湊は顔をしかめる。


「気がするってなんだよもう」


 九条は静かに言う。


「それが分裂だ」


 昼休み。


 廊下。


 湊は立ち止まる。


 同じ廊下なのに、右側と左側で“時間の流れが違う”ように見える。


「……おい」


 そのとき九条が来る。


「見えているな」


 湊は振り返る。


「何がだよ」


 九条は答える。


「観測者ごとの現実だ」


 レイが震える声で言う。


「じゃあさ……私が見てる世界と、湊が見てる世界って違うの?」


 九条は即答しない。


 そして静かに言う。


「すでに違う」


 沈黙。


 湊はため息をつく。


「じゃあ会話してる意味なくね?」


 九条は首を振る。


「重なっている部分で会話している」


 レイが小さく言う。


「重なってる部分がなくなったら……?」


 九条は答える。


「会話は成立しない」


 その瞬間。


 廊下の声が一瞬だけ“別の言語”に聞こえる。


 理解できない音。


 すぐ戻る。


 湊は顔をしかめる。


「今のやばくねぇか」


 九条は静かに言う。


「境界が減っている」


 湊は空を見上げる。


「もうさ」


「誰が正しいとかどうでもよくなってきた」


 九条は否定しない。


 その瞬間。


 校舎全体が一瞬だけ“別の観測者の視点”に切り替わる。


 そして戻る。


 レイが呟く。


「今の……私じゃなかった」


 湊は静かに言う。


「俺も違った気がする」


 九条は言う。


「それが進行だ」


 世界はまだ一つに見える。


 だが実際には――


 “観測者の数だけ現実が増殖し始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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