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余白税  作者: 未確定ログ
第二章 誤認された世界
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第16話 観測負荷

“理解が分かれる”。


 その段階に入ってから、湊は「見る」という行為自体が少し怖くなっていた。


 見たものが正しいとは限らない。

 むしろ、見た瞬間からズレていく。


 朝の教室。


 湊は机に座ったまま、ぼんやりと黒板を見ている。


 文字は普通に見える。


 だが、意味だけが遅れてくる。


(読めてるのに、分からない)


 そんな感覚が続いている。


「ねえ湊」


 レイが小さく声をかける。


「今さ、外見た?」


 湊は首を振る。


「見てねぇけど」


 レイは少し間を置く。


「校庭、一瞬だけ“静止してた”気がした」


 湊は眉をひそめる。


「またかよ」


 そのとき九条が入ってくる。


 湊はすぐに聞く。


「なあ、最近さ」


「見るたびに変わってねぇか?」


 九条は止まる。


 少しだけ間を置く。


「それは正常だ」


 湊は顔をしかめる。


「どこが正常だよ」


 九条は静かに言う。


「観測しているからだ」


 レイが首をかしげる。


「観測すると変わるってこと?」


 九条は頷く。


「見るという行為は、固定化を試みる行為だ」


 湊は机に手を置く。


「固定しようとすると変わるって、逆じゃねぇか」


 九条は淡々と続ける。


「固定しようとする“圧力”が、揺れを生む」


 沈黙。


 その瞬間。


 教室の空気が一瞬だけ“重くなる”。


 音が少し遅れて届く。


「……今の感じたか?」


 湊の声に、レイは頷く。


「重かった」


 九条は静かに言う。


「観測負荷だ」


 湊は眉をひそめる。


「観測負荷?」


 九条は説明する。


「見るほど、世界は“確定しようとする”」


「だが確定はまだ許されていない」


 レイが小さく言う。


「じゃあ、見ること自体が悪いの?」


 九条は否定しない。


「負荷になる」


 沈黙。


 湊はため息をつく。


「じゃあどうすりゃいいんだよ」


 九条は少しだけ間を置く。


「見ないことはできない」


 湊は睨む。


「じゃあ詰んでねぇか」


 九条は静かに答える。


「だから“慣れ”が起きる」


 レイが不安そうに言う。


「慣れるとどうなるの?」


 九条は窓の外を見る。


「観測精度が落ちる」


 湊は眉をひそめる。


「それいいことなのか悪いことなのか分かんねぇな」


 九条は淡々と続ける。


「どちらでもない」


 その瞬間。


 黒板の文字が一瞬だけ“読み飛ばされる”。


 意味だけが抜け落ちる。


「……今の」


 レイの声が震える。


 湊は小さく言う。


「見えたけど、理解できねぇ」


 九条は静かに言う。


「それが負荷の影響だ」


 昼休み。


 廊下。


 湊は立ち止まる。


 人の流れが、ほんの少しだけ“ズレている”。


 全員が同じ方向に進んでいるのに、到着地点だけ違う。


「……なんだこれ」


 そのとき九条が来る。


「見え方が変わっている」


 湊は聞く。


「俺の目がおかしいのか?」


 九条は首を振る。


「観測が変質している」


 レイが呟く。


「もう何見ても信用できないね」


 九条は否定しない。


 湊は空を見上げる。


「これさ」


「ずっと続いたらどうなんの?」


 九条は少しだけ間を置く。


「“見る意味”がなくなる」


 沈黙。


 その瞬間。


 廊下の端が一瞬だけ“存在しない空間”になる。


 すぐ戻る。


 誰も気づかない。


 だが湊たちは気づいている。


 世界はまだ壊れていない。


 だが確実に――


 “観測すること自体が消耗になり始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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