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余白税  作者: 未確定ログ
第二章 誤認された世界
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第14話 九条の否定

層という概念が“増えている”のか、それとも“見えているだけ”なのか。


 その区別すら、もう意味を持たなくなり始めていた。


 朝の教室。


 湊は机に座ったまま、ぼんやりと黒板を見ている。


 文字は普通に見える。


 だがその“普通”が、信用できない。


「ねえ湊」


 レイが小さく声をかける。


「今日さ……廊下、なんか変じゃなかった?」


 湊はすぐに答えられない。


「変って何が」


 レイは言葉を探す。


「人の影が、一瞬だけ増えた気がした」


 湊は顔をしかめる。


「またそれかよ」


 そのとき九条が入ってくる。


 湊はすぐに振り向く。


「なあ九条」


「層ってさ、ほんとにあるのか?」


 教室の空気が一瞬止まる。


 九条は立ち止まる。


 いつもより少し長い沈黙。


「……ない」


 湊は目を細める。


「は?」


 九条は続ける。


「少なくとも“層”という形では存在しない」


 レイが固まる。


「じゃあ今までの話は……」


 九条は淡々と続ける。


「説明のための仮名だ」


 湊は机を叩く。


「おいふざけんなよ」


「今までずっと層って言ってたじゃねぇか」


 九条は否定しない。


 その静けさが逆に怖い。


 九条は続ける。


「人間は理解できないものに名前を付ける」


「層もその一つだ」


 レイが小さく言う。


「じゃあ本当は何なの……?」


 九条は少しだけ間を置く。


「“未定義の重なり”だ」


 湊は顔をしかめる。


「また新しい単語増えただけじゃねぇか」


 九条は続ける。


「層は“結果”だ」


「原因ではない」


 沈黙。


 湊はゆっくり言う。


「じゃあさ」


「俺たちが見てる全部って、勘違いってことか?」


 九条は即答しない。


 だが、否定もしない。


 そのとき。


 教室の蛍光灯が一瞬だけ“存在をやめる”。


 光が消えたのではない。


 光という概念が一瞬だけ抜ける。


「……今の」


 レイの声が震える。


 湊は息を吐く。


「もう分かんねぇよ」


 九条は静かに言う。


「分からなくていい」


 湊は睨む。


「よくねぇだろ」


 九条は続ける。


「分かろうとするほど、固定される」


 レイが小さく言う。


「固定……?」


 九条は窓の外を見る。


「この世界は“固定されることで成立する”」


「だが今は、その固定が崩れている」


 沈黙。


 湊はため息をつく。


「じゃあ俺らどうすりゃいいんだよ」


 九条は少しだけ間を置く。


「観測するしかない」


 湊は笑う。


「それしか言わねぇなほんと」


 九条は否定しない。


 その瞬間。


 廊下の向こうに、一瞬だけ“誰もいない教室の中に人影”が見える。


 すぐ消える。


 レイが呟く。


「……また見えた」


 湊は顔をしかめる。


「もう全部おかしいだろ」


 九条は静かに言う。


「おかしいのではない」


「まだ整っていないだけだ」


 湊はため息をつく。


「その言い方一番ムカつくわ」


 九条は空を見上げる。


「整いきったときに、何が残るかは分からない」


 その言葉が、妙に引っかかる。


 世界はまだ崩れていない。


 だが確実に――


 “説明という支えを失い始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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