覚悟
部屋の中はいかにも女の部屋って感じで、小綺麗に片付いている。
女に続いてリビングにやって来ると、古川がふわふわしたソファに身を預けた。
慣れた感じで、ここに長いこと住んでるらしい。
女が口を開く。
「古ちゃん、親に勘当されちゃったんだって。 だから今は私が飼ってるんだぁ~」
女が嬉しそうに話す。
勘当?
……一体、何があったんだ?
「何だよ、勘当って」
「……お笑いやるっつって、親とケンカんなったんだよ。 お笑いで飯食えるヤツなんざ、一握りしかいねぇからな」
……マジか。
こいつ、てっきりお笑いのエリートで、その道に進むのを親は了承済みなのかと思ってた。
ヘラヘラしながら女が言う。
「古ちゃん、あんまり才能ないと思うなぁ~。 ユーチューブだって、再生回数50とかだし。 あ、でも私、顔はすっごい好みだから、つまんなくても全然いいよ~」
はあっ!?
ユーチューブ?
しかも、再生回数50とか、全然ダメじゃねーか!
段々、古川っつー男の化けの皮が剥がれてきたかも知れねー。
「るっせーな、ミヨ。 すぐには無理かも知んねーけど、ぜってー売れてやっから」
「期待しないで待ってるぅ~」
「オイ、古川、こっちこい」
俺は古川の服を引っ張って、バスルームの前までやって来た。
「何なんだよ、あの女」
「……駅前で引っかけて、家に転がり込んでるだけだろ。 俺、帰る家ねーし……」
俺は立ちくらみがした。
古川がこんな軽い男だとは……
トマト館で俺を焚きつけた男と同一人物とは思えない。
「お前、学生の分際でヒモとか……」
「ずっとじゃねーよ。 今、バイト探してんだ。 それより、卒業式のネタ、考えねーと」
「……見えてきたわ。 お前、それを動画か何かに撮ってユーチューブに上げる気だろ?」
「何が悪ーんだよ」
「有名になることばっかかよ! 俺はお笑いに救いを求めてるヤツらの為に、お笑いがやりてんだよ! それはおめぇから教わったことだぞ」
俺は、苛立ちながら言った。
だが、古川はお笑い舐めてんなよ、と静に返す。
「……少し前の俺とはちげーんだよ」
こいつは何が何でもお笑いの道に進む気だ。
家族と縁を切ってでも……
俺は自分の家族を思い浮かべた。
父ちゃんや母ちゃんは、トラックの運転手になることを望んでる。
他人事じゃねー。
お笑いの道に進むなんて行ったら、父ちゃんにぶち切れられるに違いない。
(俺は……)




