説得
もはや嫌な予感しかしねー。
メガネを掛けると再び建物の屋上。
(また自殺する奴がいんのか?)
案の定というか、建物の縁に足をかけて身を投げようとしている人影を発見。
俺は慌てて声をかけた。
「だーっ、やめろーっ」
「……」
相手はこちらに気付いたが、また顔を正面へと向ける。
無表情だし、視線がお空の方を向いてやがる。
正気じゃねー。
あのまま飛び降りる気だ。
しかもこいつはリアルに存在する奴。
ここで止めねーと、人一人見殺しにしたも同然だ。
(ちっきしょ!)
俺は心の中で毒づいてから、思い切り叫んだ。
「俺を見ろーっ」
「……?」
「コマネチ!」
「……」
とりあえず俺は、ビート○けしの定番の物まねを繰り出した。
しかし、効果無し。
再び飛び降りようとしてるのを見て、俺は再度注目を集め、思いつくことを片っ端からやった。
ZARDの「負けないで」を熱唱したり、とにかく、無我夢中だった。
しかし、人影は縁から離れる素振りを見せない。
「お前が飛び降りたら俺も死ぬっ」
俺は地面に頭を打ち付けた。
「うおおおおおおおーっ」
何度も何度も地面に頭を打ち付けた。
血がボタボタ滴り、血だまりができる。
それでも地面に頭を打ち付ける。
「うおおおおおおおーっ」
「ちょ、やめて下さい」
「うおおおおおおおーっ」
「やめろっ」
拳が顔面にめり込む。
「えっ……」
ハッ、とすると、目の前に女性がいた。
「アンタ…… 自殺やめてくれたのか?」
「あなた、一体何なのよ……」
俺たちは地べたに座り込んで話をした。
相手の名前は山吹桜で、年は25っつー話だ。
何でも、彼氏と上手く行かなくなって、会社も身が入らなくて退社したらしい。
「それで自殺かよ」
「……でも、ちょっとは落ち着いたかも。 だって、いきなり死のうとしてるんだもん」
ぷっ、とその場で笑う山吹桜を見て、俺はほっとした気持ちになった。
「自殺なんてすんじゃねーぞ。 ったく」
「……考えとく。 でも、何でこんな風になっちゃったかなぁ~、私。 学生の頃に戻れたら戻りたいよ」
「……寝ぼけたこと言ってんなっつの」
まるで、未来から来た俺じゃねーかよ。
仮に、一瞬だけ未来を変えても、自分が変わらねーと同じ過ちを繰り返すんじゃねーか?
「……もし付き合う相手変えたり、会社変えたって、お前に問題があったら同じじゃねぇのかよ?」
山吹桜は黙り込んだ。
そして、目に溜まっていたものを拭うと、ボソリと呟いた。
「簡単に変えれないから、苦労してるんだよ」
「……」
俺だってまだ18だし、知った風なことは言えねーけど、少なくとも過去を変えるやり方が違うのは分かる。
ドラ○もんをディスる訳じゃねーけど。
失敗して学習してまた失敗して……
「その先で辛くなったら、俺を見に来いよ」
「え……」
「笑い飛ばせばいいんだよ、全部。 俺、4月からお笑い始めっから」
そうだ。
過去は変えられねーから、お笑いの存在意義があるんだ。
辛くなったらお笑いを見て笑えばいい。
山吹桜は頷いた。
「分かった、見に行く」
すると、画面の右上の方に充電のマークが点滅し始めた。
やべっ……
「俺、もう行くわ」
「待って、芸名だけ教えて!」
芸名!?
何も考えてねーよ!




