未来から
その日の夜は、妙に興奮して寝付けなかった。
(卒業式まで後一ヶ月か……)
俺は、布団から這い出ると、その場で軽くジャブをした。
シュ、シュ、と口の中で小さく呟く。
(……)
俺は徐に部屋の中を見回した。
そして、ハンガーラックの横に来ると、内側から手を出して、何でやねん、と囁いた。
(……練習しとかねーとな)
何でやねん、何でやねん、とハンガーラックに掛かってる学ランを、相方に見立てる。
俺は想像した。
古川の奴と一緒に、卒業式の舞台で漫才をしている姿を。
俺が何でやねん、と言うたび、会場がどっかんどっかんウケる。
爽快な光景。
最後の挨拶で俺たちはお笑いのコンビを組み、M-1でてっぺんを取ると宣言する。
(にへへへへ……)
ヨダレを垂らして恍惚の表情を浮かべていると、おほん、という咳払いが聞こえた。
「なっ、な、な、誰っ……」
余りに驚いて、俺はその場で尻餅を付いた。
部屋の入口に、誰かが突っ立ってやがる。
顔はよく見えねーが、男か。
まさか、泥棒!?
「てんめっ、やんのかコラア!」
内心ビビりまくりだったが、俺は何とか声を張り上げた。
すると、男が喋った。
「落ち着けって。 俺はお前だ」
「……はぁ?」
「俺は、お前なんだよ。 未来から来た、お前だ」
訳の分からないことを言っている。
男が部屋の明かりを点けた。
すると……
「え、気持ち悪っ……」
男は俺と瓜二つ。
全く同じ顔をしている。
若干、日に焼けてはいるが……
男が喋り始めた。
「信じて貰えねーかもだが、俺も桜木向日葵なんだよ。 お前の3つ上で、今はトラックの運転手をしている」
「トラックの運転手……」
正直、未来から云々は信じらんねー。
俺は、これは夢だと思って相手の話に乗ることにした。
「トラックの運転手って、お笑いはどーなったんだよ」
「……潰えたよ。 卒業式の日にな」




