帰宅
俺は帰りがけ、タバコの自販機の前に立ち止まり、ケツのポケットにねじ込んでいた財布を取り出した。
千円札を抜き取ろうとして、愕然とする。
「……しまった」
そうだ、麻雀で野バラにコテンパンにされて、千円渡しちまったんだ。
残りは…… 50円玉一枚と10円玉が一枚。
俺は、チッ、と何回か舌打ちして、そのまま家に帰ることにした。
(缶ジュースも買えねーとか、クソッ)
あまりにも口が寂しかった為、道中、駄菓子屋でココアシガレットを購入。
余った金で地元のガキ共にうまい棒を買ってやると、いよいよ残金は0になっちまった。
俺の家は団地のアパートの3階にある305号室。
そこに父ちゃん、母ちゃんと住んでる。
「ただいま」
玄関を潜り、リビングに進むとと父ちゃんが新聞を読みながら倚子に腰掛けている。
「おっ、今日は餃子?」
俺が弾んだ声で聞くと、丁度母ちゃんが餃子を運んできた。
「ほら、先に手洗ってきなさい」
「うーっす」
急いでトイレの洗面所で手を洗い、倚子に座ると俺はいっただっきまーす、と箸を取って餃子にありついた。
すると、新聞を読んでいた父ちゃんが俺を呼ぶ。
「向日葵、学校卒業出来るんだろうな」
「……ぐふっ」
唐突にそんな質問をされて、思わずむせ返る。
「だ、大丈夫、ごほっ、ごほっ……」
父ちゃんがメガネの奥から俺をじっ、と見やる。
そして、それならいいが、と新聞を折り畳み、醤油を小皿に落とす。
「卒業後の進路、お前、何も決めてないだろう。 どうだ、父ちゃんの会社で一緒にトラックの運転手、やるか?」
「……え?」
トラックの運転手……
確かに、少し前の俺なら惰性でそのままなってたかもしんねー。
だけど今は……
俺が悩んでいると、母ちゃんが割り込んできた。
「ひまちゃんはトラックの運転手が向いてると思うわよ。 ね、一緒にやってみたら?」
「……卒業式が終わるまで、少し考えさせてくれよ」
俺は餃子をありったけ口に頬張ると、部屋へと戻った。
自室に戻ってくると、俺はスマホを手にした。
俺はお笑いをやってみてー。
このまま卒業出来たら、お笑いの養成学校に入って、野バラの言っていた人気になるための登竜門、Mー1グランプリっつー大会に出る。
だけど、そんなに簡単じゃねーことも分かってる。
だから、俺は自分に制約をかけることにした。
卒業式の舞台で笑いを取れなかったら、大人しく諦める、ってな。
(野バラの奴、でっかな)
スマホから何回かコールをかけると、何だよ、と不機嫌そうな声。
「野バラか? 飯時にわりーな。 おめー、相方の話は進んでんのか?」
「……ああ、そっちはもう出演要請がすんでる。 多分、お前にとってもサプライズになると思うからよ。 期待しとけ」
そのまま、プツ、と通話が途切れる。
俺は、相方の目処は大方付いていた。
(相方はアイツしかいねーだろ)




