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第五話

「……散れ」


 メアリーはこれ以上の意思疎通は無駄だと、吸血鬼の周りに剣を展開する。兵士の吸血鬼を倒したあの技だ。

 手のひらを握ると、相手に向かって刃が襲いかかる。

 すべてが命中し、血飛沫となって飛び散った。──そう思えた。


「やったのか……?」


 呟くミュンヘルの襟を掴む。彼を引っ張って、雑に横へ投げる。

 先ほどまで彼がいたところに、赤い光線が放たれた。地面を穿ち、大きな穴を作る。

 着弾地点を見ると、地面が溶けていた。命中すればどうなるか、ゾッとしない。


「僕ちんの攻撃を二回も躱すなんて、許せないなぁ」


 声のするほうに、血の剣を振るう。確かな手応えで斬ったはずだが、吸血鬼の体は血みたいに崩れていった。


「……ちっ」


 舌打ちをして、一歩退いた。メアリーの立っていたところから茨のようなものが生え、周囲を引き裂いた。

 わずかに間に合わず、左腕が持っていかれる。


「あはは! 君、弱っちいね!」


 その言葉に挑発されるように剣を振るうが、やはり彼の体は液体となって消える。


「相手はメアリーだけじゃないぞ!」


 ミュンヘルが叫び、聖水瓶を投げる。油断していた相手は、頭からもろに浴びた。

 しかし、燃え上がる気配すらない。


「痛いなぁ……餌風情が調子に乗らないでくれる?」


 ミュンヘルのほうに向き直る吸血鬼。その彼の体を貫いた。

 どうせ効かないだろう。しかし、ミュンヘルに向かわせるわけには行かない。そんな想いの一撃だった。


 相手の体は、液状化しなかった。口から血を流し、こちらを肩越しに睨んでくる。


「なるほど、聖水を被ると液状化できないわけね」


 小さく告げるメアリーの声に、彼は伸ばした爪を薙いだ。頬をかすめて傷はついたが、メアリーは避けることはできた。


「分かったところでなんだい? だったら聖水に当たらなければいいだけだろ?」


 余裕の笑みを浮かべる吸血鬼を前に、メアリーは左腕に力を入れる。自然治癒能力を加速させて、腕を再生させた。

 

 奴の弱点を知ったミュンヘルは、聖水の小瓶を投げ続けている。しかし、茨がすべて邪魔して当てることができていない。


「ミュンヘル! 霧状にして散布するとかできないの!?」

「出来るわけないだろ! 霧吹きじゃあるめーし!」

「……ちっ、使えない」


 正直な話、相手の弱点がわかったところで……勝ちきれない。このままでは消耗戦になってしまう。


「ほらほら、どうした? 僕ちんを倒すんだよね?」


 彼が挑発するように細い光線をばら撒いてくる。メアリーはそれを何とか防ぐのに手がいっぱいだ。

 後方のミュンヘルもやけになって小瓶を投げ続けているが、届かない。


「ねぇ、ミュンヘルが言ったよね?」


 しかし、メアリーは冷静に告げる。


「相手は私だけじゃないって」

「負け惜しみだね? あはは!」


 嘲笑う彼の頭上から、突然、聖水が振り注いだ。訳が分からないとでもいうように、吸血鬼は上を向く。

 メアリーの剣が重なり、青い火がついている。そこから聖水が垂れていた。


 ミュンヘルが適当に投げていた小瓶──その中身を、メアリーは集めていたのだ。


「私、これでもほとんどの弱点を克服しているの」


 多少なりとも痛みはある。しかし、能力が弱体化するほどではない。


「待て! 僕の話を、そうだ主様の位置を教えてや──」


 言葉の途中で首を刎ねる。宙に舞った首は、数メートル先で転がった。

 こちらを見つめる顔は、悔しさで歪んでいる。



※※※※※※※※※※



「おいおいおいおい、殺したのか? せっかく祖の情報を吐こうとしてたのに」


 頭と切り離された吸血鬼の体は、灰となり消えていく。


「うるさい、黙って」

「黙ってじゃねぇよ。せっかくの貴重な情報源を」

「どうせ喋らないよ」


 彼は狡猾に生き残ろうとする。祖の情報を喋ってしまえば、祖に殺されることも分かっている。だからこそ、奴の言葉は信用してはダメなのだ。

 ため息をつくように、ミュンヘルがしゃがみこんだ。


「にしても、百人喰った吸血鬼の力はえげつねぇな」

「たった百人よ」

「……そう言い切っちゃうお前もえげつねぇよ」


 ため息混じりに言うミュンヘルは、懐から紙を取り出した。何かを書き込んでいる。


「何をしてるの?」

「いや、教会に報告しとこうと思ってな」

「……それはやめといたほうがいいわよ」

「なんでだよ。村一つなくなったんだぞ? 報告しないわけにはいかないだろ?」


 首を傾げるミュンヘルに、メアリーは詰め寄る。


「聖水に細工を施してまで吸血鬼に襲わせたのよ? そんな教会に報告してどうなるの?」

「……まさかお前、教会に混じってるって言いたいのか?」

「その可能性が高いわね」


 ミュンヘルは少し納得いってない様子だったが、紙をしまう。

 それでと、彼はメアリーを見やった。


「取り敢えずいくつかの村に向かう。もっと確信が欲しいから」

「へいへい。当然俺もついていくからな?」

「……勝手にしなさい」


 歩き出すメアリーに、ミュンヘルは遅れて追った。

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