トリッキーな解決策
クロエを守るため、僕とレイは、ずいぶん長いことスライムを追い払い続けた。
クロエは自動回復でHPが回復したらしく、むくりと体を起こすと。
「あー死ぬかと思った!」
その声には普段の元気さが戻っていた。
「それにしてもあの赤いスケルトンどうしよう?」
僕は二人に相談してみた。
「今の俺たちじゃ、あいつらと戦うのはきついんじゃないか?」
「だよね」と、僕は返した。
するとクロエが何かを思い出したように。
「レイって何かスキル覚えてなかったっけ?」
「そういや、ディヴィジョンってやつ覚えたな」
「それ試してみれば?」
「うーん。でも俺のスキルってハズレが多いしな……」
「いいじゃん。物は試しだよ。なんでもやってみなくっちゃ」
僕はレイの背中を押した。
「そうかあ? じゃあ、いっちょ行ってみるか」
ということで、レッドスケルトンに、レイの新スキルを試してみることになった。
「ディヴィジョン!」
レイがスキルを使った瞬間、レッドスケルトンが黒い霧に包まれる。そして……。
『レッドスケルトンは分裂した!』
なんとレッドスケルトンが2体に増えてしまった。
「げぇっ!? 何だよこのスキル!」
「そ、外へ逃げよう!」
「きゃー!」
さっきのバトルでレッドスケルトンに、こっぴどくやられたクロエは、猛ダッシュで扉の外に逃げ出していく。
僕たちは、再び鉄扉を固く締めた。
「ちょっと面白枠ぅ!?」
クロエがレイに向かって口をとんがらせる。
「やめろ! 変なイメージをつけるな!」
「んっもー! 一体でも勝てないのに増やしてどうすんのよ!」
「いや、そんなこと言ったってよお!? アル、何とか言ってくれ!」
「さすが面白枠」
「アルまで!?」
「さすがに、あの赤いスケルトンはあきらめるしかないかなぁ?」
「そうだね。危険すぎるから、もう手を出さないほうがいいと思う」
「骨狩りできないってことは、経験値が少し減っちゃうね」
「今の僕たちならスライムを倒すだけでも結構稼げるよ。レベルが上がって火力がうんとあがったからね」
火力やスピードが上がった僕たちは、かなりの速さでスライムを倒せるようになった。スライムの経験値がたとえ1だとしても大量に倒すことさえできれば、それなりに稼げるのだ。
レッドスケルトンは今の僕たちでは到底手に負えない強さだ。残念だけど、あきらめるしかない。
弱点であるはずのファイアでさえ倒しきれなかったからなあ……。それに、レッドスケルトンは攻撃力がありえないくらい高い。クロエですら簡単にひん死の状況に追い込まれてしまったほどだ。僕やレイだと、たぶん一発でアウトだろう。まともに戦い合うのは危険すぎる。
なにか安全に倒せる方法があれば、良かったんだけどなあ。
……いや、ちょっと待てよ。
「そうだ! ポイズンシャボンを使えばいいんだよ!」
「ポイズンシャボンを? でも、あのスキルは、敵を倒すまでに時間がかかるぜ? あんな強い奴らと長時間やり合うのは自殺行為だぞ」
「その点も、大丈夫! レッドスケルトンたちに毒をかけたら、すぐに逃げて、扉を閉めちゃえばいいんだ!」
「……めちゃくちゃずるくないか?」
「ちょ、ちょっと卑怯だけど、でも安全だよ?」
「そんなにうまくいくかなあ?」
「わからない。でもやってみる価値はあると思う」
「……よし。アルがそこまで言うなら試してみるか」
僕は砦の鉄扉に手をかける。
「いいかいレイ。僕が少しだけ扉を開くから、隙間から砦の中に向かってポイズンシャボンを打ち込んでくれ」
「了解だ」
「……いくよ」
心臓が高鳴る。僕たちは、さっきボコボコにされた相手と再び相まみえようとしている。鉄扉を握る手が震えているけど、僕は構わずに扉を引いた。
鉄扉がわずかに開く。中に2体のレッドスケルトンがいるのが、隙間から見えた。
「ポイズンシャボン!」
レイの口から毒々しい色のシャボン玉が無数に飛んでいく。毒色シャボンは鉄扉の隙間から音もなく砦の中に忍び込むと、骨たちを包み込んでいき、パチンと割れた。
『レッドスケルトンたちに毒を与えた!』
「よし、成功したぜ!」
僕は急いで鉄扉を閉めた。
鉄扉に三人並んで背を預けて、事の成り行きを見守る。
「ほ、本当にうまくいくかなぁ?」
その答えは、ほどなくして出た。
『レッドスケルトンに毒ダメージ!』
半透明の青いウインドウが、レッドスケルトンの状況を伝えてくる。
「おお! 効いてる!」と、僕。
どうやらうまくいったらしい。砦の外に逃げても、毒の効果は継続するようだ。
ウインドウは10秒ごとに毒ダメージを伝えてきた。
その状態で数分待っていると……。
『レッドスケルトンたちをやっつけた!』
EXP200 ゴールド200
『アルはレベル16になった!』
『レイはレベル16になった!』
『クロエはレベル16になった!』
「やったあ!」
「すっげえ経験値とゴールド!」
今までに見たことのない量の経験値とゴールドだ!
僕はモンスター図鑑を開いた。
No.003 レッドスケルトン
HP 400
EXP 100
ゴールド 100
スケルトンが骨状態から30回復活することで変化した姿。高い攻撃力と守備力を兼ね備える。倒すとバラバラに崩れて骨状態になり、10分すると復活する。炎弱点。
「レッドスケルトンも10分すると復活するみたいだね」
「え、てことは、レベル上げがめちゃくちゃ早くなるね!」
「でもさあ、ハメじゃん、これ。いいのか?」
「いいんだよ! あいつ、めちゃくちゃ強いんだから! 最強税だよ!」
さっきボコされただけあって、クロエの鼻息が荒い。有無を言わせぬ口調でレイを睨みつけている。
「わ、わかったよ……」
さすがのレイも、おとなしく引き下がるしかなかったようだ。
「ねえ、骨が復活するまでスライム狩りしようよ!」
「いいぜ。じゃあどっちが先にスライムを10匹倒せるか勝負だ!」
「ふっふっふ。怪力の私に勝負を挑むなんて、命知らずな!」
僕はレイとクロエにスピードをかける。今の二人は一撃でスライムを倒せるからパワーの魔法はかける必要がない。ちなみに勝負の結果は、レイが10匹倒したタイミングで、クロエは4匹だった。一撃で倒せるだけの火力があれば、あとは素早さの勝負になってくる。クロエよりも圧倒的に早いレイが勝利するのは、当然と言えば当然の結果だった。
近くのスライムは二人が狩りまくってくれるので、僕は遠くにいるスライムをファイアで倒す。うまい具合に役割分担が機能している。なんだかいい感じのパーティープレイだ。
そして骨が復活したタイミングで扉の隙間からポイズンシャボン→扉を閉める、のコンボ。そして、すかさずスライム狩り。僕らは、このルーティーンをひたすらこなす。そうこうしているうちに、辺りは夕方になっていた。なんとそのころには、僕らは27レベルまで上がっていた。旅立ち初日でこのレベルへの到達は、多分異常に早いんじゃないだろうか。
「結構遅くなっちゃったね」
僕は二人に言った。
「そろそろ村に帰るか?」
「でもさー。村まで結構遠いよね?」
クロエは、帰るのがダルそうだ。
「まあなぁ。……ん?」
レイが何かに気づく。
「なあ、砦の外壁に階段があるぜ」
本当だ。言われるまで気づかなかった。
骨が閉じこめられている砦には、外壁に階段が備え付けられていて、屋上に上がれるようになっていた。
僕らは階段を上って、屋上にやってきた。どうやら、ここまではスライムたちも上ってこないようだ。いわゆる安全地帯ってやつだ。安全も確認できたので、僕らは、その場に座り込んでくつろぐことにした。
「じゃ、今日はここでキャンプだな」
「さんせーい! 明日こそはレベル100になる!」
「さすがに無理だろ……。レベル100って言ったら大陸最強クラスだぞ」
「ははは……」




