謎のモンスター
まいったなあ。二人に比べて僕のステータスが貧弱すぎる。
「正直言って僕は、しばらくの間、戦力になれないかも。攻撃力と守備力が低すぎるからね」
魔法使いは接近戦を苦手とする職業だ。だから魔法をメインに戦うんだけど、肝心の魔法を僕は一つも覚えていない。今のままじゃバトルでは活躍できないので、二人に頼るしかないかも……。
「けどさ、魔法使いタイプって魔法を覚えた瞬間、急に強くなるよな」
そう。レイの言う通り、魔法を一つ覚えただけで大化けするのも魔法使いの大きな特徴だ。
「強い魔法を覚えられたらいいんだけどね」
僕は心からそう思った。
「ワクワクしたきたー! アルはどんな魔法を覚えるんだろうなー」
魔法使いタイプは魔法を覚えるまでが、とにかくキツい!
だからなんでもいいから魔法を一つ覚える! それを今の目標にしよう。
レベルアップしたタイミングでクロエがスキルを覚えたところを見ると、レベルアップを重ねれば僕も魔法を覚えられるはず。そう思うと今すぐにでもレベル上げしたくなってくる。
ステータス強化という意味でもレベルアップは重要だ。そしてレベルを上げるためには経験値を稼がないといけない。と言っても、このヒロビロ平原にはスライムしかいないので、いかにあのぷよぷよをたくさん狩るかが重要になってくる。
ということで、僕はスライムを倒す作戦を立ててみた。
まず、最も素早さの高いレイが最初にスライムへ斬り込む。そしてスライムが転んだところで、クロエがトドメの一撃を放つ。たぶん僕らの戦力だと、現状ではこの作戦が一番いい気がする。レイは素早いからスライムの反撃をかわせるし、先頭に立って突っ込んでもそこまで危険は無いと思う。素早さにやや難のあるクロエも、転んだスライムになら攻撃を当てられるはずだ。クロエの攻撃力は僕たち三人の中で、ぶっちぎりに強いので、彼女の一発さえ当たれば、ほぼ確実にスライムを倒せる。そして僕は無理にバトルには参加せず、そばで二人のサポートに徹する。弱い僕が戦うことで、かえって足手まといになってしまうことを防ぐための判断だった。ということで、僕は、この作戦を二人に提案してみた。
「いいじゃん。やってみようぜ!」
「レイとのコンビネーションなら攻撃、当てられる気がする!」
二人は笑顔でOKしてくれた。なので、さっそく作戦を試してみたところ……これが面白いようにうまくいった! 僕らは――というかレイとクロエが――この戦法でスライムを倒しまくった。
『アルはレベル4になった!』
『レイはレベル4になった!』
『クロエはレベル4になった!』
『レイはスキル:スティールを覚えた!』
スティール
消費MP 1
効果 目にも止まらぬ早業で敵のアイテムを盗み取る。運が高いほど成功しやすい。
「よっしゃー、俺もスキル覚えた!」
レイがガッツポーズする。
「いいなあ」
レベルは上がったものの、僕はまたしてもスキルを獲得できなかった。
「まあ、そう焦るなって。アルもそのうち覚えるさ」
「ねえねえ、私、レイのスキル見たい!」
「じゃ、さっそく試してみるか!」
そう言うとレイは近くにいるスライムにスキルを発動させる。
「スティール!」
レイが叫んだ直後、その手が素早く動いてスライムに触れた……ような気がする。その動きがあまりにも速すぎて僕には手の残像しか見えなかった。
『何も持っていない』
レイの前に浮かぶウインドウが、悲しい事実を伝えた。
「なんにも無しかよ!」
スライムはアイテムを持っていないらしい。ということは、スライムにスティールを発動しても無駄、ということになる。
「まさかハズレスキルじゃないだろうな……」
「ぷっ」
レイのあっけにとられた顔がおかしくて僕はうっかり噴き出してしまった。それにつられてクロエも。
「あはははっ!」
クロエはわき目もふらず腹を抱えて笑っている。
「お前らなあ……。こっちは結構ショックなんだぞ」
「ごめんごめん。悪気は無かったんだ」
「ぷくくく……」
僕は謝って見せたけど、クロエはまだ笑っている。少しはレイの気持ちも考えてあげなよ、と思わなくもなかったけど、僕も笑ってしまったので人のことは言えない。ここは何も言わずに黙っておこう。
「……まあいいや。なあ、スライムとの戦いにも慣れてきたし少し遠出してみないか?」
レイがそんな提案をしてくる。今、僕たちがいるのはハジマリ村のすぐ近く。
「そうだね。このあたりの探索もしておいたほうがいいと思う」
ヒロビロ平原はかなり広い。探索をすれば、もしかしたら何かすごい発見があるかもしれない。
三人で話し合った結果、僕らはヒロビロ平原の北の方へ進むことにした。
「じゃあ北方面の探索をしてみよう」
「りょうか~い!」
そういうわけで、僕たちは本格的にヒロビロ平原の探索に乗り出した。めちゃくちゃ広いこの場所には、もしかしたら何かすごい秘密があるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、僕は平原を北に進む。それにしても本当に何も無いなあ。見通しがいいおかげで、敵からの不意打ちを食らう心配が無いのはありがたいけどね。あと景色もいいから長く歩いていても意外と飽きない。ちょっとしたピクニック気分だ。
「へい、お二人さん! 私の後ろに隠れな! 守ってあげっから!」
そう言ってクロエが先頭を歩きだす。
「へいへい」
「頼りにしてるよクロエ」
「ふっふっふ。素直でよろしい」
平原をある程度歩いたあたりで、はるか前方に小さな影がチラリと見えた。かなり距離が離れているので、その何かはゴマ粒のように小さく見える。目を凝らしてみる。……たぶん建物だな。調査もかねて、僕らはそこまで行ってみることにした。
たどり着くと、そこにあったのは砦だった。
「なんでこんなところに砦が」
石造りの小さな建造物を、レイが訝しげに見上げている。
外観をパッと見た限りでは、なんてことのない、ごく普通の砦のようだ。
「お化けとか出たりして?」
クロエは嬉々としながら物騒なことを言ってくる。
「怖いこと言わないでよ。……でもこんなところに建ってるってことは、何かしらの意味があるはず」
「もしかしたらお宝が眠ってるかもよ?」
レイの瞳はキラキラと輝いている。ワクワクしているのが見て取れる。
でも本当に宝物があるんだとしたら冒険の足しになるかもしれないし、調査はしておいた方がよさそうだ。
「……行ってみよう」
そう言うと僕は目の前にある巨大な鉄扉を引いた。
重い扉がギギギ……と建て付けの悪い音を立てて開いた。
砦の中は朝だというのに薄暗かった。まるで僕たちの前に急に闇が広がったようだった。
僕らは足元に気をつけながら、ゆっくりと中に進んだ。
砦の中は空気がひんやりとしていた。入り口で立ち止まって、周囲を観察してみる。上部には窓らしきものがいくつかあるけど、日差しは上のほうにだけ差し込んでいて、僕らのいる床のほうまでは、あまり光が入ってこない。だから僕らの目の前は結構薄暗い。キョロキョロしていると、少しずつ目が慣れてきた。ぐるりと一通り見まわしてみたけど、これといったものは見当たらない……。
――!
その時、視線の中で何かがうごめいた。
床の中央に何かがいる!
「グググ……」
その方角から、うなり声のようなものが聞こえてきた。
僕は声のした辺りを、目を凝らして見つめた。そこにいたのは……。
「ほ、骨だ!」
人型をしたガイコツのモンスターが砦の中央に立っている。
骨のモンスターは右手に剣を、そして左手には盾を持っている。
僕らの中で一番背の高いレイと同じくらいか、それよりもちょっとだけ大きい。
「何だ、お宝じゃないのか」
露骨に落胆した表情のレイが、残念そうにつぶやいた。
砦内にいるのは、このガイコツ一体だけで、他には誰もいない。そして宝箱らしきものも見当たらない。どうやら、この場所に財宝は無さそうだ。
そうこうしていると、ガイコツのモンスターが僕たちに襲いかかってきた!




