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第二話 邂逅

 二二日になった。

 約束通り、僕は集合場所にいち早くいた。

 集合時間は〇時。集合場所は学校の正門。現在二三時五〇分、僕意外誰もいない。

 辺りは闇に包まれていた。田舎ということもあり、外灯も少なく、民家も少ない。学校に灯りが点いているはずもなく、今僕を照らすことのできるものはこの手に持つ懐中電灯のみだ。

 すると一つの灯りがこっちへ来た。

「ちぇっ。プー太郎しかいねぇのかよ」

 そう言って現れたこいつ。斉藤隆史。背小さいくせにやたらと態度が大きい。

 斉藤が現れると、その他の奴も順々に現れた。僕も合わせて計六人、何をするのかは聞いていないが、容易に想像できる。

 夜の学校、懐中電灯、夏。間違いなく肝試しだ。

 と言うのも、この学校には固有の怪談話がある。きっとそれを面白がっているんだろう、こいつらは。

 でもなぜ僕まで呼ばれたのかが分からない。今まで一度も話したこともないのに。

「おーし。全員揃ったことだし、行くかー」

 五十嵐が指揮を執る。

 五十嵐を先頭に僕らは門を乗り越え、学校に侵入した。肥満体型の僕は乗り越えるだけで難関だった。

 そして入口に着いた途端、みんなが僕を押した。

「先頭はお前が行けよ」

「何のために呼んだと思ってんだよ」

「おら、さっさと行けよ」

「ニシシッ」

「早くしろよ」

 このためか。

 みんながみんな、口を揃えて僕を先頭に行かせたがる。怖がる僕を見て笑いのネタにしたいのだろう。お生憎、僕はそういったものは嫌いなんでね。

 バレないように舌打ちをして、僕は先頭を歩くことにした。

 入口は引き戸。ゆっくり開けると、外とは空気が全然違った。外のジメジメした暑さとは全然違い、中はクーラーでも効いているのかと疑うほど涼しい。懐中電灯のスイッチを入れた。

 僕の後に、五十嵐、斉藤、高木、西村、後藤の順に入ってきた。

 斉藤は背伸びをして間抜けな声を出している。

「うっひょー。やっぱ空気が全然ちげぇー」

 斉藤の声が変に響く。

「バカ野郎。ムード壊すんじゃねぇよ」

 後藤が斉藤を叩いた。その音もよく響く。

 後藤祐樹。彼は空手部に所属している。

「おめぇも音でけぇよ」

 西村がゲラゲラ笑う。

 西村亮太。彼は至って普通の、特に何もない人だと思う。

「全員だな。静かにしよーぜ」

 五十嵐が注意する。取り敢えず、全員声がでかい。

 しかし、一人だけ何も言わずに入ってきた。

 高木辰丸。自称霊感強い奴。この中では無口な方に入る。

 全員が入ってきたことを確認して、僕は懐中電灯で周りを確認した。目の前には靴箱。その先は階段と廊下に別れていた。

「どっちに進む?」

 僕はみんなに聞いた。

 するとみんなも懐中電灯のスイッチを入れ、みんなで階段の方を指した。

 言われるがままに階段の方へと進んだ。

 階段をゆっくり、一段一段上っていく。校舎に入ってまだ五分程度だが、まだ何も起きない。こいつらが期待しているようなことは一つも起きなかった。いや、違う。まだ目的地に着いてないんだ。

 事件は唐突に起きた。

 みんなが階段を上りきり、二階に上がった瞬間だった。

 遠くで扉の開く音が聞こえたのだ。

「や、やべっ。警備員か?」

 五十嵐が警戒した。その言葉にみんなも警戒した。

 一気に静まり返った校内には何も音はしなかった。外灯もないため、窓から差し込む光は月のみ。数メートル先は真っ暗だ。

 かなり警戒していたのか、二分以上はその場で身を潜めていた。その間、足音は聞こえなかった。

 警備員はいないと踏んで、進むことにした。

 周囲に響くは僕たちの足音だけ。完全に油断した。

「おい、誰かいるのか?」

 大人の男の声。

 廊下の先から聞こえた。

「やばい、警備員だ! 逃げるぞ!」

 五十嵐が小さく合図した。

 そして俺たちは全員その場から逃げだした。

 しかし、肥満体型とは不利なものだ。あっという間に他の奴らから引き離され、一人ぼっちになってしまった。パニックになってしまったために、ここがどこなのかも分からない。懐中電灯も途中で落としてしまった。最悪だ。

 取り敢えず歩くことにした。警備員に見つからないように慎重に。

 少し歩いた。恐ろしいほどにここがどこか分からない。

 さっきまでは月明かりがあったから、多少は見えた。

 しかし今は月が隠れているせいか、月の光が入ってこない場所なのか、全くと言っていいほど前が見えない。早くここから出ないと警備員に見つかるかもしれない。

 少し進むと、室名札が見えた。暗くてはっきりと読めないが、ここは教室らしい。

 すると、廊下の前方から音が聞こえた。

 ヒタッヒタッヒタッ

 ゆっくりと、まるで裸足で廊下を歩いているような、そんな音だ。

 こんな時間に裸足?

 きっとあいつらだ。上手く警備員から逃げられたから、僕をぼっちにして怖がらせてるんだ。

 そう思い、僕は音のする方向に足早に進んだ、真っ暗闇の方向に。

 段々と前方に何かいる気配を感じることはできた。それが誰かは分からないが。

 こんなことしてからかうとしたら、誰だ? 斉藤か? 高木か?

 そんなことを考えていると、廊下に光が差した。窓から月明かりが入り込んだのだ。

 その瞬間、僕は音の主を目で確認することができた。

 僕の全く知らない人。白いワンピースを着た、僕と同い年くらいの女の子。白く透き通った肌がとても綺麗だった。

 その顔を見た瞬間、心臓が今まで止まってたんじゃないかってぐらいに動きだしたんだ。

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