表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された勇者は他人の頭を装着する ~アン〇パンマンじゃあるまいし、頭を交換するなんてあり得ます?~  作者: 貝ひも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/25

第7話 弱肉強食、もとい焼肉成仏

ダンジョンの探索そのものは、そう長くはかからなかった。

内部の空間は広かったが、罠も、他のモンスターもいなかったからだ。

「〈アーティファクト〉がない……」

「アンデッドも消えた。訳が分からん」

「ほんとに何がどうなってんだか、さっぱりだな」

男三人は、最後までダンテの顔色を窺いながらぼやいた。

だが、迂闊にダンテを疑うのも難しい話だった。

実際、みすぼらしい身なりに、武器も、鞄もない。

目つきはなかなか鋭く見えるが、特別な技があるようにも見えない。

こんな男が「あのアンデッド」を仕留めて、〈アーティファクト〉を持ち去れただろうか?

「ですよね。〈ライト〉を直接吸収した時点で、特殊なアンデッドだとは思ってましたけど……。まさか、〈バロウ〉みたいなスキルで隠れたんでしょうか?」

特殊なアンデッドだった。

自分たちが一度退却して、出直さねばならなかったほどに。

(この優男が一人で倒せたはずがない)

(そうだ、あり得ん)

そんなものを、顔だけはいいこいつが一人で狩れたはずがない。

自分たちへの防衛機制と、ダンテへの嫉妬が、彼らの思考を邪魔している最中だった。

もちろんダンテは、彼らが何を考えているかなど、気にも留めなかった。

「〈ライト〉を吸収した? アンデッドが?」

「はい。普通、アンデッドって魔力とは縁遠いじゃないですか? なのに不思議なことに、魔力を吸い込むアンデッドがいたんですよ。リッチでは絶対なかったんですけど」

「ああ」

ダンテの目が丸くなった。

その驚く様子に、エレナはぷふっ、と可愛いものでも見たように笑った。

三人の男も笑った。

「リッチが何か、アンデッドの特徴がどうか、分かりでもするのか?」

「薬草採りにそんな説明したって、通じるわけないだろ、エレナ」

「ぷはははははっ!」

もちろん、口角のねじ曲がった嘲笑だった。

「や、やめてください! 失礼ですよ……!」

エレナは三人の男を睨みつけて止めたが、ダンテはやはり気にも留めなかった。

すでに重要な手がかりは、確保したのだから。

『俺が急に目覚めたことと関係があるはずだ。意識を失っていて、魔力が補充されて自我が戻ったなら。それはアンデッドの時だけ、そうなるのかもしれん』

頭を装着している今は、〈ライト〉の光は吸収されていない。

それに、吸収するのは〈ライト〉だけではないはずだ。

『散らばったマナじゃない。すでに魔法として具現した魔力だ。それを吸収した、と』

炎系統の魔法も、吸収したんじゃないか。

『魔力が増えた理由は、それだったか』

ほぼ正解に近い推論を終えるまで、そう長い時間はかからなかった。

そして、ずっと口をつぐんでいたダンテの横顔を、エレナは堂々と見つめている最中だった。

「こ、こうして会ったのも縁ですし、この先の村で、食事でもしていきませんか?」

そして、ぎゅっと目をつぶりながら言う彼女。

その提案に目を剥いたのは、やはり三人の男たちだった。

「エレナ! 何を言い出す!?」

「縁だと!? こんなろくでもない縁があるか! 〈アーティファクト〉も見つからなかったってのに――」

「そもそもこの男は、冒険者の名札もない! 武器もなし! 正体も不明なんだぞ!」

「それで、皆さんは食事をしたくないってことですか?」

男たちの激しい抵抗にも、エレナは一歩も引かなかった。

当のダンテとしては、ありがたくもあり、理解不能な態度だった。

『この女は、なんでこうなんだ?』

《言ったじゃないですか。俺に惚れたからですよ。若い頃から、女はみんなこうだったんですって。えっへん》

再び聞こえてくる、美青年の声。

確かに彼の頭を肩の上に載せているのに、口の動きは感じられないまま、声だけが聞こえてくる奇妙な感覚。

ダンテは、鼻で笑ってやろうとした。

『若い頃って、お前、どうせ二十歳そこそこの――』

《ぐへへ、そのうち、お偉い方の耳にまで入っ……て……?》

『ん?』

《それで、どうやって……。俺を呼びつけて、閉じ込めて……?》

だが、どこかぎこちなくなったその口ぶりに、それ以上は声をかけられなかった。

何より、すでに〈帰還スクロール〉を差し出すエレナがいた。

「行きましょう、行きましょう!」

ダンテとしては、断る理由がなかった。

近くの村へテレポート。

そこで確かめねばならない。

『時間はどれだけ過ぎたのか。俺はいったいどこに……なぜ、あそこにいたのか』

自分の『処刑』以降、何が、どれほど、どう変わったのかについて。


『……ああ、それと。村に着いたら、肉だな。確かめたいことも、あるし』

五人は同時に、スクロールを破った。


* * *


ダンテはわずかな衝撃を抑え込むためにも、立て続けにジョッキを傾けねばならなかった。

《ぐはあ、久しぶりの酒が……なかなか――》

『静かに。しばらく喋るな』

《――はいっ》

顔のいい青年のお喋りが聞こえたのも束の間、ダンテはすぐに彼を黙らせた。

「おにーさんはお酒が好きなんですね? そんなに豪快にごくごく飲む人、初めて見ました」

ごく、ごく、ごく。

エレナの言葉を聞いた重装備の男が、すさまじい勢いでビールを流し込んだが、エレナはそちらを見向きもしなかった。

ダンテはただ、衝撃を噛みしめていた。

『五年、か……』

断頭台で処刑されてから、五年。

その五年間、あの湿っぽいことこの上ない洞窟にいたのか。

エレナの〈ライト〉を燃料代わりに吸収するまで、頭のないアンデッドとして?

『……おかしい。そもそも、俺があそこにいる理由がない』

処刑式は、皇太子アルデリオンが直々に執り行った。

処刑した死体を洞窟に捨てる? あり得ない。

『それに、仲間たちの襲撃事件についても知られていないとはな』

エレナ一行は、ダンテの処刑については知っていながら、仲間たちが起こしたはずの騒ぎについてはよく知らなかった。

あれほど衆目があったのに?

どれだけ徹底して口止めをすれば、そうなる?

『仲間たちが俺を助け出して口止め……ってわけでもないだろう』

それも筋が通らない。

彼らが、自分を洞窟に放置するはずがないのだから。

ダンテは再びビールを注文し、すぐに呷った。

ぐびぐびと飲むその姿を見ながら、エレナはそっと椅子を引き寄せて座った。

「ねえ、話してくださいよ、おにーさん。もともとこの辺の出身? 体つきを見ると……ただの薬草採りじゃなさそうだし」

「どうせ木こりか農夫――。んんっ、分かった。静かにする。ちぇっ」

「おい! レッドブルでも狩りに行ったのか!? 肉はいったいいつ出てくるんだ!?」

嫉妬混じりの不平を漏らしていた男たちは、エレナの眼差しを受けて、その怒りを酒場の店員にぶつけるしかなかった。

ダンテは、何の答えも返さなかった。

「話したくないなら、歳だけでも教えてください。おいくつなんですか?」

だが、この質問には思わず、ぽろりと言葉がこぼれてしまった。

「もう四十一になったか」

処刑から五年が過ぎた。

生きていれば、ついに四十一歳。

『誕生日が過ぎていようがいまいが、確実に……確実に四十を超えたんだ。この俺が!』

実際には人とまともな交流もできず、こもりきりで八年を過ごしたのだから、社会的な成長と呼べるものは二十八歳で止まってしまったが。

普通の人生を今まで生きてきたなら、ついに四十代に突入したという意味。

パーティーのリーダーは、思い切り顔をしかめた。

「何をふざけたことを――」

「きゃはははははっ! おにーさん、ほんっとうに面白い! 冗談もそんなに上手なんですか?」

だが、酒場が揺れんばかりに笑うエレナの声が、すべてを飲み込んだ。

エレナのパーティーメンバーは、しばし呆然とした。

「……今の、面白かったか? エレナを笑わせるのって、あんなに簡単だったのか?」

「聞くな、苛つくから。ああ、来たぞ。飯にしよう」

その間に、ついに野生の赤牛の鉄板焼きが運ばれてきた。

一瞬だった。

ぱっ──────……。

「え?」

「う、うん?」

「何が……」

「ん?」

エレナとパーティーメンバーだけではなかった。

当の本人、熱々に焼かれて鉄板に載った肉を素手で掴み取り、口で食いちぎっている。

「むぐうっ?」

ダンテすらも、当惑していた。

体が? 勝手に?

動いている理由は?

《これだ……これなんだ……。この味が、ずっと食いたかった》

『お、お前、どうなって――』

《俺の名は、ザーク……。ありがとうございます、ダンテ様。これでもう、思い残すことはありません》

『――何?』

確かめるつもりではあった。あったが……本当に、たかが焼いた肉一つで?

だが、無視することはできなかった。


【等級F、ザークの怨念を解消しました】

【ザークの能力を吸収しました】


システムメッセージが、表示された。

本日もお読みいただき、ありがとうございます!

朝の更新は今日が初めてです。通勤や通学のお供にしていただけたら嬉しいです。

ザークの一番の未練が「よく焼いた肉」だったこと、書いていて一番楽しかった回でした。

続きは、今夜10時20分に投稿します!

【ブックマーク】や【評価】での応援も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ