第35話 イカれた男(満場一致)
ザークの大騒ぎの中でも、ダンテは冷静に行動した。
「〈肥汲こえくみ〉!」
二振りの剣で、シャベルですくうように、ずぼり。
ふっ、という音とともに宙へ放り上げた時、その目に見えたのは、すでに数百個を超えた砂利だった。
ダンテは今度こそ、力の限り剣を振るった。
砂利を作り、それをすくい上げた。
残るは?
「〈すり潰し〉!」
さらに細かくして、それをばら撒くこと。
〈採石〉――消費MP:5
つるはしではない道具でも、石を細かく砕くことができます。ただし、武器の耐久度の消耗が早まります。
〈肥汲み〉――消費MP:5
一度により多くの肥やしを汲めるようになります。熟練の職人は手のひらだけでも、大きなシャベルで糞を汲むのと同じ効果を出すと伝えられています。
〈すり潰し〉――消費MP:5
対象を細かく潰し、粉にします。対象が硬いほど、何度も潰す必要があります。
それを何と表現できるだろうか。
砂漠に吹く砂嵐? いや、「砂」などとは違う。
数十万個の、小さな小さな石の粉。
まるで煙幕のようにダンテの姿を覆い隠すその石粉の中へ、数千匹のフェアリーたちが混ざり込んだ。
続けて、青黒い斬撃もまた到達した。
何が、何を斬っているのか。
外からは観察できなかった。
ただ悲鳴と、騒音と、気合と、弾ける音、砕ける音、裂ける音が、同時多発的に起こるだけだった。
────────────……
騒ぎは、そう長くなかった。
だが、石粉の嵐がすべて収まるまでには、それなりの時間が必要で。
ついに薄暗い月明かりの下、その内部が明らかになった時、それを見つめていた二つの存在は、同じ単語で、異なる感情を表現してみせた。
「イカれた男!」
「イカれた男!」
エバとドレニアンの声の中で、ダンテは言った。
生きて出られなかったかもしれない戦場を、くぐり抜けた勇者の声で。
「おいこら、〈スターダストフェアリー〉って召喚物だから経験値くれないやつだったのか? 先に言えよ! レベル上げも兼ねて、わざわざ相手してやったのに!」
「イカれた男……」
「イカれた男……」
今度はエバとドレニアンが、同じ単語で、同じ感情を表すことができた。
* * *
「〈聖剣〉も〈魔剣〉もなしに、どうやって……? その上、バルデスから炎属性を付与された魔法剣でもなく――。ハイテルの風魔法が加わったわけでもないのに、さっきのあれはいったい……」
戸惑うドレニアンの声を聞きながら、ダンテはしばし思い出に浸った。
「く、そうだったな。昔はそうやって捌いたんだった。とにかく力で押し切るのが最高だと思ってたし……。あの頃は俺も二十六かそこらだったから、当然か?」
フェアリークイーン、ドレニアンを初めて相手にした時は、憑依からおよそ三年が過ぎた時点だった。
つまり、今から十五年前という意味。
「思えば、完全に装備頼み、仲間頼みでもあったな。今なら遥〜かにスマートにやれる気がする。うむ、やはり年の功だ」
《失礼ですが、まったく四十代らしい物言いではないですよ、兄貴。精神年齢は二十代っぽいんですけど》
「それも一理あるな。ぷはっ、ザーク、お前、なかなか褒め言葉も言えるようになったじゃないか?」
《……これ、褒め言葉ですか?》
「誰と戯言を交わしているの? 気でも触れたのかしら?」
もちろん、この状況で思い出に浸った上、ザークと会話までするダンテを、ドレニアンが快く見るはずはなかった。
だが、フェアリークイーンはやはりフェアリークイーンだった。
「……会話。なるほど。あれね? あれがそんなに大切なものという意味かしら?」
「え? え?」
ドレニアンは、どこかを見つめた。
その視線を追ってダンテも首を回した瞬間、フェアリークイーンの体から光が立ち上った。
「〈オーロラプリズン〉」
ダンテの四方5mを彩る、オーロラの膜。
それが何なのかを知っているからこそ、ダンテの顔はいくらか歪んだわけだった。
いかなる攻撃も通らない。
だが、結界の中の当人も、結界の外へは出られない。
「絶対結界? これを俺に――」
「ムハハハハッ、入れないが出られもしないその場所から……見ているがいい、ダンテ! かつての私の心情がどんなものだったか!」
ぶううううん……!
次第に強まる羽ばたきとともに、青黒い気が集まり始めた。
ダンテが何か言う暇もなかった。
「すべてを持って去っていくお前の後ろ姿を、見送るしかなかった! 私の惨めさを、味わってみなさい!」
再び、青黒い斬撃が放たれた。
頭たちが寄り集まっている空間へ向かって。
《あ、兄貴! 俺の仲間たちが――》
『いくらステータス吸収は不可能とはいえ、全部失うのは惜しいな』
ゴミのようなスキルも、使いよう。
今度もやられたら、事実上残る頭はないと見ていい。
『こいつら以外に、魔力供給用に使えるモンスターどもを知ってはいるが……。ちっ、仕方ない』
再びこの手の「無限召喚」ができる環境を探すことはできようが、だからといって、せっかく手塩にかけたこれらを全部失うわけにはいかない。
ならば、方法は一つだ。
ダンテは、思考した。
その思考に従い、頭たちが一糸乱れず動き始めた。
まるで青黒い斬撃へ向かって、一列に並びでもするかのように。
そのうち「最前列にいた頭」が、青黒い斬撃に撃たれた。
───────────……!!!!
「ムハハハハッ! どう!? どうなの!? 私の心を弄んだ、復……讐が……?」
ドレニアンは呵々大笑した。いや、しようとした。
自分の放った気が、寄り集まっていたダンテの大切な何かを完全に消し去った様を見て、笑いたかったのだ。
だが、今は?
一列に集まっていた何かたちが、再び散らばり始めた。
ドレニアンはその様子をじっと見た。何が起きた?
「何」が自分の攻撃を防いだ?
「ドレニアン、お前もS等級だろう。昔の俺と同じだよ」
ダンテは言った。
ひゅっ、とドレニアンは首を回した。
「……何? いえ、それは何?」
そして、見た。
絶対結界である〈オーロラプリズン〉には、ダンテ一人がいるはずなのに。
ダンテの傍らにぷかぷかと浮かんでいるものは、何なのか。
先ほどの攻撃に撃たれた、あれ?
「最前列にいた」あれか?
いや、あれだとしたら、どうやって〈オーロラプリズン〉を突き抜けて入った?
「だから収納空間は、最低一枠は空けておかないといけないんだよ」
「……何を言って――」
「とにかくよく見てろ。ここからは、お前も初めて見るものだろうからな」
ぼこっ。
ダンテはザークの頭を外し、収納した。
そして「収納して再召喚したことで」ダンテの傍らへ呼び寄せられた、一つの頭を、がちゃり、と嵌めた。
【水準の高い頭です】
【肉体との格の差により、具現率が減少します】
【具現率33%】
【具現率が上昇し、一部スキルの等級が上昇します】
【循環撃(C+)】【幻影歩(C)】
【具現率が上昇し、一部スキルが解禁されました】
【剣帝本能(S+)】
【具現率が不足しているため、一部スキルの等級が下落します】
【剣帝本能(B)】
「お前の攻撃を防いだ、SR等級の頭だ」
ダンテは言った。
エバの声で。
続けて聞こえたエバの声がドレニアンに届かないのは、幸いな点だった。
《あの虫けらどもを守ってやる対価として、服は着ろと言ったはずだが?》
『そ、それで布で隠してやっただろうが。いや、服が全部吹き飛んだんだからどうしろと。なあ?』
《……下を向いたら殺す》
この瞬間にも、裸のハイエルフの肉体のせいで言い争う二人だった。
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「イカれた男」という評価で、敵味方の意見が史上初めて一致しました。本人だけが、スキル連携の妙だと思っています。
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