第32話 ガチャは、回し続けるためにある
ダンテは、この上なく愉快な気分で考えた。
『実際に検証も兼ねてな! ガチャというのは結局確率で、回数を増やせばその確率に収束するようにできてるんだ! あいつらをあのままにしておいてこそ、等級別の確率がどうなってるのか一目で分かるだろうが!』
ダンテが覚悟すべきことは一つだった。
怨霊を見られてもいいのか?
〈怨霊召喚〉というスキルの存在を、知られてもいいのか?
そうした側面で、ローライやバーバラ、バーベラなどハイテルの残した要員たちより信用できるのは、フェアリーたちだった。
『最後の大陸』のフェアリーは、子供たちを愛する、きらきらした妖精などではない。
まして出会う条件がなかなかに厳しい上、基本的に人間に好意的ではない。スキルの情報が漏れる危険は少ない。
つまり、残りの収納空間と無関係に、召喚自体はいくらやってもペナルティがないという意味ではないか!
そこまで考えが至ったからこそ、ダンテは試みるのだった。
『行くぞ!』
ぼこっ、ずがああああ───────ん!
ザークの頭を外すや否や、彼の肉体に衝撃が届いた。
アンデッド状態での「触覚」は、通常の時とは違う。
完全な痛みというより、もふもふした何かにぶつかった気分。
もちろん、感覚などが重要なのではなかった。
【魔力を吸収しました】
【魔力 1 → 10】
【肉体の水準に比して、多くの魔力を吸収しました】
【受容不可能な魔力を吸収した場合、肉体が破壊されます】
最初に命中したのは〈スターフォール〉、吸収魔力は9。
ステータスが10に達し、すぐさま警告メッセージが表示されたが、ダンテは意に介さなかった。
すでに一度経験したことでもあったから。
魔力が10になった?
このまま次の魔法に当たって超過吸収すれば、危険?
なら、魔力を使えばいいだろうが?
『〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉――』
その最中に再びザークの頭を、がちゃり、確認。
〈オーロラカーテン〉命中の0.4秒前、再びぼこっ。
─────────────!
【魔力を吸収しました】
【魔力 3 → 9】
【肉体の水準に比して、多くの魔力を吸収しました】
【受容不可能な魔力を吸収した場合、肉体が破壊されます】
『――〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉――』
魔法は二発だった。
だが、がちゃり、確認。ダークフェアリーたちにはパターンがある。
「〈ムーンスラッシュ〉!」
追加の魔法、そうだろうと思った。
到達まで2.5秒。
『――〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉!』
ぼこっ。
───────────……!!!!
【魔力を吸収しました】
【魔力 1 → 7】
そして再び続く、六度の〈怨霊召喚〉まで。
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
・
・
・
・
「ぷはははは、いいだろう、どっちが勝つかやってみようじゃないか!」
魔力を吸収する?
なら、すぐさま1にすればいい。
また吸収する?
なら、また1にすればいい。
収納さえしなければいいんだろう。
なら関係ないだろうが!
いい等級が出るまで、回し続ければいいって話だろうが!?
「確率が0.001%だろうと、結局十万回試せば一回は出るって話じゃないか!? 違うか!?」
「……正気じゃないだろうとは思っていたが、完全にイカれた男じゃないか?」
《兄貴、本当に……本当にもう……》
エバだけではなかった。
ザークですら、この瞬間ダンテが見せた狂気には、さすがに空気の読めない一言を差し挟めない有様と言うべきか。
単に彼の見せた態度だけではない。
彼の状態のせいでもあった。
『うふふふ、狂ってなきゃどうやって耐えたと思ってるんだ。ゲームみたいなものに憑依して十三年だぞ! いや、失った五年を考えれば十八年か、十八年!』
ダンテは剣を二振り、振りかざしていた。
事実上「完全に裸の」肉体で。
《兄貴、俺の体――。いや、あ、兄貴の体が……月明かりにあまりにも露わになりすぎているんじゃないかと、それがどうにも、少し――》
「いいだろうが、見せてやれ! 減るもんじゃなし! ダークフェアリーども、早く来ないのか!?」
「ま――また生きてる!?」
「今度はぼんやりしないぞ!」
「死ね、ダンテエエエエッ!」
ダークフェアリーたちの攻撃は、止まらない。
敵が死ぬまで。
あるいは、日が昇る前まで。
「いいぞ、いいぞ! 来いって、早く!」
そしておそらく、ダンテが望むものを引き当てるまでも。
* * *
「肉、肉が食いたい……」
「オークが俺たちの村を蹂躙したんです、必ず復讐を――」
「絹というものがあるそうですね。ああ、あれで作られた寝台に、一度でいいから身を横たえてみたかった……」
「は、蜂蜜を塗ったパンを土の上に投げて、食ってみろとげらげら笑った奴がいたんだが……意地でも食えなかったあのパンが、あの蜜パンが、今さら……」
「故郷の地を眺めたいのです。遠くからでも。どうか」
「10シルバーでした、たかが10シルバー……。その金を返せずに死んだ我が子を思えば、あんな金は――」
「あ、ああ、うるさい! 少し黙れと言っている、虫けらども!」
エバは、きいきいと声を張り上げた。
だが、彼女の声はすぐにかき消されてしまった。
いや、声だけがかき消されるのではない。
「近寄るな! 押すなと言っているだろう!?」
「せ、狭くてどうにも……」
ほとんど大多数がF等級である中、時折現れたE等級の頭たち。
その数は、いったいいくつなのか。
おおよそ四、五時間ほどを費やした。頭の数が五百体を超えたあたりからは、数えることすらできなかった。
つまり、ダンテを半径として特定の距離以上を離れられない怨霊たちは、文字通り狭い狭い枠に閉じ込められたひよこたちのように、ぴよぴよと鳴き交わしているわけだ!
「あっ、ハイエルフ……!? やはり世界は広かったのですね。嘘ではなかった! 私の名はニュル、もはや思い残すことは――」
「いや、だから散れと言っている! 広く! ええい、押すなというに!」
その最中にも、エバを見たことで怨念を解消した怨霊たちがいる。
その瞬間、自分のすべてを思い出し、名前までべらべらと語り始めたのだから、静かだった湖のほとりは、まさに混沌の坩堝だった。
「おい! 後ろにばかり送っていないで、前にも少しは送れ、もう場所がないと言っているんだ! 私の言うことが聞こえんのか!?」
耐えかねたエバは叫んだ。
厳密に言えば、空間がないわけではないからだ。
今この怨霊たちは、皆ダンテを基準に後方にいる。上空と地面付近を問わず、あちこちにぷかぷかと浮かんでいるとはいえ、ともかく後方だ。
もし移動範囲がダンテを基準に半径数メートルほどだとすれば、ダンテの前方は、がら空きではないか。
ならば、芋洗いのようなこの混雑を、どうにか解消できるのではないか――そんな願いをいくらか込めた叫びだったのだが……。
「くはあーっ! 〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉――」
「〈ムーンスラッシュ〉!」
「――そのパターン、飽きないのか!? 〈怨霊召喚〉、〈怨霊召喚〉――」
ダンテがその言葉を聞き入れるはずもなかった。
むしろ引き当てた怨霊たちを、さらに後方へ後方へと送っている最中だったので、混雑ぶりは酷くなりこそすれ、マシになるはずもなかった。
「聞くふりくらいしろ、このイカれ男!」
エバは叫んだ。
SR等級の、ハイエルフの上げる、それはそれは悲痛な絶叫だった。
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大数の法則によれば、引き続ければいつかは出ます。とあるソシャゲの排出率を基準にすると、ダンテはあと何個の頭を引けばいいのでしょうか。十万? 百万? まさか一千万ということは、ないですよね……?
次回の更新は、明日の夜7時20分です!
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