第30話 ぼくらのママの敵!
ゴールドは、消えた。
Eランクの頭が持ったまま収納されたのなら、【アイテム欄】と同じという意味。
その言葉を即座に理解したのは、やはりSR等級のエバだった。
「……所持品を検める魔法に、引っかからない?」
「たぶんな」
所持品を確認されるような場で、自由でいられるということ。
その言葉の意味を遅れて理解したザークが、大騒ぎを始めた。
《じゃあ兄貴がこれを活用して、その、悪い奴らに親しげに近づいた後、隠密に――》
「お、ザーク。お前も頭が全くないわけじゃなかったんだな」
《――頭しかない者に向かって、何てことおっしゃるんですか、兄貴》
ぼやくザークの言葉に、ダンテはついに笑いを弾けさせた。
言うなれば、「ザークですら」瞬時に思いつける発想だ。
「ぷはっ、とにかく、そうはいかないだろうな。アルデリオンに会う……当然、スキル使用不可の場に整えてあるはずだ」
当然ながら、そういうことが本当に必要な場では、活用しにくいかもしれないという意味だ。
まして、用心深い者たちとの面会では、望むべくもないだろう。
エバはつまらなそうに不平を並べた。
「何だ、なら使い道もないのか? いや、そもそもこんなやり方をするくらいなら、あの連中を帰さずに、貴様が魔法をぶっ叩かれながら魔力を吸収したほうがよかったんじゃないのか? 時間もないというのに」
いつしか日が沈み、野宿をすべき時間だ。
目的地も決めないままこうしているのは時間の浪費ではないか、という意見が出るのも当然の頃合い。
だが、ダンテは肩をすくめて首を横に振った。
「いやいや。時間に余裕があるわけじゃないが、ないと言うほどでもないんでな」
《兄貴のお仲間が幽閉されてるのにですか? あの人たちの話じゃ、他のお仲間の行方や、企てている計画なんかを取り調べられてるはずだって……。取り調べって言っても、あれ、実際は拷問ですからね、兄貴》
ザークは恐る恐る、一言を付け加えた。
ハイテルがどこに幽閉されているのかは、分からない。
彼の状態がどうなのかも、分からない。
だが、取り調べは確実に行われているはずで、それは相当な苦痛を伴う行為のはずだ。
「俺が分かってないと思うか? ザークよ、俺がそれを考えてないと思うか?」
もう一度言うなら、ザークですら分かることを、ダンテが考えていないはずがないという意味でもあった。
ローライたちはただ、ハイテルを早く救出してほしいと願っている。
ダンテは当然そうすると言ったが、自分の計画のすべてを彼らに話したわけではなかった。
気まずげにぼやくザークに、ダンテは即座にその理由を教えてやった。
《分かってらっしゃるなら、どうして時間に余裕があるなんて――》
「今、お前が言っただろう。他の仲間たちの行方」
《――え?》
ハイテルの救出までには、それなりの準備時間が必要だから。
彼らが焦ったり、急いだりして、しくじる可能性があるからだ。
最悪の状況とは、何か。
「ハイテルを救った瞬間、いや、救った後でもいい。俺の連絡が届く前に、アルデリオンが他の連中のうち一人でも見つけ出したら?」
ハイテルを救えない? それは最悪ではない。
むしろ、ハイテルを救った後こそが問題だ。
今のアルデリオンは、ダンテがこうして動いていることを知らない。
だが、ハイテルを救ってしまったら?
彼は果たして、どう動くか。
身を潜めているダンテの他の仲間たちを探すため、文字通り手段を選ばなくなる確率が高い。
そうなれば、状況は変わらないことになる。
いや、むしろ悪化する。
万全の構えを固めたアルデリオンから他の仲間を救い出すのは、さらに困難なことになるはずだ。
「なら、テル家の奴を救う前に、仲間という他の虫けらどもを探さねばならんと? それが可能なのか? 皇太子という奴にもできていないのだろう」
「それを俺も考えてる最中なんだよ。当然、全員は見つけられないだろうが……。何とか情報だけでも流し込めれば、勝手に動いてくれるだろうし……そのためには、結局ゼフィリアのほうへは行ってみないとな」
当然、双方向の疎通は不可能だ。
だが、冬の兎のように完全に身を隠した彼らでも、外の報せには必ず耳を澄ませているはず。
ならば、暗号化された、ダンテと仲間たちにしか理解できない報せを手当たり次第にばら撒けば、そのうちの一つは届くのではないか。
まだ分からないが、少なくとも今この時点のダンテには、その程度の計画しかなかった。
何より、そんな計画を云々する以前に、自分が成長するのが最優先でもあったのだから。
「とにかくそういう状況な上に〜、ハイテルの残した子たちにもこのスキルは見せちゃいけない気がするんでな〜、結局こうして一人で育つしかないわけだ。〈怨霊召喚〉」
節をつけて語尾を伸ばす、おっさんじみた姿でダンテは再び三度の召喚を重ねた。
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
今度はF等級だけが三つ。
名前:ダンテ
種族:人間
レベル:8、ランク:E
職業:剣士、補助職業:ゴブリンハンター
筋力:16 敏捷:16 知力:10
体力:17 魔力:4
状態:-
現状でF等級三つを吸収したところで、レベル二つ分上げた効果があるかどうか。
「また虫けらどもじゃないか?」
《あ……惜しいですね、兄貴。でも感じが! あと一、二回引けば、何かすごいのが出そうな気がするんですけど》
その効果をある程度推し量り始めたエバとザークは、それぞれの残念さを表現した。
ダンテはただ、肩をすくめるだけだった。
すでに六回使った。
「使えん。もう収納空間を考えると、魔力がないんでな」
もちろん、収納せずにそのまま消滅させてもいい。
だが、そこでうっかりA等級でも出てしまったら?
モンスターどころか動物一匹いない静かな湖畔で、この上なく困り果てるのはダンテだ。
というわけでダンテはごろりと寝転がってしまったのだが、その暢気な姿に、エバの顔には青筋が浮かび始めた。
「……だから私がさっき言っただろう! スキルを使う姿は見せないにしても、奴らからもっと魔力を搾り取っておくべきだったと!」
「興奮するな、唾が飛ぶ。魔力などまた吸収すればいいだけの話だろうが。ぜ〜んぶ、計画のうちってやつだ」
「どうやって? 誰から?」
彼女に分かるはずもなかった。
ダンテがなぜ暢気に構えているのか。
「俺が何でここにいると思ってるんだ。ああそうだ、お前、モンスター関連の記憶なんかはないんだよな? ザークは当然知らんだろうし」
《兄貴! 俺だって知るくらいは知ってますよ!》
「俺が今なぜここにいるかは知らんだろう?」
《もちろんです!》
堂々としたザークの答えを軽く無視して、ダンテは周囲をぐるりと指し示した。
すでに夜だ。
それでも満月の光が湖面に反射しているおかげで、辺りが照らされているのは幸いと言うべきか。
「世界樹の枝が、俺の気配に反応しただろう。正確には『俺の昔の気配』に」
「それで?」
「ああやって『気配』を感知することにかけては、他の追随を許さない連中がいるんでな。満月が昇る時、湖のほとりが奴らの棲み処――」
ちゃぷん……!
湖面に、波紋が広がった。
魚が跳ねたのでも、誰かが石を投げたのでもなかった。
「――まったく、噂をすれば影とはこのことだ」
湖の上には、いつの間にか黒いシルエットがいくつも揺らめいていた。
サイズは小さかった。距離が遠いからではなく、ただ小さかった。
ダンテはそこでようやく横たえていた体を起こし、体についた土を払った。
「これで、誰の頭を使っていようが『俺の昔の気配』が感知されるのは、確実になったわけだ」
「……ダンテ」
そのうちの一体が、呟いた。
一体、二体と増え始めた個体は、いつしか十体になっていた。
ダンテは片手を高々と挙げて叫んだ。
「久しぶりだな、ダークフェアリーども! 他でもない、頼み事をしに来たんだが――」
「ダンテだ、ダンテ!」
「ダンテ! ダンテ! 〈星光剣〉の略奪者!」
「ぼくらのママの敵!」
だが、友好的な接近など許さぬとばかりに、ダークフェアリーたちの羽が、ぶんぶんと唸り始めた。
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お願い事をしに行った先で「ママの敵!」と呼ばれた場合の正しい対処法については、次回の本編にてご確認ください。
次回の更新は、明日の夜7時20分です!
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