第24話 好感度も、実装されています
ダンテは肩をすくめる――感じだけ――しつつ、考えた。
『元々、お前の意志で体を動かせるってのは一度経験済みなんでな。驚くほどのことでもない。そもそも『最後の大陸』ってのが、実にろくでもないゲームでな』
むしろ暢気に語るその態度に、エバのほうが戸惑うほどだった。
ゲーム? それは何の話だ?
『最後の大陸』?
『それともう一つ……。具現率、これを強制的に下げられたんだとしたら?』
「チッ」
ダンテの呟きを聞いただけで、ハイエルフは舌打ちを鳴らした。
そこまで考えが至ったなら、その先へ思考が進むのは難しいことではないはず。
【装着した怨霊の頭が抵抗できません】
【具現率13%】
【具現率17%】
【具現率22%】
【具現率23%】
「一時的なものだろう。当然な」
こんなことが永久に可能だったなら、最初からやっていないはずがない。
怨霊、結局のところ恨を抱えた者に最も必要なのは、体なのだから。
《……間抜けな奴だと思っていたが》
「間抜けがどうやって魔王を殺すんだよ。常識的に考えろ」
《だから! 貴様が魔王を殺したという話自体が信じられ――》
「お前、魔王の能力を知ってるか?」
《――何? そんなもの私が知るわけ――》
「だから言ったんだ。知らなそうだったからな。俺がホブゴブリンとゴブリンシャーマンどもを操ったあれ……あのネクロマンシーこそ、魔王の主要能力の一つだってことも知らなかっただろう?」
《…………》
ハイエルフは、答えなかった。
ダンテは推測できた。
怨念を解消できず思い出せない、今の彼女が自分の名を名乗れない、そういう類の話ではない。
本当に知らないのだ。魔王について。
魔王を殺すという恨を抱えた怨霊が、ここまで知らないことがあり得るのか?
ダンテは素早く考えを整理しながら、言葉を続けた。
「もちろん魔王が使ったものは、はるかに大したものだった。制限時間みたいなペナルティもなかったしな。だが……筋は同じだ。本質は似ているはずだ」
俺がさらに強くなれば、その水準に到達する可能性もある、という言葉はあえて口にしなかった。
だが、ダンテの飲み込んだ言葉を、ハイエルフが理解できないはずもなかった。
《それで。結局何が言いたい?》
彼女は問うた。
「俺はお前が魔王を討つのを手伝うことはできない。だが、この能力と、俺のこの体。これならきっと、『お前が無念に思っている問題』を解く手がかりになるんじゃないか? いつだったか、お前に話した通りにな」
彼女のためだけになる話ではない。
「すでに死んだ魔王」を定期的に口にするハイエルフの恨に、何らかの秘密があるのなら。
それが成長の糸口になり得るのなら。
結局、ダンテにも彼女が必要なのだ。
だからこそ、ダンテは厳として言うのだった。
「だから最後に警告する。二度と肉体に干渉するな」
彼女の悩みは、そう長くはなかった。
せめて一つ、今後その約束を守って協力する代わりに、名前だけでも変えてほしいというのが彼女の望みだったのだろうが……。
《……いいだろう。だが名前は――》
「どうせ本名じゃないんだから、何の関係がある? 言ったはずだぞ、お前を笑い者にしてるわけじゃないと。むしろ俺に全面的に協力して、お前の本当の名前を取り戻すほうがよほど重要な問題じゃないか?」
ダンテは断固として言った。
実のところ、エバと呼ぶのが面白いからだ。なんだか、世界でも救ってくれそうじゃないか。
という言葉は、口が裂けても言えないダンテである。
何より「仮名」ではないか。
いずれ本名を取り戻すのだから、それまではこういうのでからかっても構わないだろう、という軽い心持ちも、なくはなかった。
《それは……分かった。認めよう。忌々しいが、口も達者だな。舌先三寸で魔王を殺したと言うなら、いっそ信じてやるんだが》
そうした本心を知る由もないエバは、結局ダンテに説得されねばならなかった。
ダンテはにっこり笑い、ザークの頭に向かって手をくいくいと動かした。
「ふふ、昔からよくそう言われた――」
再びザークの頭を装着しようとしたのだったが。
【具現率29%】
「――ん? 急に?」
突如上がった、エバの具現率?
戸惑ったのはダンテだけではなかった。
《む?》
当人ですら、どうしたことか分からないという反応。
その瞬間、ダンテは悟った。
具現率に影響するのはステータスだ。
だが、それ一つだけではない?
もう一つの変数があり、それが今明らかになったのだとすれば。
「好感度?」
しかも一発で6%も上昇しただと?
レベルやステータスより上等じゃないか!
《好感――。何?》
「俺のことが好きだと言ったからだと思うんだが? だろ?」
《な、何を言って――。私がいつ貴様を――》
ぼこっ、そして、がちゃり。
ダンテはザークの頭を装着しながら言った。
「とにかく、認めると言ったのは俺を気に入ったって意味だろう」
慣れ親しんだ男性の体、男性の声で。
その変わった雰囲気に、エバはしばし間を置いた。
「……認めるとは言ったが、そういう意味では――」
《さすが兄貴です! エバさえぐうの音も出なくさせるとは!》
「虫けら、貴様は黙っていろ。それと、なぜ私を呼び捨てにする? 様を付けられんのか?」
《そ、それは……。いや、でも年で数えようって話じゃなかったでしたっけ? です? 俺が生きてた頃には魔王が――》
「ぷふふ、はいはい、静かに静かに。とにかく、まずはまともな怨霊をもう一体引いてテストといこうじゃないか。D等級でも一体出てくれれば、それでネクロマンシー関連の――。ん?」
ダンテは言葉を切った。
その理由を、ザークとエバもすぐに知ることができた。
「誰か来る」
《兄貴、誰か来ます》
距離は遠い。
だが、誰かが近づいてくるのは確実だ。
「エバ、木の上に飛んで隠れろ」
ダンテは即座に状況を判断した。
すでに大路から十分に外れた現在、周辺にダンジョンもないこの場所へ来る理由は特にない。
一般モンスターの狩り? 薬草採集?
あり得なくはない。
だからこそ、確認せねばならない。
たたたたっ……。
ダンテは遠くから近づいてくるシルエットを確認した後、そっと位置を移した。
そして、確認した。
ダンテに向かって、一直線に方向を取り直す三人。
彼らは自分に用がある。
『エバ、念のため構えておけ。何か起きたら、即座に頭を替える』
それも、好意的である確率が特にない、そういう用件が。
* * *
『ひとまずC等級水準の能力値は揃えられる、と』
具現率29%、エバの頭を装着すればC等級冒険者水準のステータスは確保できる。
ゴブリンの集落で救出して以降に獲得した、D等級前後の装備もある。
そこにダンテの腕前まで加われば、大抵の水準のごろつきなど恐れるものではない。
たとえB等級三人程度でも、十分に渡り合えるだろう。
『……問題は、B等級三人程度じゃなかった時だが』
「自信がないなら私が肉体を――」
『しっ。その心配は今後も絶対にないから、聞くな』
ダンテは、木の枝の間に潜り込んだエバの提案を一刀両断した。
もう距離はかなり縮まった。
互いの顔がはっきり見える状況、ダンテは文字通り斜に構えて木にもたれたまま、彼らを待っているところだった。
お前たちが俺に用があって近づいているのは分かっているぞ、という素振りを、これでもかと見せつけながら。
《俺が見ても普通の人たちではなさそうなんですけど、兄貴。大丈夫なんですか?》
『うーん……ところでザーク? FランクA農奴出身のお前にとっては、E等級の時点で普通の人じゃないだろう?』
《そ、そういう意味じゃなくてですね、兄貴! 俺が言いたいのは――》
『ふふ、分かってる、分かってる。集中するから静かにな』
その最中にも、真心のこもったザークの心配に冗談で応じる余裕まで。
背のかなり高い男性が一人と、女性が二人。
ダンテがあえて逃げも避けもしなかった理由は明白だった。
知っている人間なら。
好意的でないにしても、ダンテが元々知っていた者たち、あるいはその者たちと同じ集団に属する者たちなら。
それとなく情報を引き出せるものがあるかもしれない、という考えのためだった。
『帝国騎士団ではない。見たところ、魔道王国や聖都の人間でもないな』
そうした者たちなら当然備えているはずの標章や、外見的特徴がない。
フードやローブをかぶっているわけでもない。
ただの一般的な冒険者だろうか。
だとしたら、なぜ追ってきた?
何の用があって?
『目を輝かせている』
《やっぱり俺の外見のせいじゃないでしょうか?》
『いや、真ん中の男がそうしてるんだよ』
ザークのふざけた言葉を、ダンテは素早く遮断した。
背の高い男性は、幼い子供のようにきらきらとした目をしていた。
その上にこにこと、堪えきれないとばかりに楽しげに笑うあの口元は、また何を意味するのか。
《ゴブリンもそうだったように、そ……ういうケースは人間にも多いんですよ。実際、俺が貴族のお屋敷に呼ばれた時、俺を一番欲しがったのは男の――》
「こんにちは! 冒険者ギルドから大急ぎで追いかけてきたんですが、遠くまで行かれてなくてよかったです!」
ザークの言葉がすっかりかき消されるほどの大声で、男性は言った。
冒険者ギルド。
その名前だけで、おおよそ察しがつく。
《水晶球、あれを割った件みたいですね、兄貴》
ザークが気づいたことを、ダンテが分からないはずはなかった。
それでもダンテは、ただ分からないという顔で首をかしげてみせた。
背の高い男性は、照れくさそうに笑って言った。
「ダンテ様? ですよね? いやいや、盗み聞きするつもりはなかったんですが、なにぶん事件が事件だったもので、聞こえてしまいまして……へへ」
「何のご用でしょう?」
ダンテは尋ねた。
彼は大慌てで何かを取り出した。
「あ、そうそう、特に用というわけではなくてですね、これを……」
そして、ダンテに向かって差し出した。
折れた木の枝?
何でもなさそうなその木の枝を見た瞬間、エバの声でダンテの頭の中が騒がしくなった。
「あ、あれ、あれは――」
その時、折れた木の枝が、再び接合し始めた。
自ら回復する木。
この世でそんなことができる植物は、ただ一つだ。
「――世界樹の枝!」
そしてそれを持ち得るのは、極めて限られた種族、限られた人物たちだ。
背の高い男性が、言った。
「五年も待つことになるとは、思いませんでしたよ。ダンテ」
それと同時に、両脇の女性たちが杖を抜き放った。
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具現率の上昇要因につきましては、現在ご本人から強い抗議を受け付けております。調査結果は、本編にてご報告いたします。
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