第23話 エバ、出撃
情報収集を、さらに進めねばならない。
不幸中の幸いと言えるのは、名実ともに冒険者ギルド所属の冒険者になれたという点だ。
対外的な活動への制約が、なくなった。
名前:ダンテ
種族:人間
レベル:8、ランク:E
職業:剣士、補助職業:ゴブリンハンター
筋力:14 敏捷:15 知力:9
体力:15 魔力:4
状態:-
それだけではない。
ザークとF等級の怨霊三人を成仏させて吸収した能力値、そしてゴブリンの集落を掃討してレベルアップした現在、E等級の水準にまで達した。
『能力値を上げる方法が三つもあるのは幸いだな』
レベルアップによる成長。
怨霊の怨念を解消し、その能力を吸収しての成長。
【収納怨霊:1/4】
そしてSR等級のハイエルフの頭を装着し、一時的にではあれ能力値を引き出す方法まで。
その具現率がどう適用されるのかはまだ把握できていないが、きっとステータスと関係があるはずだ。
今なら、あの時より上昇した能力値が適用されるはず。
『それにしても、水晶球はなぜ砕けたんだ? 昔もあんなことはなかったが……。ステータスのせいで砕けたと言うには、この見栄えのしない水準だし。ううむ』
一つ、解消されない疑問は残っていたが、ともかく今すぐ重要な問題ではない。
ダンテは伸びをしながら、移動を急いだ。
「ふうううっ……と。ゴブリンハンターが付いたついでに、小型種から潰しつつ育っていくか」
『最後の大陸』において、職業と補助職業は選択制ではない。
職業はキャラクターの主力活動により、自動で割り当て。
補助職業は一種の称号あるいはオプションで、最も影響の大きかった実績に応じて付与され、職業と補助職業に該当する特性に合った効果上昇が適用される。
〈剣士〉は剣を使う場合に追加ダメージ。ダンテが双剣を握った理由もそれだ。
そして〈ゴブリンハンター〉、小型種モンスターへの追加ダメージ。ただし、大型種モンスターからは追加の被害を受ける。
ならば最も効率的な方式は、小型種モンスターを一掃しながらレベルを上げること。
《世界樹の森でしたか、どこかへ行かれるとおっしゃってませんでした?》
『ハイテルがどうなったか分からない以上、今すぐ行く必要はない』
世界樹の森へ向かう理由は、ハイテルのためだった。
当然そこにいたはずはないが、ハイエルフの本拠地であるあの場所で、ハイテルに関する手がかりを探して会おうという計画だった。
だが、今はその必要がない。
むしろ、危険かもしれない。
『まあ、あの女について調べる機会は、あるかもしれんが……』
魔王を討って怨念を解消できない以上、ハイエルフたちを通じて直接、彼女の名前や生前の情報を探ってみることはできるかもしれない。
だが、急ぎの用ではない。
『ザーク!』
《はい、兄貴!》
『あの女の名前、一つ考えてみろ』
《ううむ、名前……名前ですか……》
ダンテの立場からすれば、名前程度は適当に呼べばいいだけなので、どうでもいい話ではあった。
収納空間が一つもない場合にさえ気をつければ、あの頭が消える理由もないのだから、結局自分が成長すれば、具現率も非活性スキルも、すべて正常化するのだから。
「都市の外へ出られるのですか?」
「ええ。王都へ行きます」
ダンテの次の目的地は、この都市が属するゼフィリア王国の王都、ゼフィリア。
皇太子アルデリオンのいるアルディア帝国の影響が比較的少なく及ぶ場所で、あそこなら致命的な危険に晒されることなく、ハイテルをはじめとする仲間たちの情報を集めやすいはずだ。
都市の関門を抜けて移動し、どれほど経っただろうか。
大路を行き交う人の数もかなり減った頃になって、ずっと静かだったザークが、ついに口を開いた。
《兄貴、名前の件なんですけどね。その……二つのうち、どっちにするかで悩んでまして》
「何だ?」
《うちの村で一番きれいだった双子の姉妹がいたんですが、エリとバイリって言いまして――》
SR等級のハイエルフの名前を、何にするのか。
今まで悩みに悩みを重ねていたザークは、二つの候補をダンテに告げて。
「ぷはははははっ! 怨霊再召喚!」
ダンテはその話を聞くなり、すぐさまSR等級のハイエルフを呼び出した。
「ここはどこだ? この間に何があった? ゴブリンの集落から――」
「エバ」
「――……何?」
そして、呼んだ。
ザークの戸惑った声が響いた。
《あ、兄貴! エリかバイリのどっちかを決めてほしいって話で――》
「悩むことがあるか。頭文字を取ろう。エバ。今日からお前の名前はエバだ」
ダンテはくつくつ笑いながら、ハイエルフの頭に向かって言った。
「……ふっ、初号機でも出撃しそうな響きで、悪くない」
しばし見開かれた、彼女の瞳。
驚いた顔は、そう長くは続かなかった。
すぐに皺の寄り始めた眉間とともに、ハイエルフの頭は一瞬にして加速し、ダンテへと飛びかかった。
「え? 何を――」
そしてダンテは、悟った。
もうあらかた秘密を暴いたと思っていた〈怨霊召喚〉には、いまだ自分の知らないことがあるのだと。
カアアアアン───────!
野球のバットでボールを打ったような音が、鳴り響いたのも束の間。
「あ、兄貴!」
ザークの頭が、ふわふわと浮かんでいた。
つまり?
がちゃり。
【怨霊の頭を装着しました】
「え?」
SR等級のハイエルフの頭が、ダンテの首の上に載っていた。
ダンテの意志とは関係なく、勝手気ままに。
【水準の高い頭です】
【肉体との格の差により、具現率が減少します】
【具現率23%】
具現率23%、数値が上がった。
レベルそのものとは関係がないはずだ。
これまでのレベルは、ザークの頭を装着したまま達成したもの。
なら、最初から〈怨霊召喚〉でD等級、C等級を獲得し、より高いレベルの頭を着けるだけでSR等級ハイエルフの具現率が上がるという解釈になるわけで、論理的ではない。
つまり、レベルそのものではなく、レベルアップに伴うステータスの上昇。
そしてF等級の怨霊三人の怨念を解消し、能力値を吸収した影響で、具現率が上がったと見るのが正しい。
結局のところ「ステータスの成長」こそが、SR等級ハイエルフとの具現率を上げられる基盤になるという事実を、確認したわけだ。
問題は、これほどまでに重要な事実に、今すぐダンテが順応できないという点だった。
女性のハイエルフの肉体へと、外形が再構築されたからだけではない。
「何て真似を――。この女――」
頭を、挿げ替えた?
怨霊が、自分から?
ダンテの意志がなくとも、こんなことが可能だというのか!?
ぎ、ぎぎ……。問題はそれだけではなかった。
すでに一度経験した事態が、再び噴き出した。
苦労して上げていた腕が、ぴたりと止まってしまったという点。
頭を、外せない。
「俺たち、一時的に協力するって話じゃなかったか?」
ダンテはやっとのことで口を開いたが、ハイエルフの声は依然として怒気を帯びたままだった。
《一時的な協力と、私を愚弄することが同じ意味だとでも?》
「それは違うが――」
《私を笑い者にしているな》
「――笑えはするが、笑い者にしてるわけじゃない! これはきちんと区別すべき……こと……で……」
ダンテは、言葉を終えられなかった。
怒気を孕んだハイエルフの発言、その直後に表示されたシステムメッセージのせいだった。
【装着した怨霊の頭が抵抗します】
【水準の高い頭です】
【肉体との格の差により、具現率が減少します】
【具現率21%】
【具現率13%】
【具現率9%】
瞬く間に表示されたシステムメッセージの最後、ついに一桁台まで落ちた時点で。
ハイエルフは、笑って言った。
「ぷふっ、どうだ?」
先ほどまでハイエルフの体だった。だが、ダンテだった。
だが、今は?
ザークにも分かった。
「あ、兄貴! そ、そ、その女が――」
エバ、彼女がダンテの体――正確にはハイエルフの外形の体――を乗っ取った。
ダンテは歯を食いしばった。
『肉体の主導権を完全に奪……われたにもかかわらず――』
【ステータス】を開いたままで。
『――ステータスはそのままか? スキルも相変わらず使えない? 〈四大王(SR)〉がどんなスキルなのか、一度使ってみようと思ったんだがな』
驚愕?
それより強い感情は、やはり残念さだった。
【ステータス】には、具現率が落ちるにつれ、むしろさらに悪くなった能力値が表示されている。
非活性化されたスキルも、依然として使用不可。
『これで全部なら、がっかりなんだが』
ダンテが今集中しているのは、そんな事項ばかり。
従って、狼狽したのはエバのほうだった。
ステータス? スキル?
「な、何? お前――。驚かないの?」
頭を強制的に挿げ替えられた挙げ句、肉体の主導権まで奪われた者の、言うことがそれか?
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
命名のセンスに関する苦情は、作者ではなくダンテまでお願いいたします。なお、ダンテは殴られました。
続きは、今夜10時20分に投稿します!
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