第20話 善意は、加工して使う
誰かの嗚咽が、始まりだった。
攫われていた者たち全員の鼻の頭が、赤くなり始めた。
五体満足どころか、顔まで良くて背も高い人間が来た?
さらに、ハイエルフの頭を収納した状態のダンテなのだから、どこ一つ怪しいところのない完璧な姿で!?
「本当に……ど、どうやってお一人で――」
「A等級の冒険者の方でいらっしゃいますか? し、失礼でなければ、私どもの家でおもてなしをしたいのですが、どうかお時間をいただけないでしょうか!」
ダンテが自分たちの救い主だと悟った被拉致者たちは、涙と鼻水をだらだらと流しながら、感謝を表し始めた。
ダンテはぎこちなく微笑んでから、口を開いた。
ゴブリンに攫われた者たちは、単なる「肉の候補」ではない。
「もしや鍛冶屋の方、あるいは親戚に鍛冶屋を営んでいる方がいるという方? 手を挙げてみてください」
ゴブリンたちの役に立ちそうな特定の能力、あるいは身体的特徴を持っているということ。
ダンテが彼らを救出してまず考えたのは、やはり装備の獲得だった。
顎鬚のもじゃもじゃした男性が、手を挙げた。
「わ、私が鍛冶屋ではありますが――」
「ああ、どれほどのご苦労をなさったことか」
ダンテは自ら歩み寄り、中年男性の手を握った。
そして、その手の甲をさすりながら、一緒に目を潤ませてやった。
「命の危険を感じた時もあったでしょうが、もう安心なさってください。俺だけを信じてください。都市まで安全に、家族の待つあの場所へ、俺が必ずお送りしますから」
「ぐうっ、ぐすっ――」
その温かくも現実的な慰めに、中年男性のもじゃもじゃの髭へ、涙がぽたぽたと落ち始めた。
「ありがとう、本当にありがとうございます。冒険者様がいらっしゃらなかったら、本当に――。ぐうっ、私は……」
「ええ、ええ。分かります。本当にご苦労なさったでしょうし、ゴブリンへの怒りも少なくないでしょう」
ダンテは無念を吐露する中年男性に十分に共感しながら、答えを引き出した。
「そうなんです。あの八つ裂きにしても足りない奴らを――」
「俺が八つ裂きにしておきましょう」
「――もちろんそうしていただけるなら! ぐすっ、本当にこの無念と悔しさを冒険者様が晴らしてくださるなら――」
「ただし、そのための装備はご提供いただかないといけませんがね」
「――……え?」
おや? 急に何の話だ?
中年男性は、少しばかりぽかんとなった。
ダンテは彼の目を真正面から見つめて言った。
「多くは望みません。ですが、あなたにできる最善の、俺への感謝の表現と、ゴブリンへのすべての怒りを込めた、その程度のもので結構です」
「え? いや、あの、その……」
中年男性はそこでようやく現実を悟って狼狽したが、今さら何が言えるだろうか。
ありがとうと、命の恩人だと言った。
ゴブリンへの怒りを、すべて見せた。
それなのに今さら、粗末この上ない代物を、しかも職業を鍛冶屋だと明かしておきながら、それに相応する対価を提供しないなど!?
《兄貴、人間の感情をこんなふうに操って……。ここまで露骨にむしり取る手口は、田舎のお婆ちゃんたちでもそうそう引っかからないやつなんですけど……》
ザークが呆れて呟くほどの手口とは!
『操るとは何だ。ただの、真心を尽くしましょう~ってやつだろ』
ダンテは何でもないことのように答えた。
それと同時に、鍛冶屋の中年男性の手を放した。
ゴブリンに攫われた者は、単なる「食材」ではない。
どこか微妙になった空気の中で、救出された人々が互いの顔色を窺い始めた頃。
ダンテは彼らに向かって尋ねた。
「ああそうだ、他の皆さんはそれぞれ、ご職業は何ですか? いや、歩きながら話しましょう、歩きながら。時間がもったいないので」
ダンテは先頭に立って歩き出した。
彼らは、反発することなどできなかった。
何はどうあれ、命の恩人。
何を、どれだけむしり取られるか分からないが、大人しく協力するしかないのだと。
* * *
「ちょっとした騒ぎ」程度が過ぎた後、ともかく都市への道のりそのものは平和だった。
ダンテもゆったりと、〈怨霊召喚〉スキルの新しい発展方向について考えることができた。
『収納もできずに消えた頭たちとはいえ、怨念を解消して吸収した能力自体はそのままだ。これが重要なんだ。いくらF等級の小さくて可愛い能力値とはいえ、今の俺には貴重だからな』
【ステータス】で彼らのおかげで――ほんの少しだけ――上がったステータスは、変わらない。
【スキル欄】にも、〈サバイバル料理〉は残っている。
その観点から見れば、今回発見した活用法をいつ、どう使うべきかは、あまりにも明白なのだ。
まず怨念を解消して、その能力を吸収した後。
収納空間が足りない場合や、直接動きにくい場合に、「使い捨ての消耗品」のような概念で活用する方法。
もちろんこれも、怨霊の水準が低い時、そして種族系統というものが異なる時の話だ。
『その種族系統の区分がどうなってるのかは分からんが……ひとまず人間とゴブリンは違うとして。人間の頭に――。お、スケルトンの体ならどうなるんだ? スケルトンはただの骨で構成されたモンスターだから、認定してもらえないのか? それとも、ううむ、オークは? あれは同じ系統扱いになるのか?』
水準が類似していて。
同時に、種族系統が同じだと判定されたら?
まだ試すべきことは多い。
ごくり。
だが、その可能性の側面だけでも、ダンテは生唾を飲み込むほどだった。
『ネクロマンシー……』
死者を蘇らせて操っていた、ネクロマンサーの威力を知っている。
死んでも死なない者たち。
死んだのに、再び動く者たち。
さらには生前の能力をそっくりそのまま発揮していた、死者の軍団。
魔王軍の中でも特にアンデッドの威力がどれほど恐ろしいか、ある意味で最もよく知っているのが、ダンテ本人なのだから。
そこまで考えが至って、ようやくダンテの瞳が大きくなった。
『……待てよ。そう考えると――。ネクロマンシーを使うのは魔王軍だったよな? ネクロマンサーは軒並み魔王軍所属じゃなかったか?』
これが疑似ネクロマンシーだと?
疑似死霊術だと?
『聖都側でもネクロマンシーだけは絶対厳禁、使用者は即刻異端として処刑していた記憶が――』
なら、使ったら駄目なんじゃないか?
使う姿を見られたら、まずいんじゃないか?
『――いや、その前に。俺がアンデッドであること自体がバレたら終わりなんだが』
その観点から見た時、遠くに見え始めた高い城壁は、ダンテに威圧感を与えるのに十分だった。
都市に入る検問からして厳しく行われそうな都市、エレナ一行と別れた村とは比べ物にならないほど大きな都市。
そこに、どうやって入るのか。
「つ、ついに! ついに帰ってきた、ついに!」
「ぐすっ、なんてことだ、私が――。私が死なずに帰って来られるなんて――」
「うわあああん……。神よ、いや、冒険者様! ありがとうございます! ありがとうございます!」
それこそが、ダンテがゴブリンに攫われた者たちを自らエスコートした理由だった。
たとえ正体が多少不明瞭でも、ゴブリンから攫われた人々を救出した者なら、通してくれるだろうから!
「ふふ、さあ、離散家族の再会のためにも、さっさと入りましょう。ああ、それとさっき話した人たちの顔は全部覚えてますから、逃げちゃ駄目ですよ?」
もちろん、彼らから得ることになる装備もまた、必ず必要な部分だろう。
ダンテは無事に、大都市の一つ、ヴェルハイムへ入場した。
『よし。あとは装備と必要物資を揃えた後に――』
さらに、大都市なら必ずある場所。
『――冒険者ギルドへ行く』
処刑されたあの日の真実を知っていそうな、まさにその場所へ行く。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
皆さんの感謝の気持ちは、責任を持って装備に加工されました。安心して次回をお待ちください。
次回の更新は、明日の朝7時20分です!
続きが気になる!と思っていただけましたら、【ブックマーク】や【評価】での応援をよろしくお願いいたします。




