第16話 ハズレ、ハズレ、またハズレ
「キ、キシシシシッ!」
ぶしゃああああああっ――!
二つの〈ファイアボール〉が、再び撃ち放たれた。
ダンテはちっ、と舌打ちすると、すぐさまザークの頭を外した。
『学習能力がここまでないのか』
二つでは駄目だ。かといって、魔法で視線を引きつけた後、ゴブリンによる奇襲?
それが通じないのは、周りに転がる死体ですでに証明済みだ。
それなのに、またこのパターンとは。
「ふああああっ――!」
ザークの頭と火球の一つがぶつかり、爆発を起こした。
もう一つの火球が飛んでくる方向を、ダンテは正確に認識していた。
だから、彼はただ歩いた。
ばむっ、と感じられる被弾の感触。
アンデッドの状態では、レベルは上がらない。
それは確かに短所だ。
だが、長所もまた明白だ。
エレナ一行が〈ライト〉を吸収するアンデッドがいると言った時から疑い。
先ほど自ら一度試してみて。
ついに、もう一度検証する機会を得た。
【魔力を吸収しました】
【魔力 4 → 7】
確実だ。アンデッドの肉体の時は、魔力を吸収できる。
ゴブリンシャーマンの使う〈ファイアボール〉クラスは、魔力3に相当するのか。
『エレナが使ったのも〈ファイアボール〉だろうから……初級クラスの攻撃魔法自体が魔力3に相当すると見てもよさそうだな。ぷふふ、いいぞ。ここでシャーマンのMPを全部毟り取って、魔力を100までがっつり上げてしまうか?』
ダンテは笑いながらザークの頭を回収し、そのまま装着した。
美青年の顔と体を手に入れたダンテ。
その目が、大きく見開かれた。
「キシシシシッ――!」
ホブゴブリンは、ゴブリンたちのボスだ。
一般のゴブリンより力が優れているだけではない。当然、その知能もまた優れているはず。
これまで何度も見せてきたダンテの守備/攻撃パターンを、ホブゴブリンは読み取り。
ついにその隙を、自ら突きに行く覚悟まで固めたということ!
《あ、兄貴!》
その鋭い動きに、ザークまでもが飛び上がるように驚き、ダンテを呼んだ。
「ザーク!」
だが、ダンテが驚いた理由は、ホブゴブリンの稲妻のような奇襲?
そんなものではなかった。
《はい、兄貴!》
「こんな言葉、本当に使いたくなかったんだが、お前、本物の虫けらだな?」
《え?》
【肉体の水準に比して、多くの魔力を吸収しました】
【受容不可能な魔力を吸収した場合、肉体が破壊されます】
「キシッ――!」
「ふっ!」
ダンテはホブゴブリンの突きを、回転しながらかわした。
胸元がわずかに切り裂かれるほど脅威的だったが、ダンテの神経はもはや「そんなもの」には使われてもいなかった。
「おい、たったの二回だぞ。二回! それも――。せめて〈エクスプロージョン〉か、でなきゃ〈青天霹靂〉級ならまだ理解もできるが、〈ファイアボール〉だぞ! ああ、頭が痛い」
《え? そう言われましても、何のことだか……。あと頭って言うなら、それは俺の頭――》
システムメッセージの見えないザークからすれば、文字通り青天の霹靂のような怒声と言うべきか。
だが、ダンテが鬱憤を吐き出すのにも、一理はあった。
魔力を吸収するというのが只事ではないことくらい、当然分かっている。
アンデッドの体でなくとも同じことだ。
『最後の大陸』に憑依して、魔力を吸収するケース? そんなものはない。
『そうだ、吸収が難しいのは当然だろう。ただの耐性でもなく、自分のエネルギーに置き換えるというのが並のことじゃない。ましてHPやMPなんかじゃなく、永久に適用されるステータスに変わるというのがとんでもないことではあるんだが、はあ』
魔王クラスが、そのすさまじい属性別耐性のおかげで、並大抵のスキルが通じなかったのが、まだしも近いと言うべきか?
だが、これはその上位互換だ。
だから、当然理解はしていた。
こんなものが無制限であるはずがないと。
いくらアンデッドの体だといっても、際限なく可能なことではないだろうと。
あらゆる魔法を吸収する、完全な魔力耐性のような機能を果たすなどとは、期待もしていなかった。
「それにしたって、二回とはな……」
それにしても、たかが〈ファイアボール〉二回吸収して限界に達した?
しかも、単に追加で吸収できない程度ではなく、肉体が破壊されるほどだと?
「キシシシシッ!」
ホブゴブリンは左右に空間を斬り刻みながら、ダンテに突進してきた。
一見脅威的に見える攻撃だったが、ダンテはため息をついた。
「気が散る。ちょっと消えろ」
会心の突きが失敗した時点で、すでに距離を詰められた以上、勝ちの目がないと自覚したモンスターの悪あがき。
「連続、畑耕し」
それ以上でも、以下でもないと分かっていたから。
ずしゃあああ───────っ!
「キ、キシシシ――」
右の腕を斬り落とし、左の肩を斬り払い、そして脳天から肩甲骨までを一太刀で。
【レベルが上がりました】
【スキル〈畑耕し〉の等級が上昇しました】
三度連続で繋がった〈畑耕し〉に、ホブゴブリンの死体がどさり、と崩れ落ちた。
「キ、キウウウ――」
「キウウ、キウウウ……」
残ったのは、魔法を使うタイミングすら掴めないゴブリンシャーマン二体。
ダンテは自分の感情を素早く律しながら、呟いた。
「そうだ、ザークに何の罪がある。ザークを召喚した俺の罪だ」
ゴブリンシャーマンたちは、ずんずんと揺るぎなく歩み寄ってくるダンテを見て、震えた。
当のダンテは何でもないことのように、まるで今思い出したとでも言うように、彼らに告げた。
「ああそうだ、それとここ、シャーマンが二体もいる上に、ゴブリンの数も少なくなかったんだ。この中に、いいものをたんまり溜め込んでるんだろうな? 気に入るものがなかったら、覚悟しておけ」
人間の言葉を理解できるゴブリンシャーマンなので、彼らは考えた。
気に入るものがあったら、生かしてくれるの?
当然、それが質問として口に出ることはなかった。
──────、──────!
すでにダンテの鉄剣は、ゴブリンシャーマン二体の頭を刎ね飛ばしていたのだから。
溜まった宿題でも片付けたかのような、何でもない表情でダンテは呟いた。
「戦利品を漁る前に……まずやるべきことからやらんとな」
ゴブリンの洞窟の中を探索する前に、すべきこと。
当然、一つだけだ。
「〈怨霊召喚〉」
今度は、何の演出も起きなかった。
けたたましい音も、灰色の雲のようなものも見えなかった。
『ザークの頭を着けてるから見えないのか? あれはアンデッドの時の俺にだけ見えていた特殊効果――。あ!』
だが、一つだけ見えた。
何かが、宙をころころと転がってくる。
ダンテは高鳴る胸の内を、隠すことができなかった。
「頼む、頼む、頼む!」
A等級? せめてB等級でも!
できれば男で!
ダンテは、生唾を飲み込んだ。
【等級F、怨霊が召喚されました】
そして、すぐに乾いた笑いをこぼさねばならなかった。
「うん、そうだよな。そうなるよな」
頭が半分ほど禿げ上がり、皺のくっきり刻まれた、壮年の男性だった。
少なくとも、外見上の利点だけはあったザークにすら劣ることだけは、確実だろう。
『元々こうだ。元々こういうものだ。大丈夫。また引けば……いいんだから!』
今さら驚くことでもなかった。
召喚物、あるいは発射体の等級がランダムに分かれて作用する、一種のくじ引きのようなシステムを持ったスキル?
『最後の大陸』に、その種のスキルがないわけではない。
そして〈怨霊召喚〉のような、この手のスキルの大半が、どういうふうに動いてきたか。
【等級F、怨霊が召喚されました】
【等級F、怨霊が召喚されました】
ダンテは、思い出した。
『運営を疑うレベルの、クソ確率ゲーが……』
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
ガチャの結果に関するお問い合わせは、受け付けておりません。
次回の更新は、明日の朝7時20分です!
続きが気になる!と思っていただけましたら、【ブックマーク】や【評価】での応援をよろしくお願いいたします。




