第15話 絶対、絶対、絶対にやらん
「何だ……何がどうなって……」
SR等級のハイエルフですら、しばし状況を把握するのに時間をかけねばならなかった。
もちろん、当事者にそんな暇があるはずもなかった。
「あ、兄貴! いくら俺を軽く見てるからって、こんな扱いは――」
『問題あるか? お前を認めてるからこそ「こんな扱い」をしたんだが』
「――え?」
完全に暗転した視界。
闇の中でダンテに見えるのは、別々の方向にある二つの頭だけ。
ダンテはザークの頭に向かって、来いと手招きしながら言った。
がちゃり、そして頭を嵌めながら、答えてやった。
「スキルとスキルがぶつかった時、特にそれが魔法系統のものだった場合、強いスキルが弱いスキルを食う。〈ヘルファイア〉が〈ファイアボール〉を食うようにな。当然だろう?」
「……そうだ。常識だな」
ハイエルフも答えた。
ダンテはにやりと笑い、その根拠を付け加えてやった。
『お前らが今、俺の「話」を聞いていること自体がその証拠だ。以心伝心。思考が伝わるというのは、召喚スキルの中でも最高級に当たる概念なんだぞ』
思念を通じて行われる会話。
〈怨霊召喚〉のスキルには等級も、何もない。だが、弱いはずがないということ。
その点こそ、ダンテが真っ先に気づかされた部分ではないか!
「なるほど……。だが、それだけでは二つ目の答えにならんぞ。貴様の体がなぜ魔力を吸収するのか――」
ハイエルフはようやく状況を理解したが、あくまで一つ目の不可解な出来事への答えだ。
二つ目の不可解な出来事、〈ファイアボール〉が直撃したダンテの肉体には、何が起きたのか。
「キ、キシイイイッ――!」
「キイッ、キイッ、キイッ!」
「キキッ! キキッ! キキッ!」
だが、その点にまで付き合っている余裕はなかった。
ようやく我に返ったホブゴブリンの指示の下、ゴブリンたちが飛びかかってきたのだ。
「物量で押すなら、千匹は同時にかかってこい!」
〈最下級HPポーション〉を呷りながら、ダンテは〈畑耕し〉で彼らを相手取ってやった。
それだけではない。
ぼこっ。
「あ、兄貴!」
再びザークを外し、それを投げる。
今度は別に、ゴブリンシャーマンの魔法を打ち破るためでもなかった。
「キイイッ!」
跳躍して迫っていたゴブリンの一匹が、空中でザークの頭とぶつかった。
「ぎゃあっ、唇――。ゴブリンの唇が触れた気がします、兄貴!」
『騒ぐな、戻ってこい。あんまり泣き言を並べてると、今度はスライムに投げつけるぞ』
「スライム……は、でも、むしろいいんじゃないですかね? ぷにぷにして――」
がちゃり、ザークの頭を嵌めながら、ダンテは剣を振るった。
「戯言はやめろ!」
ゴブリンの腕が宙を舞う中、ホブゴブリンは再び指示を下した。
「キシシシッ! キシッ!」
ゴブリンシャーマンたちの前に生成される、巨大な火球二つ。
ダンテは回収したザークの頭を再び外そうとして、ふと、顔を向けた。
考えてみれば、現在召喚している頭は一つではないだろう?
ダンテは、ハイエルフと目が合った。
「お前――」
「私をそんなふうに扱ったら、協力はなしだ。永遠にな」
そして、その考えを口にする前に、拒絶されねばならなかった。
この上なく真剣な眼差しで睨みつけるハイエルフの顔を見て、ダンテが生唾を飲むほどだった。
「そ……こまで真顔になる必要はなくないか? 頭だけで宙を飛ぶ貴重な経験なんて、ハイエルフでもそうそうできないぞ?」
「そんな経験は要らん! 絶対、絶対、絶対にやらん。先に言ったからな!」
「ちぇっ、仕方ない。じゃあザーク、お前がひと苦労してくれ」
「兄貴。俺をそんなふうに扱ったら――」
「ああ、お前はもう俺のものだから関係ない」
ぼこっ、ダンテはそのままザークを投げてしまった。
向かってくる〈ファイアボール〉に向かって。
「ふあああああああ!」
─────────────!
けたたましい爆発音とともに、炎と黒煙が上空へ噴き上がった。
だが、ゴブリンたちはそれにばかり気を取られていてはいけなかった。
「キイッ!?」
「キ、キキッ! キイイッ!」
ダンテはすでに動いていた。
頭もない体のまま、鉄剣を振るいながら。
ハイエルフは細めた眼差しでその姿を見つめ、呟いた。
「……あの虫けらの目であの『刹那』を見て……」
頭がなければ、前が見えないと言った。
音すら聞こえないと言った。
それなのに、あれほど自然に動き、剣で斬る?
周囲の環境をすべて覚えたという意味だ。
ゴブリンは何匹、近くにいるのか。
何歩進めばいいのか。
正確な方位は? 距離は?
速い動きでもない。
むしろ遅すぎてもどかしいほどなのに、ほんのわずかな無駄もない動線と、その動線から完璧に伸びていく剣路。
「魔王を殺した、か……。ははっ」
その言葉が真実か、否か。
「確かに、ゴブリンごときで測れる器ではないな」
少なくとも今は否定できないことを、ハイエルフは認めねばならなかった。
そしてその間、ダンテは頭を装着していない状態で、もう一つの事実を確認することができた。
ざしゅっ――!
見えなくとも、ゴブリンの両腕をそっくり斬り落としたことを、指先で感じながら。
【レベルが上がりませんでした】
闇の中に浮かび上がった、システムメッセージ。
『ん? 何だ、これ? さっきはレベルが一つ上がって……たよな?』
頭を投げ捨てて薙ぎ払い始めて以来、一つのレベルが上がっていた。
そして今、再びレベルアップする頃に表示されたメッセージの様子が?
ダンテはその違いに、即座に気づくことができた。
名前:ダンテ
種族:アンデッド
レベル:-18、ランク:X
『頭がないと、レベルも上がらないのか? 経験値はそのまま消し飛ぶと?』
アンデッドの状態では、つまり頭のない肉体の状態では、レベルが上がらないという意味。
その上、「ご丁寧に」システムメッセージまで表示された理由は何か。
レベルが上がりませんでした?
上がるはずだったのに、上がらなかった。
レベルが上がる条件は満たされたのに、上がらない。
つまり、経験値は経験値で消し飛ばして、レベルは上がらなかったということ!
『一長一短、か。そうだよな、世の中そんなに甘いはずがない』
ダンテですらまだ解けていないアンデッドの肉体の秘密、少なくともその一つを突き止められたことを、幸いと思うべきだろう。
「キシイイイイ……」
「キウウ」
「キウウウン……」
今や細かいゴブリンはほとんど片付き、五、六匹だけが残った状況。
その中にはもちろん、ボスのホブゴブリンと、ゴブリンシャーマン二体が含まれていた。
がちゃり、ダンテはザークの頭を装着した後、軽く息を吐き出した。
緊張?
「ぷふうう……。また経験値を無駄にするわけにはいかんからな」
それよりは、二度と同じ失敗はしないという誓いに近い、息の整え方だった。
レベルは上がらなかったが。
【魔力を吸収しました】
【魔力 1 → 4】
ゴブリンシャーマンの〈ファイアボール〉を吸収したその瞬間、目の前に表示されたシステムメッセージ。それが意味するところは、明確だったのだから。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
投げられる側にも、投げられない側にも、それぞれ言い分があります。ダンテには通じませんが。
続きは、今夜10時20分に投稿します!
【ブックマーク】や【評価】での応援も、よろしくお願いいたします。




