第14話 投げました、渾身のストレート
三つ目の頭。そのためのレベル上げ。
〈怨霊召喚〉のスキルをもう一度使う必要は、明白だった。
F等級のザークは、非常に優れた外見という強みを除けば、事実上あらゆる面で物足りなさが残る。
かといって、性能では圧倒的なSR等級のハイエルフ?
性別が変わってしまう、あの奇妙な感覚……。
適応が難しい上、その性能を全部引き出せないという点が惜しい。
『ハイテルは安全な場所で無事にしてるだろうから構わんとして……他の仲間たちがどうなったかは分からん。もしどこかに囚われているなら――。今度は俺が助け出す番だ』
「千里眼」のハイテルは、その優れた知略で、おそらく被害を受けていないはずだ。
だが、他の仲間たちに会うには、危険な状況に陥るかもしれないということ。
彼らの力を借りるためにも、適した頭が必要だ。
少なくともB等級以上、できればA等級のステータスをそのまま出せる、三つ目の頭が必要な理由だ。
具現率は80%以上あたりで、ステータス/スキルの物足りなさを感じない程度の頭。
「よっ――こらせっと、だから早く経験値になれって、ゴブリンども!」
しゅぱっ――! その供物となったゴブリンの腕が、また一本斬り飛ばされた。
通常、Cランク15人前後の討伐隊を組んで攻略すべきゴブリンの集落だというのに。
洞窟から飛び出してきた四十七匹のゴブリンを相手にしながらも、ダンテの顔に危機感は見当たらなかった。
「キイイッ――!」
しゅわあああっ、錆びた短剣が一本、宙を切り裂いた。
一撃で人を刺し殺すことはできないが、だからこそ余計に危険だ。
「この野郎、破傷風になったらどうする……予防接種もない世界でだな、お前、そんな危険な武器を――」
「キキキッ! キキッ――!」
「――お前もだ!」
棍棒よりリーチは短いが、単純な打撃で終わらないという点で脅威的だ。
経験の浅い冒険者なら、特にそうだっただろう。
だが、『最後の大陸』に憑依して、死と隣り合わせの瞬間をいくつ越えてきたか。
戦闘の回数は、数え切れない。
魔王を殺すまでの五年間、ダンテは文字通り骨身を削る試練に耐え、勝ち抜いてきた。
「思った以上に……」
少し離れて見守っていたハイエルフですら、今はしばし言葉を継げないほど、と言うべきか。
「歩法が違うんだよ、歩法が。よっこらせ、〈畑耕し〉!」
文字通りだった。
『最後の大陸』の戦闘は、ステータスとスキルだけで決まるのではない。
動き。
最も基本となる動きは、結局プレイヤーが決めるものだ。
敵のパターンはどうか、それを回避するのか、あるいはガードするのか。
パリィを狙うなら? そのタイミングは?
ジャストパリィ? その後の連携でカウンター?
それよりさらに繊細で完璧な動きとタイミングが要求される、一つの動作に合わさったジャストカウンターまで!
「ゴブリン程度、トラック一台分来ようが関係な――」
《兄貴!》
ごおおおおっ──────!
「――うわっ!?」
ただのレベル上げ用の経験値ども、という考えで機械的な作業を続けていたダンテは、飛び上がるように身を投げ出さねばならなかった。
先ほどまで自分がいた空間を焼き払いながら消えていく、巨大な炎の塊。
「キシシシシ……」
「……ゴブリンシャーマン? うわ、これはまた珍しい奴がいたもんだ。ホブゴブリンがいるだけでも相当でかい集落だと思――。あ、いるんかい」
それとともに、洞窟からゆっくりと歩み出てくる個体たちがいた。
ザークの外見であるダンテほどの体躯に、やや赤みがかった肌、ホブゴブリン。
そしてそれより少し小さいが、一般のゴブリンよりは大きい、仮面をかぶったゴブリンシャーマンが二体。
「魔法を使えるゴブリンが二体に、ただ誘い込んで振り下ろすだけでは相手にできないボス格のモンスター……。どうする? 手を貸そうか?」
ハイエルフは、即座に把握した。
ダンテの主張どおり、一般のゴブリンなら百匹飛びかかってきたところで意味はないだろう。
だが、こうなると話が変わってくる。
ハイエルフ自身の力を使ってこそ、危機を脱せられるのではないか。
その言葉に素早く反応したのは、ザークだった。
《そ、そうしましょうよ、兄貴。わざわざ俺の体に傷をつけないで――》
「おい、もう二度と言わんぞ。これは俺の体だ」
《――じゃ、じゃあ兄貴の体に傷をつけないで! 替えましょうよ、早く!》
ザークもその本能で危険を感じたのだろうか、と考えかけて、ダンテは首をかしげた。
ザークが怯える? なぜだ?
「考えてみたらお前、もう死んで怨霊になった身だろう。何をそんなに怖がる? それに本能……なんてものがあるのか?」
《え?》
「そんな話をしている場合ではないと思うが」
ハイエルフは、藪から棒に会話を始める間の抜けた男どもに警告した。
その言葉のとおりだった。
「キシシシシッ――!」
ホブゴブリンが指示を下すと、すぐさま二体のゴブリンシャーマンは魔法の準備を始めた。
今度は、二つのファイアボール。
その上、なんとしても回避を妨害しようと、じりじり接近してくる一般ゴブリンたちまで。
奴らは炎に巻き込まれようがどうしようが、頭目の指示に従い、タイミングを合わせてダンテに飛びかかってくるだろう。
「しかもお前、俺の〈スキル〉だろう? お前がそんな反応を見せること自体がだな、常識的にあり得な――」
《あ、兄貴、今はそんな話をしてる場合じゃ――》
「キシイイイイイッ!」
ホブゴブリンが、振り上げていた刀を下ろした。
と同時に、空気を飲み込みながら燃え盛っていた火球が二つ、撃ち放たれた。
横に転がれないよう、刃物をずらりと突き出しながら飛びかかってくるゴブリンたちまで。
逃げ場はない。ハイエルフはそれを確信したからこそ眉をひそめたが……。
「――いや、今こそこういう話をする時だろうが! 言っただろ!? お前は俺の〈スキル〉なんだから!」
ダンテは、はなから避ける気がなかった。
むしろ鉄剣を鞘に納めた状態で、彼が見せた行動は、全員を当惑させるものだった。
ぼこっ。
《え? 兄貴?》
ダンテは、ザークを外した。
そして、投げた。
言い換えれば……。
「キ、キイイイッ!?」
「キ、キキッ! キキッ!」
「キシッ?」
「あれは完全にイカれた奴じゃないのか?」
飛びかかるゴブリンですら、当惑するほどに。
ダンテは自分の頭を引っこ抜いて、そのまま投げつけたということだ。
迫りくるファイアボールに向かって。
「うわあああああ!?」
『避けるな、ザーク! お前は俺の〈スキル〉だ!』
───────────……!!!!
ザークの頭とファイアボールが、真っ向からぶつかった。
宙に噴き上がる炎と、黒い煙……。
「え、ええ? 本当に無事だ?」
すっかり縮み上がった表情のまま、それでもザークは、薄い笑みを浮かべることができた。
問題は、飛んでくるファイアボールが、そもそも一つではなかったという点だ。
「馬鹿者! 貴様が最初からファイアボール二つとも相手にすべきだっただろう!」
「え? あ、ああ!? 兄貴!」
ずがああああ───────ん!
頭のないダンテの体に、ファイアボールが炸裂した。
ハイエルフは眉間に皺を寄せて言った。
「あいつが死んだら、召喚された私たちもどうなるか分からん……分から……ん?」
だが、やがて黒い煙が晴れ始めた時、ハイエルフは見た。
ハイエルフだけではなかった。
「キシ……シッ?」
「キイッ? キイイッ!?」
「キ、キキッ! キキッ! キッ!」
ゴブリンたちも見ていた。
頭のない肉体を焼いていた炎が、少しずつ消えていくのを。
正確には、ダンテの体に吸収されていく様を。
『……いけるんだな、これ』
ダンテは呟いた。いや、頭がないので、呟く気分だけを味わった。
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タイトルの投球の行方は、本編でご確認いただけたかと思います。ノーバウンドでした。
次回の更新は、明日の朝7時20分です!
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