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神代史抄

『サンシャーラ神話物語』

神代史抄:創世の決別と黎明の五国

これは、サンシャーラに生きた者たちの興亡の記録である。


今では形だけとなった盟約に縋る王国も、覇道を掲げて他国を呑み込む大帝国も、すでに忘れてしまった神々の時代の記録だ。


私、ラトゥナ・ケートは、各地に散った古い羊皮紙や石碑の断片を拾い集め、歴史の底に沈んだ「原初の記憶」をここに記す。


紙をめくる者よ、知るがいい。


汝らが立つこの世界は、かつて神の涙と、人間たちの執念によって滅びを免れた大地なのだということを。


一、大破神の現出と双子神の誕生

世界の始まり。


名も持たぬ無数の神々が生まれては消えていく混沌の果てに、一対の夫婦神が現れた。


男神ヴィヴァーラは光によって大地を形作り、女神ニリティアはそこへ命を与えた。


二柱の神が並び立つ時、世界には争いも死もなく、サンシャーラは永遠の春に包まれていたという。


だが、その平穏は長く続かなかった。


世界の完成を告げる儀式の最中、創造主ヴィヴァーラは突如として命を落とし、冥府の闇へと囚われる。


死の穢れは神の魂を蝕み、かつて世界を照らした光は、すべてを滅ぼす黒い炎へと変わった。


それこそが、後に「大破神ヴィヴァルタ」と呼ばれる破壊神の誕生である。


狂気に堕ちた夫から世界を守るため、母神ニリティアはただ独りで戦った。


大地は裂け、海は干上がり、空には灰が降り続く。


世界が崩れ落ちていくなか、ニリティアは最後の力を振り絞り、二柱の女神を産み落とした。


闇を切り裂く「智慧の剣」を宿す姉神ラーナ。


傷ついた命を癒やす「大悲の泉」を抱く妹神カザフィル。


この双子の女神こそが、滅びかけた世界を支える最後の希望となった。


二、黒真珠の封印

しかし、大破神ヴィヴァルタの力はあまりにも強大だった。


山々は崩れ、海は荒れ狂い、世界は滅びの淵へと追い込まれていく。


神々は、人間の祈りに耳を貸さなかった。

洪水も噴火も嵐も、彼らにとっては世界を巡らせる呼吸に過ぎなかったからだ。


そんな絶望の時代、人間たちの中から五人の英傑が現れた。


彼らは双子神から試練を与えられ、それを乗り越えたことで、神々に迫る力を授かったという。


決戦の日。


姉神ラーナの光が世界を照らし、妹神カザフィルの結界が破壊の黒炎を押し留める。


その神々の戦場へ、人間たちは踏み込んだ。


彼らは、ヴィヴァルタの中にまだ残っている「かつて世界を愛した創造主」の面影を信じ、命を懸けて神へと挑んだのである。


人間の執念が、神の狂気を穿ったその瞬間――。


五人の英傑が放った一撃は、大破神の力を世界の底へと叩き落とした。


溢れ出した破壊の力は、やがてひとつの黒い珠へと圧縮される。


それは禍々しくも美しい、「黒真珠」と呼ばれる封印の核だった。


こうして黒真珠は、永遠の闇の底へと封じられたのである。


三、落涙の恵みと五大王国の夜明け

長き戦いの終わりを見届けた母神ニリティアは、静かに涙を流した。


その涙は荒れ果てた大地へ降り注ぎ、干上がった川を満たし、焼け焦げた土に再び緑を芽吹かせた。


後の時代、人々はそれを「落涙の恵み」と呼ぶようになる。


やがて主神たちは天上へ去り、世界は双子神ラーナとカザフィルが支える新たな時代へと移っていった。


そして、大破神を封印した五人の英傑たちは、それぞれ王となり、大地に五つの王国を築く。


彼らは再び破壊の時代を招かぬよう、五大元素の守護石を各国に分けて保管し、互いに盟約を結んだ。


「もし再び闇が蘇る時が来れば、この同盟を思い出そう」


その誓いは、共通の刻印貨にも刻まれた。


金貨には「智慧のラーナ」。


銀貨には「大悲のカザフィル」。


二柱の女神が背中合わせに刻まれたその貨幣は、調和によって世界が成り立つことを意味していたという。


――それから、数百年の時が流れる。


そして人々は、少しずつ神々の時代を忘れていった。


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