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38.交渉

 ギルドで依頼の報告を済ませたユウは、その後マレと別れアルテを連れてブランの宿屋へと連れ帰った。

 宿屋の扉を開けるとミーナが「ユウさん!おかえりなさーい!」と元気よく出迎えてくれた。

 その声につられたブランが奥から出てきて言った。


「おう、やっと帰っ来たか。ちゃーんと部屋は空けてあるぜ……ん?そちらのお嬢さんは?」


 アルテを見たブランが惚けた顔をする。


「ああええと……こいつはその、まるっきり赤の他人なんだけどその、色々と事情があって……」


 ユウが彼女の説明に言い淀むと、突然アルテが腕を組んできて言い放った。


「ねえ、私達ってなんなの?仲間?友達?それとも……」


 ブランがまさかって顔をする。


「仲間だ仲間っ!腕組むな!」


 ユウが慌てて乱暴に腕を払い除けると、アルテが悪戯に笑った。

 なんて奴だ、とユウは顔を引き攣らせた。


「はぁ……もういいそれよりブラン、こいつにひとつ部屋を貸してやってくれないか?」


 ユウが諦めて本題に入ると、ブランは少し言いづらそうな顔をして言った。


「ああ〜実はな、今満室なんだ。お前の為にいつもの部屋は空けてあるんだが、それ以外は全部埋まっててな。それもしばらくの間は予約で部屋をあけられそうもない。すまねえな……」

「そ、そうか……しかたないな」


 もともと部屋をひとつ使わせて貰ってるだけでも感謝すべきこと。もうひとつ貸してくれなんて図々しい話だ。


「ユウ君どうするの?」


 隣でアルテがユウの袖を引っ張った。

 そんな彼女を横目に睨む。

 他の宿屋に一人で泊まらせるなんて危険すぎて出来ない。それにそんな金もない。


「ちっ……とりあえず俺の部屋に来い」

「わーい。わたし誰かの家にお泊まりするの夢だったの〜」


 アルテが嬉しそうに言った。

 バカかこいつ。


 部屋へ入るとアルテが突然両手を広げて走り出し、ベッドへダイブした。


「何してんだてめえ」

「わはっ、凄いふかふか……!ユウ君普段こんなにいい宿に泊まってるんだ〜」

「いいからどけ。そこは俺のベッドだ」

「え、じゃあ私どこで寝れば」

「床に決まってんだろ。ブランに頼んで布団持ってきて貰えよ」

「わ〜お……ドライ」

「うるせ」

「ほんと女の子の扱いが雑だね。そんなんじゃモテないよ?」


 するとユウは鞄を床に投げ置いて、ベッドに腰掛けるアルテにおっかない顔で迫り、


「きゃっ」


 彼女の肩を掴んでベッドへ押し倒した。


「な、なに……?」

「いい加減にしろよてめぇ……」


 額が当たりそうなくらい顔を近づけ、彼女を睨みつける。

 アルテのキラキラしたスカイブルーの瞳がかすかに揺れ、頬が染まり視線がそらされた。


「おい聞いてんのか」

「は、離してよ……顔近い……」

「おめえが調子乗ってるからだろ。今の状況わかってんのか?男と同じ部屋で寝泊まりするんだぞ?もっと警戒心を持ちがれ」

「でも、君は変なことしないでしょ……」

「そういうことじゃねえ!お前の命は今や俺の命でもあるんだ。もっと自分の身の安全を考えて行動しろ。たくっ、ふざけた呪いかけやがって……てめえのせいでこっちは命の危機なんだよ」


 ユウは彼女から手を離し、ドカッと椅子に腰かけた。


「くそが。封印から助けてやったのに、その礼がこれとはな。呪いが無ければお前なんて叩き斬ってるところだ」

「……」

「おいてめ」


 アルテの反応が無いので視線を向けると、彼女は静かに涙を流していた。

 思わずぎょっとする。

 流石に脅かしすぎたかと思ったが、実際に一発ぶっ飛ばしたいくらいには腹が立ってるし、これくらいやって当然だと思い直す。


「な、泣いたって意味ねえぞ。俺は」

「わかってるよ。私、君の邪魔ばかりなの。こんなはずじゃなかったのにな……」


 彼女は笑いながら涙を拭う。


「ちょっと浮かれすぎちゃった……君といるのが楽しくて、君ともっと仲良くなりたくて、一人で勝手に盛り上がって……それで、失敗ばっかり。恩人の君にいっぱい迷惑かけちゃってる。ほんと、ごめんね……」


 感情を殺すみたいに、彼女は下手くそに笑った。

 そんな彼女から、ユウは居心地の悪くなった視線を外した。


「お前の感情とか、お前の過去とか運命とか、んなもん俺の知ったことか。お前が死ねば俺が死ぬ。今あるのはそんだけだろ。だったら俺はお前を守らなくちゃならない。だから協力しろ……お前は俺が守ってやるから、お前は大人しく俺に守られてろ」

「ユウ君…………」


 アルテは吹き出して笑った。


「それ、なんか……愛の告白みたい」

「やっぱ舐めてるだろお前」


 その夜はあまり寝付けなかった気がする。


 *


 ここは王都フェルマニス中央区、とある屋敷の応接間。シャル、ユウ、アルテの順に三人が横並びでふかふかのソファーに腰掛けている。

 中央区に住居を持つ人間なんてよっぽどの富豪と決まっていて、この商人の屋敷もかなり立派な造りだった。

 敷居の高い空間に、ユウはなんだか落ち着かない。

 あっちこっちに飾ってある装飾品骨董品の数々が視界にチラチラ入ってきて、触って壊したらと思うと無闇に動けない。


「いいかアルテ、その辺の壺とかに絶対触るな……よ」


 視線を向けた時には既に、近くにあった大きな壺にアルテが触れようとしてる寸前だった。

 ユウが睨みつけたことで、アルテはギクッて顔でユウの隣に座り直した。


「なんだ兄ちゃん緊張してんのか?もっと楽にしろって」


 シャルがへらへらとそう言った。


「緊張なんかするかよ。ただこういう意味もなくギラギラした空間が落ち着かないだけだ。ここに住んでる奴の気が知れないね」

「は〜貧乏人思考だなー。今からそんなんじゃ、将来金持ちになった時に金の使い道に困るぞ」


 オンボロの借家に住んでる奴に言われたくない、と思う。

 仮に自分が金持ちになったとしても、絶対無駄な金の使い方なんてせず貯金とかするに決まってる。


「お待たせしましたシャル殿」


 応接間の扉が開き、細身のおっさんが入ってきた。鼻下のちょび髭がいかにもって感じで、普段は紅茶でも啜ってそうな優雅な男だ。彼がこの屋敷の主であり、シャルが紹介してくれた商人であった。

 今日はこの商人に、迷宮で手に入れたマナ鉱石を売り付けるのが目的だった。


「これはまた……とんでもない品を持ってきてくださいましたね」

「だろ?あたしのお墨付きだ」

「シャル殿が鑑定してくださったのでしたら、やはり間違いは無いのでしょうな」


 シャルは商人に随分と信頼を買われている様子だ。彼女がそれなりに有名だという話はやっぱり本当みたいだ。


「そうですね、金貨六十……いや七十枚出しましょう。如何ですか?」


 数字を聞くだけでそわそわする。

 金貨七十枚。オークションに出せば百枚は超えるとシャルは言っていたので、凡そ30%ダウンと言ったところ。即現金で用意してくれると言うので、ユウとしては悪くない条件なんじゃないかと思った。

 しかしシャルは、


「おいおい、こんな時まで金額小出しにしてくんのやめろよな。最低八十はいくだろ」

「ははは、いやシャル殿には敵いませんな。つい商売人の癖で……では金貨八十枚で」

「おいおい、最低つったろ。どうせ競売掛けるんだから金貨百枚なんてすぐ超えるさ。九十でどうだ?」

「そ、それはちょっと……」

「嫌なのか?嫌ならいいぞ、他の商人とこ持ってくからな。あたしの横の繋がりはあんたも知ってんだろ」

「うぅ……分かりました。シャル殿にはいつもお世話になっていますし、では金貨八十五枚でどうでしょう。流石にそれ以上はわたしも……」

「よし決まりだ。金貨八十五枚で交渉成立だ」


 シャルはその条件であっさりと身を引いた。商人はこりゃ一本取られたって顔をしている。

 正直ユウは今でもこの世界の通貨価値があやふやな状態だし、値段交渉なんてしたことも無い。今回の件はシャルに任せて良かったと心底思う。

 その後は商人へマナ鉱石を引渡し、代わりにフェルマニア金貨八十五を受け取ることで無事取引を終えることが出来た。


 取引を終え屋敷の外へ出たユウは、大きく太った銭袋を震える手で握りしめた。


「つ、ついに……手に入れちまった……大金を……」


 周囲を見渡し、あせあせと鞄の中にそれをしまい込む。

 近くを歩く人間が全員敵に見えてきた。


「あんまビクビクしてっと逆に怪しいぜ。兄ちゃんから金奪える奴なんかその辺歩いてねえよ。だいじょぶだいじょぶ」


 シャルはへらへらとそう言うが、そう簡単な話じゃない。


「んで兄ちゃん達、この後はどうすんだ?」


 頭の後ろて手を組んで、シャルが呑気に尋ねた。

 この後の予定は凡そ決まっている。


「ギルドに行ってこいつの傭兵登録をら済ませるつもりだ」

「え?わたし、傭兵になるの?」


 それを聞いたアルテが不思議そうな顔をする。

 ユウはアルテに傭兵登録をさせるつもりでいた。

 傭兵の仕事には一定の危険が伴う。しかしだからと言ってアルテから目を離すことも出来ない。ユウの預かり知らぬところで勝手に死なれたら困るからだ。

 だったら彼女も傭兵になって、一緒に依頼を熟せばいいと考えた。そうすれば依頼の人数制限もクリア出来るし、何かと都合がいいと思う。

 するとシャルは数秒何かを考えた顔をして言った。


「んじゃあ大して時間を気にする必要も無いな。二人とも、ちょっとツラ貸してくんないか?」


 ユウとアルテは二人して首を傾げた。


「なにすぐ終わるさ。ちょっくら合わせたい人がいてな。タダで商人に合わせてやったんだし、それくらいはいいだろ〜?」


 シャルは変わらず頭の後ろで腕を組んでヘラヘラしてる。それが何だか妙に怪しく思えた。



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