37.情報屋
「な、ななななんだお前……ば、ばばけもの…………」
彼女の怯えようにユウは首を傾げた。
人の顔を見るなりバケモノだなんて失礼な奴だ。
突然尻もちをついた猫耳少女を見て、マレも困惑した顔で問いかける。
「シャルさん、どうしましたか?」
「マ、ママママレっち!こ、こいつは一体っ……一体何者だぁ!?」
「ああ、ご紹介しますね。こちらは傭兵のお仕事でパーティーを組んでもらってるユウさんです。そしてこちらは私のお友達のアルテさんです」
するとアルテが感激した様子でマレの手を取った。
「わたし、お友達でいいの……?」
「勿論です!よろしくお願いしますね!」
「……!」
キラキラした目でアルテが声にならない声を上げる。
――バカが……勝手にやってろ。
ユウは二人を無視して、尻もちをついてる猫耳少女に手を差し伸べた。
「立てるか?」
「え、あ、ああ……」
少女はユウの手を掴みゆっくりと立ち上がる。
すると彼女はジッとユウの顔を見つめたあと「ほ〜んなるほどなるほど……そういうことか……」と口角をちょっと上げて笑った。
「いや〜取り乱して悪かったな……久々の客が来て驚いちまった。あたしはシャル、よろしくな兄ちゃん」
先程とは打って変わって、シャルはあっけらかんと握手を求めてくる。
戸惑いながらもその手を握ると、彼女はユウの体の隅々を上から下まで舐めるようにじっくりと見て回った。
それが終わると今度はアルテの方へ向かい、同様に彼女の身体を品定めの如くあちこち見つめる。流石のアルテも困惑した表情を浮かべた。
すると今度は猫のように機敏に動いて、カウンターテーブルに肘を着いてもたれかかった。
「それで?鑑定して欲しい品物はなんだ?あたしんとこに来るってことは相当レアな物品を持ってきたんだろうな」
これまた変な奴だなとは思いつつ、ユウは彼女に自身の左手首を見せた。
「これなんだけど、何かわかるか?」
その手首には腕輪のアーティファクトによって刻まれた黒い紋様が張り付くようにあった。
「これは……」
「元は腕輪型のアーティファクトだったんだ。それがこんなことになっちまった。元に戻せるか?」
するとシャルは真剣な目でその痣を見つめたあと、随分と軽い口調で言った。
「こりゃ呪いだな。兄ちゃん、呪われてんぜ」
「え?」
「ついでに言うとそこのねーちゃんもな」
「えっ、わたし?」
アルテが驚いた表情で自分の顔を指さす。
ユウの頭はこんがらがった。
「ちょ、ちょっと待て……これはアーティファクトによるものだ。それがなんで呪いに」
「そのアーティファクト自体が呪具だったんだろ。アーティファクトって言っても全てがいいものとは限らねえからな」
唖然とした。もう既にイヤになっているが、その先を聞かざるを得ない。
「そ、それで、どんな呪いなんだ」
シャルはタメもせず、あっさり答えた。
「片方が死ねば、もう片方も死ぬ呪いだ」
「は………………はあ〜っ!?」
ユウは思わずシャルの両肩に掴みかかり、ぐわんぐわんと彼女の頭を揺らした。
「なななんだよそれ!どーなってんだよ!」
「し、知るかよ……!自分らでかけた呪いだろ……!」
「ど、どうしたらいい……呪いを解く方法は……!」
「そこまでは知らん。多分その呪いは今で言うところの婚約指輪。番に対する揺るがぬ愛の証明だったんだろう。ロマンチックでいいじゃねーか」
「いいわけねぇだろ……!」
「ま、見る限りその呪いは相当強力だ。並の神聖術では解呪はまず無理だろうな。もとの腕輪に戻すことも当然不可能だ。諦めな兄ちゃん」
あまりのショックに、ユウは膝を着いて項垂れた。貴重なアーティファクトを失った挙句、アルテが死ねば自分も死ぬ呪い。馬鹿げてる。こんな話があってたまるか。
すると絶望するユウの肩に、アルテがそっと触れた。
「な、なんかごめんね……私のせいで……」
すると続いてマレが、
「う、腕輪のことは仕方ないですよ……!また別の依頼で稼ぎましょう!それに呪いを解く方法もきっとありますよ!私も協力しますから……!」
しかしもはや答える気力もない。
するとシャルが欠伸をして言った。
「〜んで?これで終わりか?他に鑑定して欲しいものはあるのか?」
ユウは窶れた顔を上げ、仕方なく鞄からもそもそと宝石を取り出した。
それを見た途端、シャルが目の色を変えた。
縦十二センチ、横六センチ、厚み五センチ程の青紫色に輝く半透明の鉱石。アルテが封印されていた祭壇を守っていた黒騎士から剥ぎ取ったものだ。それなりの値がつくかもと思い持ち帰った。
「兄ちゃん、これをどこで手に入れた……」
「ん……迷宮で襲ってきた魔物から……」
「こいつはすげえぞ。とんでもねえマナ鉱石だ」
「え?」
ショックで惚けていたユウの顔が上がる。
「魔力耐久度も蓄積量も一級品の超レア物だ」
「ほ、ほんとか……?」
それを聞いてユウの瞳に光が戻る。
「ああ、こんな代物となると競売にかかるレベルだ。いくらになるか予想もつかないが、最低でも金貨百枚は下らないんじゃないか」
「ひゃく!?」
あまりの衝撃にユウの声がひっくり返る。
「へ〜よく分かんないけど凄いね!よかったねユウ君!」
「やりましたねユウさん!大金持ちですよ!」
アルテとマレが煽てるもんだから、何だか浮かれてきたユウは前のめりで尋ねた。
「そ、それで、オークションにはどうやって出品すれば?」
「そうだなー、でかいオークションだと四半期に一度くらいのペースで開かれるやつがあるんだが、その時に審査を通過すれば出品出来るはずだ。羽振りのいい貴族や商人なんかがこぞって参加するから、かなり値段は競り上がると思うぜ。次のオークションだと建国祭の時だから……今からだと開催されるのは約ひと月半後だな」
ひと月半か、とユウは渋い顔をした。
出来れば早く金が欲しい。迷宮探索のための準備金のせいで今は懐が寒い。王都内で生活するだけでもカツカツだし、何よりも。
ユウはアルテを横目に一瞥した。
相も変わらず彼女はキョトンとしている。
一番の問題は彼女だった。
本当は手首の痣の件が解決したら彼女を放り出すつもりでいた。しかし二人に掛けられた呪いは、一方が死ねばもう一方も死ぬ。迂闊に彼女を放り出せば、どこで何があるかわからない。何らかの方法で呪いを解かなければ、ユウは今後彼女と離れることが出来ないのだ。
となればだ。今後の生活資金は単純計算で二倍、彼女の身に危険が及ばないよう対策を打つにしても金がいる。
今の所持金と稼ぎでは、どう考えてもひと月半なんて持たない。
――くそくそくそっ……本当に邪魔しかしねえ奴だ。
睨みつけたアルテが何を勘違いしたか、ニコッと可愛らしい笑みを飛ばしてきた。
呑気すぎて腹が立ってくる。
ユウが悩んでいるとマレが声をかけてきた。
「ユウさん、どうかされましたか?」
「ん、ああ……実は色々とわけあって、出来れば早く金が欲しいんだ」
「でしたら、オークションはやめて依頼通り伯爵様に直接お渡しするのはどうですか?そうすれば直ぐに報酬が受けられますよ」
確かに、と思う。元々は伯爵の依頼で迷宮内の宝を探してたわけだし、依頼が締め切られたあとでも交渉は出来るはず。
そう考えたとき、シャルが割り込んだ。
「ばっか、お前ら。伯爵なんかに売ってどうする。やめとけやめとけ。足元見られんのがオチだ」
「じゃあどうすれば」
「あたしが知り合いの商人に掛け合ってやるよ。オークションで売るより値が下がる可能性はあるが、あたしが仲介すりゃかなり高額で買い取ってくれるはずさ」
「ほんとか?」
「ああ、あたしに任せな」
シャルはにんまり笑う。
彼女はマレの友人らしいし、嘘ってことはないと思いたい。他にアテもないし、仕方がない。
「じゃあ頼」
「ただし、仲介料はきっちりいただくぜ?こっちも商売だからな。ま、それを差し引いても伯爵なんぞに売るよりよっぽど良いはずさ」
抜け目のない奴だ、とユウは眉を顰める。
しかしマレは、
「シャルさんはこう見えてすごく信頼出来る方ですよ」
と言うので仕方ない。今はすぐにでも金が欲しい。世話になる分、それくらいは覚悟しなければならないとユウは踏ん切った。
「わかった。じゃあよろしく頼む」
「にっしし……契約成立だな。今日中に話はつけといてやる。明日明後日にでもあたしのところに来な。商人のとこまで案内してやるから」
「わかった」
「んで〜?他に鑑定が必要なもんはあるか?」
シャルはニヤニヤと言う。
「他に……?んと、そうだな……あとは……」
何かないかと巡らせた思考が、腰の黒剣に行きついた。
「そうだ……この剣なんだけど」
そう言って鞘から抜かれた漆黒の剣が天井のランプによって怪しく光った。
するとシャルがまたしてもニヤッと笑みを浮かべた。
「ふふっ、実はな、兄ちゃんがこの店に入って来た時からず〜っと気になってたんだ」
「……?」
「結論からいうが、こいつは魔剣だ」
「魔剣?」
「ああ。それもただの魔剣じゃねえ。ざっと見立てでランク8相当の魔剣だ」
「ランク8?」
いまいちピンと来なくてユウは首を傾げた。
その様子を見たシャルは、
「あーそっかそっか、兄ちゃんはこっちの世界の常識には疎いんだったな」
「……は?」
ユウの眉がひん曲がる。
それを見て、シャルがギクッて顔をする。
「なっはははっ!何でもねえこっちの話さ。ランクってのはあれだ、武器につけられた指標みたいなもんだ。ランクは1から10まで、10に近づくほど強力ってわけだ。街で買える高級武器屋の剣が、大体5から6ってところだな。どんなに腕のいい鍛冶師がドラゴンの素材を使ったとしても、ランク7が限界じゃねーかな。でもこの剣はランク8、世界に二本とない名剣さ」
確かに言われてみれば、この剣の斬れ味はあの白竜の鱗を断つほどだった。名剣に間違いは無い。
「剣名はグリムキャベル。特殊効果があるわけじゃないが、圧倒的斬れ味と強度、それに魔力耐久度もかなり高い。その辺のマナ鉱石なんかより遥かにな。特に斬れ味に関しちゃ、ランク10の伝説剣に匹敵すると言っても過言じゃない代物だ」
話を聞く限り、やはりただの剣では無さそうだ。
握った漆黒の剣を改めてまじまじと見つめるユウ。
怪しく光る刀身が、彼に息を呑ませた。
「しっかしたまげたぜ。こんな代物そうそう拝めないからな」
「てことは、同等の剣を見たことはあるのか?」
「まーな、ランク10の剣を持ってる奴を見たことがある。それを見るまでランク10の武器なんておとぎ話だと思ってたけどな」
――これより強い剣を持ってる奴がいるのか……。
「一体どんな奴が」
「おっと、これ以上喋るつもりは無いぜ。聞きたいなら金を払いな」
「えぇ」
「言っただろ?鑑定は本職じゃないんだ」
「え、じゃあ」
「あたしの本職は情報屋だよ。鑑定はおまけ。王都の傭兵の間じゃ割と有名な方さ」
マレが有名だと言っていたのはこの事だ。しかしこんな年端もいかない少女が情報屋とは、にわかには信じがたい。
「兄ちゃん、今こんな超可愛い美少女が情報屋だなんて信じられねーって思ったろ」
「いや、別に」
「こう見えてあたしは目がいいもんでね。今みたいに見るだけで色んな情報を得られちまう。それを知りたい奴らがウチに来んのさ。そこでまた色んな情報があたしんとこに入ってくる。兄ちゃんがレアなマナ鉱石と魔剣を持ってるってのも大事な情報さ」
ユウは顔を引き攣らせた。つくづく抜け目のない奴だと思う。
だが、役にはたった。彼女に見てもらわなければ呪いのこともわからなかっただろうし。
「よし、そろそろ帰るよ。世話になったな。また明日来るから、そん時はよろしく頼む」
帰って考えなきゃいけないことが山ほどある。特に呪いのことについて。
ユウが足早に店を去ろうと背を向けると、
「ちょいちょい兄ちゃん、なんか忘れてないか?」
シャルが空中で手をひらひらさせている。
ユウが首を傾げると、
「お代だよオ、ダ、イ。鑑定してやったろ」
「え、金とんのかよっ」
「たりめえだろ!誰がタダで鑑定してやるっつった!」
マレの紹介だし、てっきりタダで見てくれるのだとばかり思っていた。
「え〜と今回の依頼は腕の呪い、マナ鉱石、魔剣の鑑定……合わせて銀貨三枚だな」
「はあっ、そんなすんのかよ……!」
「たりまえだ。あたしの鑑定は一級品だからな。そんじょそこらの似非鑑定士と一緒にすんなよ。んま、マレっちの知り合いだしな、これでもマケてやってるほうだぜ」
ユウは物凄く嫌そうな顔をして、懐からコインの入った麻袋を取り出した。
中身を見て血の気が引く。昨日二人分の衣服を購入したせいで、本当にギリギリだ。
ユウは唇を噛み締めながら、渋々指定された銀貨三枚をシャルの手に乗っけた。
「へへん、まいど!また来てくれよな!」
これでようやく店を出られる。
と、その前にひとつ確認しておくことがあった。
「アルテ、マレ、一緒に店の外で待っててくれないか。ちょっと彼女、シャルと話したいことがあって」
「……?」
「わかりました。では行きましょうアルテさん」
二人は不思議そうな顔をしつつ、店の外に出て行った。軋む扉がしっかり閉まったのを確認して、ユウは振り返りシャルの顔を見据える。
「何だい兄ちゃん。もしかしてマレっちに恋人がいるかどうか知りたいのか?金払ってくれるんなら勿論情報提供するぜ〜」
頭の後ろで腕を組んで、シャルは呑気に笑っている。
そんな彼女にユウは、静かに刃を向けた。
「……えっと、あ、あれ?おいおい兄ちゃんどうしたよ急に」
突然の出来事にシャルは笑いながらも焦りを滲ませている。
「お前、俺の正体に気づいてるだろ」
沈黙。
「な、ななななんのこだか、え、えぇ?正体?ほ、本当に何のことだかさっぱり」
「とぼけんな。鑑定の最中言ってたよな。俺がこの世界の常識に疎いって。ありゃどういう事だ」
「ギクッ」
「だいたい最初から怪しかったんだよ。人の顔見るなりバケモノとかぬかしやがって、アルテのこともジロジロ見てたな。お前のその目は、見た相手の名前や素性も知ることが出来る……そうだろ?」
「ギクギクッ」
反応を見る限り間違いない、そうユウは確信する。
出会い頭に腰を抜かしていたのは、きっとユウの強大なマナを目撃したから。鑑定で剣の名前までわかっていたのだから、ユウの本名だって見えてるのではないか。ということはきっと肉体のマナ強度だけじゃなく、異世界人の勇者であることもバレている。
それにこいつは情報屋。金を積まれれば誰にでもこのことを話すに決まってる。もしもこの情報が漏れれば、また第一王女に狙われる可能性がある。
「くそ、殺すしかない……」
「は、はあ!?正気かよ兄ちゃん!?冗談はやめてくれ!」
「俺の名前、そして異世界人であることを知られたからには殺すしかない……」
そうしなければ、またあの地獄に。それも今のユウにはアルテという最大の弱点がある。取り返しがつかなくなる前に手を打たなければ。
ユウは剣を振り上げた。
「ひ、ひぃっ!?そ、それでも勇者かよあんた!?」
その言葉にユウの眉がピクっと跳ねる。
やはり、思った通りだった。
「やっぱりな。悪いが死んでもらう」
「ちょっ、ちょっと待てよ!あたしを殺したらマナ鉱石を売れなくなるぞ……!」
ユウの手が止まる。
「そしたら自力で商人探して売るさ」
「む、無理だね……まずちゃんとした鑑定士に鑑定書を作って貰わなきゃならねえし、それで売却出来ても大した額にはならねえ。兄ちゃんが大損こくだけだ」
「なんだと?」
「言っただろあたしはこの辺じゃ有名だって。あたしの鑑定技術が優れてるのはどこの商人だって知ってるし、横の繋がりも多い。あたし以上にそのマナ鉱石を高く売れる鑑定士はいないね」
悩む。死に際の口八丁かもしれないが、マレも彼女は有名な情報屋だと言っていた。
金は欲しい。だがリスクはここですぐにでも排除してしまいたい。
「頼むよ兄ちゃん見逃してくれ……!このことは誰にも言わねえからよ!この通りだ……!」
シャルは大袈裟に頭の上で手を合わせる。
しかし、
「すまないが俺は、お前を信用出来ない」
再び剣を振り上げた。
「ままま待ってくれ!そうだっ、今後は兄ちゃんに協力する!アンタの知りたい情報ならいくらでも教えるよっ!………………に、二割引で」
再び剣を振り上げた。
「ままま待ってくれぇ!!教える教えるっ!全部タダでいい!!」
「鑑定料と商人の仲介料もだ……」
「悪魔かてめぇ!!」
話はついた。
彼女を生かすことはリスクだが、この情報網と鑑定技術は有用性が高すぎる。この女の利用料もタダになったことだし、今殺すには惜しい。
シャルはシクシク泣きながら小声で愚痴をこぼしている。
たがそんなことよりも、重要で気掛かりなことがあった。
「それにしてもその鑑定の眼……厄介だな。今後街を気軽に歩けねえぞ」
呑気に街なんて歩いていて、もしシャルと同じ眼を持っているやつに姿を見られでもしたら大変なことになる。
「その辺は大丈夫だと思うぞー」
「どういうことだ?」
「これはあたしの天恵〈神眼〉によるものだ。見たもののあらゆる情報を看破する。並の鑑定士はこんなの持ってねえし、大抵はものの善し悪しがわかる程度さ。神官とかだと相手の天恵を見破れる奴もいるらしいけど、抑制された肉体のマナまでは見れないさ。むしろ聖騎士みてえな奴らの方が、そう言う意味では厄介かもな。あの辺の化け物どもはそうゆうマナの揺らぎには敏感だろうから。もっとも、そんな手練の奴らと街中で遭遇することなんてまあ無い。安心しな」
彼女の話が本当ならいいのかだが、聖騎士レベルの強者とすれ違わないとも限らない。気を抜くことは出来そうもない。
「なあ、そういった素性とか顔とか、マナの強さを隠すことが出来る魔法のアイテムみたいなものは無いのか?」
「ああ?んだそりゃ、んなもんあるわけ……いや待てよ。確か以前そんなアーティファクトがあるって聞いたことあったな……」
「ほんとか?」
「ああ。確か知り合いの商人が手に入れたとか何とか……」
そいつはいい、とユウは口元を緩めた。
「んじゃあ、そのアーティファクトの情報を探ってくれ。そんで見つけ次第俺のところへ持ってこい」
「はあ?無茶言うなよ。そんな代物いくらすると思って」
「そうか。協力しないんだな」
ユウは腰の剣を少し抜いて刃をチラ見せした。
「う、うそうそ……協力するって」
「ならいいんだ。心配しなくても金は俺が出してやるから」
「くっ……んなの当然だろ」
歯を食いしばるシャルの顔に「こいつ覚えてろよ」と書いてある気がする。
「そうだ。早速で悪いけど、情報を教えてくれ」
「この野郎……あたしを無料で使い倒す気だな。何だよ」
「城にいる勇者達に関する情報だ」
別に、アイツらのことが気になるわけではない。今後の為にも一応知っておいて損は無いと思っただけだ。
「勇者に関する情報はかなり秘匿されてるからな。あたしの所にも殆ど入ってこねえ。ただひとつ、聖女に関する情報なら聞いたぜ」
「聖女……?」
アリスの顔が頭に浮かび、腹の底に不快感が湧き上がる。
「どういう情報だ?」
「なんとな、第二の聖女が現れたって話だ」
「第二の聖女?」
「しかもそれがなんと、カーディア帝国の神官らしい」
カーディア帝国。フェルマニア王国の隣国、世界四大国のひとつである。帝王が治めるこの国は、世界平和が実現した現代でも武力軍力を高め続ける実力至上主義の軍事国家であった。
「三百年前から現在に至るまで、聖女は常に一人だった。聖女が死ねば、また新たな聖女が誕生する。そうやって何代にも引き継がれてきたのがフェルマニアの聖女だ。それが何と同時に二人目の聖女が現れた。しかも史上初、フェルマニア以外の国で聖女が生まれた。まだ公になってない情報だが、信憑性は高いらしいぜ」
「ふーん」
「ふーんて、興味なしかよ」
「興味ねえもん。んじゃあ、第一王女について何か知らないか?最近の動向とか」
「第一王女ぉ?王族の情報なんて滅多に入ってこねえよ。アイツらそもそも活動範囲がほとんど城の中だからな」
せっかくいい情報源を手に入れたと思ったのに何だかパッとしない。
「はあ、まあいい。また情報が入ったら教えてくれ」
「ちぇ、しゃーねーな」
「あ、そーだそれと」
ユウは入口のドアに目をくれて、少し声のボリュームを下げて尋ねた。
「あの女……アルテについて何か分かったか」
「ん?あの姉ちゃんか?」
「見たんだろ?あいつのことも」
「んまあな。詳しくは何もわかんなかったが、兄ちゃんの推察通りあの姉ちゃんも只者じゃないのは確かだ。腕にかかった呪いとは別に、別の呪いのようなもんが引っ付いてる。おそらくマナとか天恵の類を封じ込めるものだ。たから、あの姉ちゃんはいま物凄く貧弱だ。ちゃんと守ってやらねえとあの姉ちゃん諸共、兄ちゃんも死んじまうぞ?」
ユウは顔を渋らせた。
本当に厄介なことになってしまったと痛感する。
「それじゃ、マナ鉱石の件は頼んだぞ」
そう言ってユウは彼女へ背を向け、店の扉まで歩いた。その途中で思い出したように足を止める。
「ああそうだ……ひとつ言っておく。お前もわかってると思うが、俺は強い。もし俺に関する情報を誰かに口外したらその時は」
「はいはいわーてるっての。あたしも兄ちゃんみたいな怪物敵に回すほどバカじゃねえよ。それに、今この街を出る訳にもいかないもんでね」
シャルはため息混じりにそう言った。




