宋飛44
唐飛を失い、その仲間達で意識のある者も、もう誰も止めようとはしてこなかった。
村人を威圧しないために、宋飛は軍をその場に残し単身で村に向かった。
老人が一人、村の入り口で待っていた。
「揚州軍の宋飛といいます」
「村の長をしておる者です。しばらく前から様子を見守っていました。どうやら、本当に軍のお方のようだ」
「若者たちには手荒なことをしてしまった。特に唐飛という男には。それについては、どうか悪く思わないでほしい」
「むしろよく殺さずにいてくださいました。あれらは人一倍血気盛んなところがありましてな」
老人が困ったように笑いながら言った。
「唐飛は特にそうでした。でも、村を大事に思ってくれているのは伝わっているので、みんな奴が好きなのですよ」
敵ではないと分かったのか、隠れていた村人が少しずつ姿を現した。
「俺たちがこの村に害をなすことはありません。食料と水を譲ってほしい。代金は市場と同じ値で払います」
宋飛は村長に銀の小粒を二つ渡した。
「少し多すぎますな」
「それなら馬のために秣があれば、それもお願いしたい。我々は少し離れたところで一晩だけ野営するつもりです」
「その程度はお安い御用です。豚を解体して調理するのに村の者を出しましょう」
村長は村人たちに指示を出し始めた。
夜になり盛大に火が焚かれ始めた。
宋飛は将校用に用意された場所に座っていた。
王蓮と班礼も兵の手配を終えて宋飛の隣に腰を下ろした。
「兵たちは久しぶりの肉に喜んでいます」
「たまにはこういう息抜きがあってもいいだろ」
調練中など普段は兵糧だけで済ますことも多い。今日はうまい飯を、腹一杯食うことができる。兵にはそういう日も必要だった。それに、わずかだが酒も村から譲ってもらって出回っているようだ。
「おう、お前もこっちへ来い」
あの唐飛が俯いてそばに立っていた。
「俺たちは賊徒ではないぞ」
「もう俺も分かっていますよ。先ほどは失礼しました。村長にこっぴどく叱られました」
「お前がしたことは間違いではない。むしろよく役目を果たしていると思ったほどだ。賊徒や不正をする役人をのさばらせている俺ら軍人の方が悪い」
「いえ、そんなことは。隊長殿、お願いがあります。俺を連れて行ってくれませんか」
「村長殿からもそう言われたよ。このままじゃ、お前がいつか死んでしまうって本気で心配していた」
「俺は自分が強いと思っていました。でも、この小さな村に縮こまっていただけだったんですね」
「そう思えたらお前はもう十分に強いよ」
「もっと強くなりたいのです」
真っ直ぐな目だった。個人の強さを求めることにそれほど意味はない。だが、うまく使えば、それが人の世の役に立つこともまた事実だった。
「この村を離れることになるぞ」
「揚州はこの村からも近いです。俺が人として大きくなることで、もっと広くこの村のためにできることがあると思ったんです」
「軍は甘くない。後悔するかも知れない」
「あの王蓮殿よりも強いという隊長殿に鍛えてもらえるなら、これ以上はありません」
「しばらく俺の従者をしていろ。すぐに後悔させてやるさ」
王蓮と班礼が顔を伏せて笑い出した。




