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宋飛  作者: たいてん
36/54

宋飛36

馬冲はひたすらに燕広を追っていた。


その度に側近の童順が遮ってきてなかなか近づけないでいた。


童順は両手に小さな斧を持ち、こちらの味方の船に乗り込んでは沈めていく。


馬冲は燕広側近の二人を、昔からよく知っていた。


父を幼い頃に亡くした馬冲は、兄の馬麟を別にすれば、最も小さい頃からよく可愛がってもらっていた二人に親にも似た感情を持っている。


弓の名手であるいつも冷静な扈応と、斧の豪傑である荒々しい童順は、馬冲から見てもいい組み合わせだった。


兄の馬麟も頼りにしていた海賊団の主力の一角だったのだ。


今、目の前にしている童順は、まさに海賊という名に相応しい荒くれ者だった。


味方の時は頼もしかったが、その殺気がいざ自分に向けられると流石に身がすくむ思いだった。


そんな自分を振り払うように馬冲は大声をあげた。


「副将・扈応を討ち取り、すでに戦局はこちらが有利だ。我らが足を引っ張るわけにはいかないぞ」


部下を鼓舞すると同時に自らに向かっても言い聞かせている。


童順はすぐ目の前にいて、こちらから目を離さない。


「なかなかの操船だ。思ったよりやるではないか、馬冲殿。こちらの数の利が活かせん。さすがは馬麟様の弟だ」


童順が斧を目まぐるしく使いながら叫ぶ。


次の瞬間、童順は馬冲の船に跳躍してきた。


「ではそろそろ、その首をもらうとしよう。燕広様もさぞ喜ばれるであろう」


いきなり頭上に凄まじい勢いで斧が振り下ろされる。


両手の剣に渾身の力を込めてなんとか受け止めた。


即座に力を受け流し横腹を切りつけるが、刃が身体に弾かれた。


軍包の中に、鎖を着込んでいるのがわずかに見えた。


通常船の上では落ちた時のことを考え身軽にするものだ。


だが、童順ほどの怪力があればその程度何の問題もないらしい。


再び距離を詰めてくる。


両手の斧が次々と振り下ろされるが、かろうじてその手元が見てとれた。


かわせないものは左右の剣でわずかに軌道を変える。


あまり受けていると剣が折れかねない。


なんとか馬冲の部下たちが、敵の後続を引き留めている。


時間をかけるにつれて、一騎討ちの状態の馬冲は船の奥へと引き込んでいく。


意図した訳ではないが、押し込まれ続けているうちにそういう格好になった。


後続が続けないでいるため、すでに童順はこちらの船の中に孤立していることになる。


馬鹿な。死ぬことをなんとも思っていないのか。


いや、


「死に場所を、見つけたのか」


刃を交える童順の目の奥に、諦めにも似た感情が浮かんでいるのが馬冲には見えた。


「俺たち昔の仲間はな、元々強い奴らへの反抗心で集まった。弱い奴らから奪う奴らが許せなかったからだ。このままじゃ俺はそんな奴らになり下っちまう。そんなのは望んじゃいねぇ」


斧を受けた馬冲の片方の剣が折られた。


「腐ったまま老いていくなら、いっそ海賊らしく、思いっ切り暴れてみようじゃねえか」


次の瞬間、大きく血が噴き出した。死んだ、と馬冲は思った。


しかし、飛び出してきた部下が身代わりになって、馬冲の足元に転がっていた。


馬冲は雄叫びを上げ、残った片方の剣を両手で使い、斧を握る童順の右手を斬り飛ばした。


一瞬動きが止まった童順の首めがけて、凄まじい速度で剣を一閃させた。


身体から離れた童順の首が、鈍い音を立てて遠くに落ちたのが見えた。

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