宋飛34
「相手の体勢が整うのを待つな、すぐに攻撃にかかれ」
朱立がそう言うと、合図の太鼓が鳴らされた。
宋飛は朱立の後に控えて全体を見ていた。
海賊団の拠点からは黒煙が上がり、次々と船が沖に飛び出している。
趙清将軍の言っていた仕掛けが効いているようだ。
「数は向こうのほうが遥かに多い。奇襲と船の速さで翻弄しろ」
太鼓と旗の合図で、蘇州軍の船団がいつの間にか縦三列になって相手に突っ込んでいる。
相手も迎撃の構えを取っているが、船の速さが比べ物にならない。
そのまま相手の布陣を突き破った。そして即座に反転して微妙に方向を変えながら再度ぶつかった。
蘇州軍は、速さを活かして位置で優位をとり、複数の船で1隻を囲う。
兵が乗り込み相手を切り伏せるか、船もろとも沈めてしまうことを狙っている。
大抵の敵は、不利と見ると、海に飛び込んで船を捨てるようだ。
海戦に関しては素人の宋飛から見ても、戦闘は圧倒的に蘇州軍有利に進んでいた。
操船の技術はあるが、敵はそもそも海戦など想定してはいなかったのだろう。
朱立はここで相手を打ち果たすつもりのようだ。
「ここまでの戦局は悪くない。しかし、思った以上に数がいるな」
依然として、船の数や兵の数では相手が上回っている。
当初奇襲に狼狽えてバラバラだった相手は、徐々に冷静さを取り戻し始めていた。
敵は小さく三つほどの集団に分かれ、一部ではこちらを押し返し始めていた。
その中の一つの集団がこちらに近づいてきた。
朱立も迎え撃つ体勢を取った。
次の瞬間、届くはずのない距離から強烈な矢が放たれた。
朱立がのけぞり、後ろ向きに倒れた。
肩に矢が突き立っているが、生きてはいる。
「気をつけろ、強力な弓兵がいるぞ」
宋飛は叫んだ。
相手の顔が見える距離になった時、船の先頭に立つ男が叫んだ。
「燕広海賊団・副頭領、扈応である。貴様ら、死ぬ覚悟はできているのであろうな」
次々に矢が風を切る音がした。
互いの距離がどんどん近づいてくる。
身を隠すものがほとんどなく、剣が届かない距離にある船上では、弓は圧倒的な強さを持っている。
宋飛はなんとか飛んでくる矢を避け、あるいは叩き落とした。
敵はこの船が旗船であることが分かっている。
「おい朱立、生きているか」
「なんとか、大丈夫だ」
「あれは相当厄介だ。俺に小舟を一艘貸してくれ、あの弓使いを惹きつける」
「頼む」
すぐに後方から一艘が近づいてきた。
宋飛は迂回し、別方向から敵に向かって突っ込んで行った。
この距離では、三矢は食うことになる。全て避け切れるか。
一矢、身体を掠めたが、辛うじて避けた。
さらに距離が近づいてくる。
二矢、避けきれない。剣で叩き落とす。
三矢、軌道が変わった。
宋飛を素通りする。
盾の合間を縫って、船を漕ぐ櫓手が撃たれていた。
「くそっ」
こちらの船の勢いが弱まる。
四矢目、宋飛の身体の中心に狙いを定めている。
その時、突然相手の船が傾き、弓兵の重心が崩れた。
矢はわずかに宋飛から逸れた。
宋飛はその瞬間を逃さず跳躍し、相手の船に飛び込んだ。
「殺すな、宋飛。その男は拘束しろ」
一瞬どこからか声がした。
宋飛は弓使いを剣の柄で突き倒し、その船を制圧した。
少しして、海から船に姿を表したのは、懐かしい相手だった。




