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宋飛  作者: たいてん
32/54

宋飛32

「燕広様、入ります」


扈応は、村を襲った者たちが返り討ちに遭い、壊滅的な被害を被ったことを燕広に報告した。


次の瞬間、頭に強い衝撃があり、少しして自分が殴り倒されたことが分かった。


「ふざけるなよ、扈応。どうやったら海賊が村人如きに敗れるのだ?」


上体だけ起こして見上げた燕広の顔は赤黒くなっていた。


「どうやら軍の関与があったようです」


再び蹴り倒された。


「今すぐにその村に倍の人数を送れ。絶対に一人も逃すな。この俺に楯突くことの意味を思い知らせてやれ」


そういうと燕広は、側にあった酒を飲み干し、力任せに杯を壁に叩きつけた。


「失敗は許さん。次はお前の命で贖え、扈応」


「はっ、申し訳ございません。燕広様」


下がれというように、手で合図を出した。


うつむきながら、扈応は部屋を出た。




扈応はこの海賊団にいてもう十年になる。


なぜ今になって村を襲わなけばならないのか、納得のいく理由が見つけられなかった。


しかも、その指揮を自分が取る、ということに扈応は頭を悩ませていた。


村を配下に置き、いくらかの物をみかじめ料として出させるならまだしも、わざわざ皆殺しにすることは、かえって自分達の首を締めることになってはいないか。


燕広は、頭領になってまだ日が浅い。


一部の者たちにあった先代への反発から、いつの間にか上に押し上げられたのである。


そのせいか、周囲に自分の正当性を認めさせようと躍起になっている。


正当性で言えば、本来は弟の馬冲が頭領を継ぐはずであった。


未だその行方が掴めていない。


「やはり頭領は焦っていましたか、扈応殿」


扈応と同じく副頭領の立場に立った童順がいつの間にか隣にいた。


「仕方あるまい。いつ誰かに寝首をかかれるかと不安なのだろう。元来、臆病な方だ」


「おっと、やめて下さいよ。耳に入ったらどうします」


扈応の方が童順より年上だが、共に幼い頃、燕広の父に世話になった恩がある。


扈応は弓を、童順は操船の腕を鍛えられた。


そのまま燕広と一緒に海賊団に加わり、最側近として今の立場になった。


「この海賊団の噂を聞きつけ、段々とならず者たちが集まってきている。美味しい思いができるのではないか、とな」


「このままでは近いうちに数千に膨れ上がります。そうなればもはや燕広様は一国の王ですな」


扈応は鼻で嗤いそうになった。


居心地のいい洞穴から出られない王がなんだというのだ。


ただ人々に害をなすだけの存在になるのではないか。


その時、突然大きな声が上がった。


「煙が上がっている!火が迫っているぞ、逃げろ!」


二人は顔を見合わせ、すぐさま広場の方へ駆け出した。

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