宋飛27
宋飛と朱立は剣を構えながら村中を回った。
しかし、見渡す限り血を流して倒れている死体ばかりで、誰一人生きているものはいなかった。
「皆殺しか」
「馬鹿な。この村には三百はいたはずだぞ。それが全員だと」
「女や子供まで殺されていた。しかも、隠れていたであろう家の中で、まとめて切り殺されている死体もあった」
「これは奴らに間違いない。すぐに本営に知らせなければ」
「待て、朱立。この死体はまだ新しい。そして、数えきれない荷車の跡がこの村の先へと続いている」
宋飛は朱立を見つめた。
「この地域は村々が点在している、とお前は言ったな」
「まさか。おい、どこかに馬は残されていないか」
朱立が青ざめていく。
「だめだ、金目のものは何一つ、家畜すらいなかった」
「くそっ、走るしかないぞ。宋飛」
揃って駆け出した。走りながら宋飛は、二人で大人数の賊徒にどうすれば対処できるのか考えた。
間違いなく、敵は百名は超えている。
朱立の強さは知っている。宋飛も負けていない。ともに一騎当千である。
しかし揚州軍で過ごすうちに、戦いは数こそ力だということを、宋飛は嫌というほど学んでいた。
その意味で、たった二人では、できることは限られてくる。
だが、さすがにこの惨状を見て、危機が迫っている村人を見捨てるわけにはいかなかった。
二人は夜を通して駈けた。
空が白み始めた頃、次の村が見えてきた。
近づくにつれて、前方で闘争の気配が伝わってきた。
間に合わなかったのか、いや、間に合ったのか。
すでに、二百名以上の賊徒が村の囲いの中に入って暴れているのが見てとれた。
村の男たちも武器をとって戦っていたが、どう見ても賊徒が優勢である。
二人は走ってきた勢いそのままに、闇に紛れて二十名ほどの集団に突っ込んだ。
背中合わせで次々と剣を振るい、瞬く間に全員を切り伏せた。
「蘇州軍が駆けつけてきたぞ、逃げろ」
朱立が剣を振りながら、何度も大声を上げた。
たった二人だと気づかれない内に、村人に襲い掛かっている賊徒に狙いを定め、次々に切り倒していった。
さすがに、夜を徹して駆け通した直後の戦闘で、しばらくすると、朱立が大きく呼吸を乱しているのが分かった。
宋飛も、同様で、体力はお互いに残りわずかしかなかった。
なんとか二人の連携で隙を小さくして動き回り、囲まれないように走り回った。
段々と周りが明るくなり、ふと、村の中心部に毛色の違う集団がいることに気づいた。
賊徒と戦っている五十名ほどの集団だが、どう見ても村人ではない。
集団での戦い方を知っている動きだ。
大人数を相手に、そのほとんどが傷を負い、かなりの疲れが見える。
しかし、先頭の双剣を振るう男が自ら戦いながら、大声で指揮を取っている。
その若い男の太刀筋は、宋飛にすら軌道が見えなかった。とてつもない速さだ。
その男を中心にうまく戦い、賊徒はなかなか相手を崩せないようである。
そこに、後方から一点を狙って、宋飛と朱立が全力で突っ込んでいった。
取り囲んでいた賊徒が振り返る間もなく、次々に切り倒された。
一瞬の挟撃で包囲が緩み、五十名の集団も息を吹き返した。
宋飛たちは、外からその包囲を突き破り、中の集団に合流した。言葉を交わす余裕はない。
宋飛、朱立、双剣使いの三人で最後の力を振り絞り、全力で前に押し進んだ。
勢いに押され、数が減ってきた賊徒は逃げ出し始めた。
それが呼び水になり、続々と逃げ出す者が出始め、味方の優勢をみて、隠れていた村人も呼応してきた。
賊徒が村を出たのを確認し、宋飛は地面に倒れ込んだ。




