宋飛26
「海賊どもが次に狙うとしたら、この辺りも可能性が高いぞ、宋飛」
船酔いして黙っている宋飛を無視して、朱立は容赦無く会話を続けた。
「何を寝ている。果てのない海と穏やかな風、どうだ、小舟とはいえこんな旅も悪くないだろう」
「すまないが、それどころじゃない。よく普通にしていられるな、お前。蘇州の奴らはみんな船に強いのか?」
「しばらくすれば、嘘のように元気になる。馴れれば、どうということもない。みんな最初だけだ。それと、食い物は食えなくても水だけは飲んでおけよ」
宋飛は返事ができなかった。
あの後、模擬戦が終わって以降も、朱立とは何度か調練を共にした。
いつの間にか、お互いに口調が砕け、気の置けない仲になっていた。
宋飛は、船の揺れに身を任せながら、劉明将軍の言葉を思い出していた。
「この国の現状を見て来い。そして、もし、これはと思う人物に会ったら、揚州によこせ」
果たしてそれは、任務といっていいのか宋飛には分からなかった。
蘇州の趙清将軍とは、あらかじめ話はついていて、宋飛に事情を聞かせるために呼び出したのだと、後になって気づいた。
今は、朱立と二人だけで海賊団の根城につながる情報がないか、探っているところだった。もう十日目になる。
自分達以外にも同様の役目を負っている者たちが多くいるらしい。
そうでもしないと闇雲に探すしかなく、とても討伐などできないのだ。
宋飛と朱立の部下たちはそれぞれ調練に残してきている。
「海は広すぎるからな。蘇州軍では、こうやって各地に数名散羅している。何かしらの足跡を掴むところから始めなければならん。地道な作業だよ」
宋飛は初めて海というものを見た。
話には聞いていたが、大河ですら比較にならない広さなのだというのも頷ける。
こうして各地を回ることは新鮮で、どこへ行っても宋飛は退屈しなかった。
「宋飛、もうすぐ行くと村がぽつぽつと点在する地域だ。今夜はそこに泊めてもらおう」
船を降りて、しばらく内陸の方に歩いていった。
すでにあたりは暗くなり始めている。
「おかしいな。村の明かりが全然見えないぞ」
朱立が言った。
何か肌に刺してくる気配があった。朱立もまた何か違和感を感じたようだ。
ふと血の匂いに気づいた。二人は同時に駆け出した。
しばらくして二人は立ち止まった。
「なんだこれは」
百を超える村人と思われる死体が至る所に横たわっていた。




