IF第4話――心の中の声
はじめましての方も、お馴染みの方も、お越しいただきありがとうございます!作者のティラピア池です。今日も皆様に楽しんでいただけるよう、気合を入れてお届けします!
すでに数日、俺は森の中に潜伏していた。
街に戻る勇気がまだ出せない。
持っている食料はどんどん減っていき、毎日ありあわせのものだけで飢えをしのいでいた。
「……これ、マジで不味い」
俺は調味料も何もかけずに焼いただけの肉を見つめた。
味気ない。
飲み物だって、適当な容器で集めた雨水だけだ。
「このままじゃ……本気で飢え死にするかもな」
俺はため息をついた。
しかし突然――
「……は?」
何か聞こえた。
奇妙な声。
まるで誰かが頭の中で、ごく小さな声で話しているような。
「誰だ……?」
俺は目を閉じて、耳を澄ませた。
何もなかった。
「ああ……たぶん疲れすぎてるだけだ」
ここ数日、まともな食事も水もほとんど摂れていない。
そのせいで頭がおかしくなり始めてるのかもしれない。
「脱水症状で……幻覚まで見始めてるのかもな」
俺は無視しようとした。
しかしその声は、次第に頻繁に聞こえるようになっていった。
◇
ある日、俺が森の別の一帯を歩いていると――
足音が聞こえた。
「……?」
俺は足を止めた。
足音はどんどん近づいてくる。
一人ではない。
複数だ。
「ちょっと待て……」
俺は息を殺した。
そして遠くから、複数の人間が走ってくる音が聞こえた。
「まさか……」
心臓が激しく鳴り始めた。
「街にいたあの殺人鬼たちか?」
俺はすぐさま木の陰に身を隠した。
「でも……どうやって俺の居場所を知った?」
ありえない。
痕跡は極力残さないようにしてきたはずだ。
たぶんまた幻覚を見ているだけだろう。
「ああ……きっと幻覚だ」
しかし数秒後――
木々の向こうから、一団の人間たちが現れた。
俺は完全に固まった。
本物だ。
「へえ、へえ」
その中の一人が笑みを浮かべた。
「やっと見つけたな」
俺は数歩後ずさった。
「いやだ……」
男は武器を構えた。
「抵抗しても無駄だ。大人しく投降しろ」
俺は歯を食いしばった。
「近づくな!」
彼らはさらに詰め寄ってくる。
俺はテレキネシスを発動させようとした。
手が震える。
できない。
「なんで……?」
もう一度試みる。
やはり発動しない。
俺は一人ひとりを睨みつけた。
数が多すぎる。
「これが……終わりか?」
背中が木にぶつかるまで下がった。
「俺はここで死ぬのか?」
頭を下げた。
体が小刻みに震える。
そして――
頭の中に、はっきりとした声が響いた。
さっきまでの幻覚じみた声とは違う。
今回は明確だった。
「殺せ」
俺は動きを止めた。
「……何?」
声が再び響く。
「全部殺せ」
俺は頭を抱えた。
「お前は誰だ……?」
返事はない。
ただ一言。
「生きたいなら――全部殺せ」
「いやだ……」
俺はその声に抗おうとした。
「俺はそんなことしたくない」
しかし突然――
周囲の世界が止まったような感覚に襲われた。
風の音が消える。
足音が消える。
自分の呼吸音さえ、遠くなっていく。
「……何が起きてる?」
意識がゆっくりと薄れていく。
そして二度目に――
俺は自分の体の制御を失った。
◇
しばらくして――
俺は目を開けた。
「……は?」
森の真ん中に立っている。
さっきまで自分を取り囲んでいた連中は、地面に倒れ伏していた。
誰一人として動いていない。
俺は困惑したまま彼らを見下ろした。
「……終わった?」
周囲を見回す。
「俺が……勝った?」
なぜか安堵が込み上げる。
しかし同時に――恐怖も感じた。
自分がどうやってやったのか、全く覚えていないからだ。
「まさか……」
自分の両手を見つめる。
「あの時と同じだ」
ふと、街の近くで起きた出来事を思い出した。
意識を失ったあの時。
何が起きたのか分からなかったあの時。
「つまり……ずっと何かが俺の中にいるのか?」
唾を飲み込んだ。
しかしそれ以上考える暇もなく――
「へへへ……」
倒れていた一人が、突然動いた。
俺は即座に身構えた。
「……は!?」
その男がゆっくりと起き上がる。
続いて他の何人かも立ち上がった。
俺は後ずさる。
「ありえない……」
その中の一人が小さく笑った。
「おお……なるほどな」
男は興味深そうに俺を見つめた。
「お前、かなり賢いな」
俺は何も答えなかった。
「あのテレキネシスで……俺たちの幻覚を壊したわけか」
「……幻覚?」
俺は凍りついた。
つまりさっき見たものは全部――
倒れていた連中も、森の雰囲気も、自分が勝ったという確信さえも――すべてがただの幻覚だった。
「つまり……お前たちはまだ本当には負けてないのか?」
男はニヤリと笑った。
「その通りだ」
俺は彼らを信じられないという目で見つめた。
最初から、俺は本当に戦っていなかったのだ。
彼らは幻覚を使って俺の精神をかき乱し、テレキネシスの実力を試していたのだ。
俺は再びテレキネシスを使おうとした。
しかし体はすでに限界を超えていた。
戦う力が残っていない。
俺はついに頭を垂れた。
「……降参する」
彼らは近づき、俺の武器を取り上げた。
俺は抵抗しなかった。
しばらくして、両手が縛られた。
ただ彼らについて歩くことしかできなかった。
彼らは俺を、街の方へと連れて行った。
ずっと避けていたあの街へ。
俺は遠くに見える街の門を見つめた。
「……また戻ってきちまったな」
そこで何が待っているのかは分からない。
頭の中の声が何者なのかも、まだ理解できていない。
しかし一つだけ確かなことがある。
――意識を失っていた間に何が起きたにせよ、もう俺は自分自身を完全に制御できているとは言い切れないということだ。
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