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【第5.5話】義兄弟の集い

「…どけ、これから打ち合わせがあるんだ」

「それは失礼いたしました。どうぞ」


 日が傾いて地面に暗い影を落とす頃。

 フェアヴァルタの屋敷の廊下で、ケイとデレックは偶然ばったりと出会っていた。


 何かにつけてケイを目の敵にして悪態をつくデレックは、今日も顔を合わせただけで不機嫌を隠すことなく表している。

 道を譲った自分のもとを通り過ぎていく義兄に向けて、ケイがボソッと呟く。


「兄さんの打ち合わせ相手の仕立て屋……生地の質はよいですが、縫製技術はいまひとつです。ご注意ください」

「……なぜお前が、俺の打ち合わせ内容を知っている?」


 振り返ったデレックは、眉を歪ませてケイを睨んだ。


「お気になさらず。お役に立てればと思って情報共有しただけです。『こびと様』の衣装は『こびと付き』の腕の見せ所ですので、十分に気を払わなければなりませんから」


 コツコツと足音を響かせて義兄に近づくと、ケイは片手を出して見せた。


「たとえば…こんな風になってしまった服は、到底『こびと様』の肌には合わせられませんからね」


 ケイが握っていた手を開くと、白い手袋の上には、ボロボロに切り刻まれた小人用のワンピースが載っていた。


「…ひどいもんだ」


 デレックは同情するようにフッと笑う。


「だが、元のデザインからして気品もセンスもない。それを着て恥をかく『こびと様』が出なくてよかったじゃないか」

「そうですかね。お召しになるかどうかを選ぶのは『こびと様』なので、私としてはお渡ししたかったのですが」


 腹を読み合うようなバチバチとした雰囲気の中、2人は互いに鋭い視線を向け合う。

 すると、その場に似つかわしくない呑気な声が聞こえてきた。


「おーい、兄さんたち。何を話しているんですかー?」


 駆け寄ってきたのは、もう一人の義兄弟である栗毛の青年だった。

 これにより、会議以外ではめったに揃うことのない三兄弟がこの場に全員集結した。


「…大したことは話してませんよ」

「つれないですね。僕も楽しい会話に混ぜてください!」


 栗毛の青年はいつものように笑顔を振りまく。

 屋敷の人間からは三兄弟のうちで唯一気軽に話しかけられる人物として評される彼だが、愚直に感情を表に出す義兄と比べると、彼は笑顔に隠れて腹の底が見えない。そのため、ケイにとっては扱いづらい相手だった。


「あなたがこの時間に屋敷にいるなんて珍しいですね。出生局との調整は終わったんですか」

「ええ、やっと終わりました! まったく連中は頑固な爺さんばかりで、手続きが面倒くさすぎです…。もっと迅速で簡潔な制度にすればいいのに」

「あなたが出世して変えればいい話ですよ」

「ハハッ、それができたら最高ですね!」


 栗毛の青年とケイが和気あいあいと談笑するなか、デレックはしびれを切らしたように言う。


「おい、お前ら早くどけ。仕立て屋を待たせてるんだ」


 その一言で再び廊下はシンと静まり返り、デレックの足音だけが響き始める。

 そのとき彼は一度歩みを止めて、振り返ることなく背後の義兄弟へ告げた。


「お前らに一つ忠告しておく。―――長男である俺を差し置いて家長になろうだなんて、分不相応な願いは持たないことだ」


 それだけ言い残し、デレックは時間がないというように早足で去っていった。


「…ああ、怖い怖い。庶子の僕たちが家長になれるわけないってのに。デレック兄さんは何を恐れているんでしょうね」


 両肩を抱いて震えあがる真似をして、栗毛の青年はポツリと呟く。


「ケイ兄さんは家長の座、実は狙ってたり…?」

「するわけないでしょう」

「ハハッ、まあどっちでもいいんすけど。…この家の未来がどうなろうが、まったく興味湧かないですし。僕は僕で勝手に楽しくやりますよ」


 ひらひらと手を振って去っていく青年を見届け、ケイも自室の方向へと戻り始める。

 窓から差し込む夕日によって、やけに暗い影が彼の足元へと落ちていた。

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