【第3.5話】人間の集い
小人も人間も、皆が寝静まった深夜。
ここは、屋敷の一角に位置する、整理整頓の行き届いた執務室。
そこに清潔感のある執事服に身を包んだ4人の男たちが集まっていた。
1人は茶色い燕尾服を身に纏い、威厳ある髭をたくわえた初老の男。
椅子にどっしりと座る彼を前に、3人の若者がずらりと並んでいた。
「それでケイ、『クリスティーナ様』の予後はどうだ」
「順調に回復されております。予定通りの引き渡しが可能かと」
ケイが胸に手を当てて答えると、初老の男は満足したように頷いた。
「一時はどうなることかと思ったが、とりあえず一安心といったところか。ケイ、よくやった」
「お褒めにあずかり光栄です」
すると、そのやり取りを黙って見守っていた一人の青年―――デレックが口を開いた。
「…父上、トーマスの処罰を軽くしてもよいのでありませんか。その『こびと様』も大事なかったことですし、彼も故意ではなかったと主張しています」
同情的な彼の申し出に、初老の男は難しい顔で髭に手を当てて考えるそぶりを見せる。
その間、部屋のなかはシンと静まり返った。
「珍しいですね。…いくらトーマスが兄さんのお気に入りとはいえ、罪人となった者の肩をもつだなんて。兄さんらしくありません」
その静寂を破ったケイは、隣にいるデレックを一瞥することもなく軽く笑った。
「……私がトーマスに毒を盛るよう指示したとでも言いたげだな」
「そんなことは言っておりませんよ。それに、兄さんは事件後、トーマスの担当だった『こびと様』を受け入れ、担当を掛け持ちされていると伺いました。それほど『こびと様』に尽くす勤勉な兄さんが、そんな真似をされるはずないと信じておりますとも」
貼り付けた笑顔を見せるケイに対して反感を抱いたデレックは、形のよい唇を歪ませる。
「お前の分際で上からものを言うな。……あの事件から少し調子にのりすぎじゃないか?」
青筋を立てて睨みつけるデレックと、それを意に介すことなく微笑むケイ。
2人の間に一触即発の雰囲気が漂った。
「デレック。やめなさい」
初老の男が制すると、デレックはふてぶてしく前を向いた。
「トーマスは追放だ。その判断は今後も変わらない。もし本当に故意でなかったとしても、『こびと様』を危険にさらす注意不足な者は、この屋敷に必要ないからな」
この屋敷ではこの男の判断がすべてだ。
それ故に、デレックは苦々しい表情をしながらも、その判断を受け入れた。
男はそれを見届けて話を進める。
「他に共有事項がある者は」
「…共有事項ではなく、提案なのですがよろしいですか」
「よい。言ってみろ」
手を挙げたのは、栗色の髪をもつ青年だった。
「僕に、父上担当の『片足のこびと様』のお世話を一部お任せくださいませんか。最近、父上はお忙しそうですし。先ほどの話で、デレック兄さんは2人の『こびと様』を兼任されているとありましたよね? それが許されるのなら、そろそろ僕にも成長の機会としてぜひお任せを―――」
「いや、それは許可できない」
初老の男は、今度は熟考することなく結論を告げた。
「この屋敷にとって、彼は特別なのだ。他の者には任せられない。……だが、たしかにお前も頃合いか。別件として考えておこう」
「ありがとうございます!」
犬がしっぽを振るように目を輝かせ、栗毛の青年は喜びを表現した。
「だが、今後一番に優先すべきは『クリスティーナ様の伯爵邸への引き渡し』だ。ケイはもちろん、他の者も、決してあのような事件を再発させないよう一層気を配るように。……では、解散」
息子たちが完全に去ったのを見届けた後、初老の男は窓辺に立つ。
屋敷に所属する何十人もの『こびと付き』を意のままに取りまとめるその男は、誰に知らせるでもなく、にやりと独り言ちた。
「この件が無事に済めば、国王陛下の我が家に対する評価も上がることだろう」




