第8話 「村祭り(後編)」
源蔵じいさんの家に通され、
囲炉裏を囲む。
山神さまは多くを語らない。
だが、
「……畑はまだやっているのか」
ぽつりと聞く。
源蔵じいさんは少し驚いた顔をして、
すぐに笑う。
「ぼちぼちだな。
昔みたいには動けんよ」
「山へは、もうあまり来ておらぬな」
「足腰がなぁ」
そう言って笑う源蔵じいさんの声は、どこか寂しそうでもあった。
山神さまはそれ以上聞かない。
ただ、静かに湯のみを傾ける。
ハルは気づいている。
それが気遣いだということを。
⸻
夜になると、
祭り囃子が村に響き始める。
山神さまは立ち上がる。
「行くぞ」
短い一言。
外へ出れば、
色とりどりののぼり、
賑やかな笑い声、
甘い団子の香り。
人々は誰も、
その正体に気づかない。
山神さまは
ふん、と小さく鼻を鳴らす。
だが、その視線は
どこか楽しげでもあった。
三日間の祭りが終わる朝。
村はまだ
祭りの名残の静けさに包まれていた。
支度を整え、
源蔵じいさんの家を後にする。
山神さまは短く言う。
「世話になった」
それだけ。
だが源蔵じいさんは、
嬉しそうに目を細めた。
「また来なされ」
⸻
山道へ向かい、
ハルと並んで歩き出す。
ふとハルが振り返ると、
源蔵じいさんが
家の前で深々と頭を下げていた。
旅人に向けたものにしては、
あまりにも丁寧すぎる礼。
ハルは何も言わない。
隣を歩く山神さまも、
振り返らない。
ただ、
いつもより少しだけ
歩みがゆるやかだった。
山へ戻る風が、
やさしく吹いた。
お読みいただきありがとうございます。
次回は4月18日に、第9話「ハルの畑」を更新予定です。




