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第6話 「名もなき手当て」
女は一晩よく眠り、
翌朝には顔色もすっかりよくなっていた。
「ありがとうございました。
疲れも随分と取れ、身も軽くなりました」
そう言って深く頭を下げ、
山を下りていく。
その足取りは、
昨日とはまるで違い、軽かった。
ハルはその後ろ姿を見送る。
女は、ふと一度だけ振り返った。
何かを探すように、
ほんのわずかに視線を巡らせる。
だが、やがて小さく首を振り、
そのまま山道を下りていった。
ふと足元を見ると、
傷んでいたはずの足袋には
血の跡ひとつ残っていなかった。
そして御堂の戸口には、
見覚えのない薬草が
さりげなく置かれている。
昨夜、ここにはなかったものだ。
ハルは、横に立つ山神さまを見る。
山神さまは、
興味などない顔で山の方を見ている。
「……人は入れるな、と
仰っていませんでしたか?」
山神さまは眉を寄せる。
「長居されては、山の気が乱れる」
ハルは真面目な顔で言う。
「少しは素直になられては?」
山神さまは、
ふん、と不機嫌に鼻を鳴らし、
さっさと御堂へ戻っていった。
ハルはその背を見て、
小さくくすりと笑った。
もうすぐ祭りの季節だ。
山神さまが山を下りる日も近い。
お読みいただきありがとうございます。
次回は4月11日に、第7話「村祭り 前編」を更新予定です。




