63話 イヴの休日(強制)中編
食事というのは生きる為に欠かせない物であり、料理はその国の豊かさを象徴する目安になる。
料理は地方によってさまざまな料理が生まれていく。それは家庭料理が元になったり、何かきっかけに国中にブームが起こり定着した物など様々だ。
さて、食事街に来た我らというと――。
「うむ!! 美味い! この揚げタコ? とやらば見た目がやや悪いが絶品だな」
「騎獣のお蔭で海産物も仕入れられるようになったからな。んぐんぐ。タコぐらいなら帝国でも獲れるんじゃないか?」
「そうだな、探させてみよう。む、あれはなんだ?」
「ああ、あれはクレープ屋だな。ガレットと言えば判りやすいか」
現在食べ歩き中だ。下品と揶揄する者がいるだろうが、周りには同じように食べ歩きしてる者が多いので気にならない。座りたければ備え付けのイスとテーブルもあるからな。
ヒルダの手には揚げタコが。我が手には肉を挟んだパンがある。どれも地球でありそうなものだ。
「良いな。お主、レシピもまた幾つか貰ってもいいか?」
「いいぞ。後で纏めて御付に持たせておく」
「助かる」
我が組織では料理の技術に関しては秘匿せずに大いに広めている。
それはレシピも同様だ。この世界の言語に翻訳したレシピは毎号発行している料理チラシで配っており、主婦から現役のシェフ、果てには冒険者にも大好評だ。最も、一部の利権を貪っていた高級レストランのシェフは激高してクレームを突き付けてきたが無視だ。
生き残りたければ努力するしかない。この活気ある食事街も同じだ。美味しければ客は客を呼び、不味ければ一気に人が離れていく。現にクレームを入れてきた高級レストランには別の庶民的レストランが入っていて、冒険者でも気軽に入れる人気店になっている。
美味い飯はどんどんと広まる方が皆幸せになれるからな。我らもその一部をご相伴に与っている。
「しかし、祭りでもないというのに賑わっておるな。この国は」
「店によっては何かしらのイベントをやったりしているからな。ほら、あの店では店内で歌を歌っているだろう」
「確かに。その手の催しは管理などしておらんのか?」
「届出位はしてもらうが、基本的に店の自由にさせている。余程ではない限りは介入はせん」
あまりにも人気過ぎて道を塞いだり、危険なイベントには介入するがな。非合法な賭博は言わずもがなだ。
その後も幾つか周ったが……ヒルダの食欲に驚かされた。
「おい、まだ食べるのか?」
「うむ、そうだな。2、3品ぐらいは」
現在二〇店目だ。肉から野菜、果物など多くの出店で買い込み、次々と平らげていく。お前は大食い選手か。
おっと、そうだ。満腹なる前にあの店だけは紹介しておこう。食べれないとなったらヒルダは確実に拗ねるからな。アリシアからも頼まれていたし。
「最後に連れていきたい場所があるから、加減しておいた方が良いぞ」
「む? お主のお勧めの店か。良し、ならばこれを最後にしてその店に向かうぞ。この焼き串を十本!」
そういって注文したのはトカゲ肉の串焼きだ。この近くで取れる魔物で冒険者たちが良く狩っては納品している。近頃は武器の質が上がり生存率と共に納品数も増えたと報告書では上がっていたな。
我はもう入らん。というか屋台は多くて四店ほどが限度だ……。
その細い体の何処に入るのだ。胸か? その胸なのか! いかん、思考が変になってる。
食べながらもヒルダを案内していると、先で何やら騒ぎが起きていた。
遠回りするべきかと思ったが、ヒルダの足は真っ直ぐに騒ぎへと向いている。お前はそういう奴だよな。
ヒルダと共に騒ぎの元に向かうと、冒険者らしき男達が数人が一人の女性を取り囲んでいた。
「だから、私は別の所に行くんだってば! アンタたちに何か付き合わないっての!!」
「いいじゃねぇかよぉ。一人で行くより俺達といい所いこうぜぇ」
「そうそう。俺達も良い場所しってっからよ♪」
「じゃ、行こうぜ」
「ちょっ、放してよ!」
全く、いい気分で休日を満喫していたというのに無粋な輩たちだ。戦闘員達が直ぐに来ない所を見ると、この混雑で警備が間に合って無いようだな。要改善だ。
仕方ないと思い、足を踏み出そうとするが既に動き出す者がいた。ヒルダだ。
「いだだだだだっ!!」
「止めよ。嫌がる女子を強引に連れて行こうなぞそれでも男か貴様らは」
「何だてめぇは。それともお前が俺達の相手をしてくれるっていうのかぃ?」
「ぺっぴんさんだしなぁ。そんな小娘より俺はお姉さんの方がいいや。どうだい?一晩どころか一生相手でも」
「ふむ、良いだろう」
「おいっ!」
流石にこれは止めるぞ。お前は自分の立場を良く考えろ。
「ただし、余に勝てたらな!」
男の手を放して突きだすのは先ほどまで自分が齧っていたトカゲ肉の串。
お前、まさかそれで戦うつもりか?
「お、お姉さん!」
「大丈夫だ。お前はこっちに下がってろ」
「え、貴女は?」
「あれのツレだ。おい、お前。――やり過ぎるなよ?」
「ふふん、手加減は得意だ」
冒険者の男達は馬鹿にされたと思い、各々に武器を抜く。長剣や斧、弓などだ。
馬鹿者が。そんな獲物で行くやつがいるか。
「舐めやがってっ!!」
「ツレ共々可愛がってやんよ!!」
「うらぁあっ!!」
「―――遅すぎる」
「え」
長剣を持った男の指が飛び、鮮血が流れる。男が気づいた時にはヒルダが串で薙ぎ払った後だ。
馬鹿者が。それは加減の内に入ってない。ヒルダにとっては―――串でも過剰すぎるんだ。
「お前も、お前も、遅すぎる」
「ぐあっ!!」
「ぎいいっ!!」
ヒルダが歩くような速さで通り過ぎれば、斧を持った男の肘に串が突き刺さり、弓の弦を切り裂き掌に串を突きたてる。
電光石火。相手が悪いにも程がある。
幸いに血の量は左程多くはない。串だしな。血が一寸流れただけで騒ぐほど住民も柔じゃない。武器が抜かれた時は悲鳴が出たけどな。
「こっちだ!!」
「すみません、通してください!」
おっと、ようやく警備の連中がお出ましか。戦闘員もいるな。
「ヒルダ。我は話を付けて置く。先にあの店にその娘を連れていくと良い。レモネードが美味い店だ」
「了解だ。よし、お主も行くぞ」
「え、ええ!?」
面倒事を片付けるのは我の役目だ。この程度の些事にヒルダに時間を取らせる訳にもいかん。
「これは、まさかお前が?」
「そうだ」
「あ、貴女様は……!」
「え、お前この少女を知ってるのか?」
うぐっ少女扱いか。まぁ我を見知らぬと仕方ないか。
戦闘員と警備兵を手招きし、我の身分と共に事のあらましを告げる。大体はこいつらの不手際のようなもので、我の不手際だ。
「申し訳ありません!! お手を煩わせてしまい!」
「謝らずともよい。こんなに混雑してるとは思ってもいなかった。我の方でも何かいい方法がないか考えておく」
「そ、そんな。私達の不始末なのに」
「部下の不始末は私の不始末だ。改善できる点は改善せんとな。それでは人を待たせているので後は任せていいか?」
「はっ!!」
警備員と戦闘員達は倒れている冒険者たちを抱えて直ぐにその場を去った。地面に垂れた血は魔法で洗浄し綺麗にされる。魔法に疎い我だが、完全犯罪出来そうだなこれは。
ヒルダ達の元へ向かうと、二人ともレモネードを飲んでいた。
「ほら、お主の分だぞ」
「ありがとう」
「あの、お姉さんたち、助けてくれてありがとう。私はミリアリアって言います。もうしつこく言い寄ってこられて困ってたところだったの」
「余はヒルダだ。気にせずとも良い。余達は目障りな虫を払ったに過ぎんよ。そうだろ、イヴリース」
「だな」
イヴリースは街に出る時に付けた偽名だ。名前が必要な時は互いに偽名で呼び合うようにしてたが、ヒルダよ。お前のそれは偽名じゃなくて愛称だ。いいのかそれで。
まぁ、誰も目の前にいる我らが国のトップだとは思いもしないだろう。
「それで、どこか行く用事があったようだが何処に行くつもりだったんだ?」
「えっと、知り合いの子からカフェカカオってお店が凄く美味しかったって聞いたから」
「ふむ、我らが行く店と同じだな。良ければ案内するぞ」
「いいの? ありがとう! 助けてもらった手前、案内してもらえると本当に助かるよぅ」
「気にするな。ただの気まぐれだ」
「はっはっは、といいつつ、お主は見過ごせぬだけであろう」
やかましいわ。本当に気まぐれなだけだと言っただけだろう。
それに、それを言うならヒルダ、お前もだ。
こやつが衝動的に見知らぬ奴を助けるとは思えない。情に熱いとはいえ、騒ぎになるとせっかくの休日が潰れかねないのだ。何かしらの理由が必ずあるはず。
「ヒルダ、そろそろあの子を助けた理由を話してくれてもいいんじゃないか」
「そうだな。あの子の服を見たか?」
「ふむ、この辺りでは見かけない格好だな」
「あの子はギャラルホルン学院の学生だ。名前ぐらいは知っているだろう」
「名前ぐらいはな」
ギャラルホルン学院というと、トライデント連合王国から更に北側に進んだ先にある国自体が教育施設である魔法学園都市の名前だ。この戦乱の世の中でも学生たちの教育を行い、独自の戦力で帝国や公国にも引けを劣らぬ国力を持っているようだ。
「ギャラルホルン学院とは我が帝国とも縁を結んでいるからな。そこの学生ともあれば見捨てるなど出来ん。それにそこの学園長は中々の曲者だ。内部の情報なぞ皆無と言っていいほどに入ってこんからな」
「なるほどな。何か話が聴ければ御の字と言ったところか」
「そういうことだ。まぁ、それ抜きであの子は可愛らしいからな!」
納得したが最後で台無しだな。
確かに、我が組織でもギャラルホルン学院の情報はヒルダの言う通り全く入ってこない。
今では多くの国々に根を拡げたルートズの情報網でも、ギャラルホルン学院に関してはルートズが一人も存在しない。元々ルートズは我が国に諜報を仕掛けてきた奴らを利用して作り上げた組織だ。手を出してこない相手に関してはシャドウ部隊が動くのだが、そのシャドウ部隊でもギャラルホルン学院に侵入は適わなかった。
理由は学園都市全体に張り巡らされた魔法結界だ。話しによると、特殊な通行手形が必要であり、それを持つのは一部の選ばれた業者と学生、教師のみ。学生の親ですら入れるのは学園都市の近くにある街までなのだ。
我らが手の及ばぬ土地の話。ふむ、これは思わぬ収穫かもしれんな。
前後編で終わらなかった(´・ω・‘)
今日はここまでです。
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それでは、また次の日曜にお会いしましょう。




