62話 イヴの休日(強制)前篇
ローマじゃないよ!
我が組織では報告連絡相談を重要視させている。何か気付いたが伝えずにそれが後で大事になったり、いらん問題を起こすなんて普通の企業でもざらだ。悪の組織ともなればそれが致命的になりかねない場合すらある。
ヒーロー達も色々な手を打ってくるのだ。それに備えて我らもそれ相当の警戒は必要だ。
それでも防げない事象はある。それは外部からの予期しない介入だ。
「イヴ!! 遊びに行こう!!」
現在、仕事中だった我の前の前に唐突に現れたウケラノス帝国皇帝、ヒルデガルドが現れたりな!
「ヒルダ、我は仕事中なのだが」
「余は休みなのだ! だから付き合え!」
ええい、この暴君め!!
政務室では我の他にアリシアやレイが同じように仕事をしている。流石のレイでもこの事態は予想外だったらしく驚きを隠せず、アリシアははぁっとため息をついていた。こやつも苦労しているな。
ヒルダに慣れているアリシアだ。上手い事言って追い払ってくれるに違いない。
「イヴ様。申し訳ありませんが、今日はこれで仕事は終わりです。なのでお姉さまの相手をお願いします」
裏切られた!?
「待て、流石に仕事を放る訳にもいかんだろう。そうだろ、レイ」
「別にいいんじゃないかな? だってイヴ、君さ。最後の休みとったのはいつだい?」
「最後の休み……」
確か、今月に入ってティルファング共和国を落とす為に動いて、大よそ一週間で平定。次に奴隷達を安全にパンゲアまで送り届け、それによる雑務で一週間半。無論休みは取っていない。戦争中に溜まった政務も現在片付けていて……。
「イヴ、君は私達や部下達には常々休むように言ってるよね。美月君にもだ」
「当然だな。美月は魔法少女とは言えまだ身体が出来上がってない。無理をするのは良くない」
「で、なんで! 君が一か月も休んでないのさ! 上司が休まないと下が休めないと君は良く言ってるのに、肝心の君が休まないのはダメだよ!」
うぐぅ。反論が出来ん。この世界に来てからはヒーロー達にも気を使わずに、夜も安らかに眠っていて休み自体を忘れがちだったがこれは確かにダメだ。
「なので、イヴ。三日ぐらい休みを上げるからヒルダと一緒に遊んでくると良い。その間の仕事ぐらいならボク達だけでやれるからさ」
「そうですわ。イヴ様も休みが必要。お姉さまのように急に休まずとも、休まなさ過ぎもいけませんわ。その間、私達にお任せください。お姉さま、イヴ様をお願いしますわ」
「任された! では、イヴ。行くぞ!!」
「ちょ、ちょっと待て!!」
そのまま我はヒルダに強引に引きずり出された。ええい、ヒーローの力を使ってまで引っ張るな! そこまでやらんでも行くわ!
そして、ヒルダに引きずられるままにやってきたのは城下町。ゲセルシャフト艦内を調べさせると重要区画まで乗りこまれそうなので、こっちに誘導したが素直に従ってくれて助かった。
今はヒルダと並びながら、城下町を特に目的もなく歩いている。ああ、我の姿はかなり知られているので我だけは帽子をかぶり、服も真っ白なワンピースに着替えている。コーディネートはヒルダだ。案外こういうのも出来るとは驚きだ。
「ほほぅ。来る時も見たが、自分の足で見回ると如何にこの国が富んでいるか分かるものだな」
ヒルダの言う通り、城下町には多くの人々が行き来している。
近くの農村から野菜を売りに来た者、遠くから商品を仕入れに来た行商人、朝の買い出しなのか露天商相手に商人顔負けの値切りを続けている主婦、これから仕事だと思われる大工、大剣を背負った冒険者など様々な人々が往来している。
土地柄の関係で若干亜人が多いが、人も自然とそれに混ざり大通りを歩いている。
「しかし、ここまで人が多いと店の場所が分からぬな」
「そういう時の為にこれがある」
大通りの入口に設置してある台から一枚の紙を取る。
「それは街の地図か?」
「正しくは、大通りのショップマップだな。これで何処にどのような店があるかどうか一目で分かるようになっている」
「ふむふむ、確かに判りやすいな。服屋や食事処、露天なども一か所に固まっているのか」
「その辺りは区画整理で移動させたからな。幸いと言っていいのか、エッケザックス統治の時には既に大半の店が潰れていたから難なく済んだ」
エッケザックス王も頑張っていたようだが、それ以上に王子が貴族達が好き勝手にやらかし過ぎて国内の商業はボロボロだったからな。立て直しや移築などは戦闘員達の力を持ってすれば小一時間で出来る作業だ。
「帝国では無理だが、新しい街を作る時には参考にさせてもらおう。では、服を見に行こう! 余直々にお主の服を見繕ってやろう!」
よりによって服か。
ううむ、我も服に関しては選ぶのは苦手なのだよな。
大体はマネキンのセット買いをするのだが、こっちの世界でマネキンはない。
この際、作らせるのも良いかと思うがヒルダの眼を信じてみよう。
伊達に皇帝をやっているわけではない。その目は確かなはずだ。
因みに今回はヒルダ共々我らは護衛は連れてきていない。完全なオフの日だ。護衛なんて邪魔にしかならぬし、そもそも我ら二人に適う奴なぞそう相違ないというか街中で居て堪るか。
その事は両国共に判っているらしく、暖かく見送られた。ヒルダを止めるのは我の役目だな。分かってる。
そのヒルダに引きずられる形でファッションショップに入ると、中では女性客が楽しげに服を物色していた。
服のデザインは艦内にあったレディース雑誌を参考にしたものから、昔ながらの衣装を現代ベースに改造した物など。
斬新なデザインに女性達は嬉々として服を選び、外を見れば疲れ果てたように連れらしき男衆がベンチに座りぐったりとしていた。
「これは中々に良きデザインだな! お主、これなんてどうだ?」
ヒルダが選んだのはスカート丈がギリギリを攻めた上から下まで一体化したオレンジ色のワンピース。待て、それは色々と際どい!
「ちょっとこれは……もう少し大人しいのはないのか」
「むう、ならばこっちだな。これならばそこまでヒラヒラもしておらんし、可愛いぞ」
そんなこんなで若干押し切られる形で服を幾つか見繕われた。代金は全てヒルダ持ちで店員がホクホクの笑顔が印象的だった。明らかに普段着に合わないドレスまで買われたらそりゃ嬉しいだろうな。おのれ。
「ふむ、次に面白そうなのは……武器屋などに行ってみたいな。服だけであれだけの種類があったのだ。武器も相当に変化が起きてるのだろう」
「まぁそうだな。我らはこういうのがあるだけとヒントを与えただけで、実用化まで持ち込んだのは彼らだ」
「ほほぅ、それは楽しみだな。実は冒険者共が見られぬ武器を持っていて気になっていたのだ!」
ショッピングマップを片手にこの街で一番大きな武器屋へと向かう。
外見は昔ながらの無骨な作りで、看板代わりに巨大な剣が飾られている。一目で武器屋とわかるな。
「なぁなぁ、イヴ。あれは売り物か?」
ヒルダが指差すのは看板代わりの巨大な大剣。うん、お前なら持てるし振るえるだろうが看板を買おうとするな。
「売り物じゃないから諦めろ。中に入るぞ」
「むー……」
頬を膨らませてお前は子供か。
「いらっしゃいませー!」
武器屋の店員らしき男性が元気よく挨拶で出迎える。元気な挨拶は実に良いな。
店内は武器が所狭しと並んでいるが、雑然としておらず綺麗に種類分け、価格帯に分けて揃えられている。
ファンタジー世界での武器屋というと、大体は長剣から槍、短剣などが思いうかぶかもしれないが、この店ではバトルアックスにバルディッシュ、シミターにククリ刀など多種多様な武器が揃ってある。値段はそれ相当の物から、こん棒やクナイのような武器は駆け出し冒険者でも買えそうな値段に設定されている。
これらは全て地球で使われていた武器ばかりだ。まだ魔法杖などは軍で使われているが、基本的に冒険者は近接武器がメインになるので、この辺りの需要は無くなることはない。
冒険者も自分たちの懐事情と相談しながら見繕っており、リサイクル品として中古買取販売もしているので手ごろな値段で良い掘り出し物も稀に見つかることがある。
その中でヒルダが興味を示したのはバルディッシュだ。片手で軽々と持ち上げてまじまじと眺めている。
「気に入ったか?」
「うむ。出来れば振るってみたいのだがな」
「でしたら裏手に試し切りの藁束があるのでどうぞ」
流石、街一番の武器屋だ。試し切りまで揃えてるとは居たせりつくせりだな。
店員に案内されて裏手に回ると、そこでは数人の新人冒険者らしき者達が長剣や槍を手に的へ武器を振るっていた。初々しいが、筋力が足りないのか何処かしら危なっかしい。
そこにバルディッシュを片手に持つヒルダが来るのだ。注目は否が応でも集まるが、声を掛けてくるような勇気ある若者はいないようだ。無謀ともいうがな。
ヒルダはそこでバルディッシュを片手から両手に構え、意識を集中していく。この気配には覚えがある。あの時、我と対峙した時に感じた覇気だ。
当然、この場に居合わせた冒険者たちは一斉に武器を振るうのを止め、冷や汗を流しながらヒルダの一挙手一投足に目を向けている。
全てを支配するこの覇気。これこそが皇帝ヒルデガルドだ。
時間にしてたった十秒。だが、この十秒は長く感じられた。
次の瞬間、神速ともいえる速さで振るわれたバルディッシュは藁束を止める杭ごと切り裂き、藁を散らすことなく真っ二つに切り裂いた。
ヒルダは振るったバルディッシュをじっと見つめ、満足そうに頷く。
「これは実に良い武器だ。気に入ったぞ」
「ならば買うか? 代金は今回は我が持とう」
「む、これぐらい余が出すぞ」
「我からのプレゼントだ。受け取ってくれ」
「お主からのプレゼントか……うむ! ならば快く受け取ろう!」
色気も何もないが、ヒルダならば気に入ると思っていた。こやつは超重量武器が好きそうだからな。
それに、あのバルディッシュはドワーフが手掛けた逸品だ。
パンゲアに仕える事になったドワーフ達だが、その全員が艦内の修復作業に回ったわけではない。鍛冶仕事一本の頑固な職人もいたので、そういった奴らは城下町で槌を振ってもらっている。無理にやらせても雑な仕事になるだろうし、配下の実力を万全に生かすのも上の役目だ。適材適所という奴だな。
値段的にかなりの価格で売れ残ってると思ったが、一目でそれを選んだヒルダの観察眼は見事なものだ。
流石に武器を持ったまま街の散策を続けるわけにもいかんので、警備中の戦闘員の一人を捕まえて服が入った袋とバルディッシュを艦まで運んでもらった。すまんな、仕事中に。後で特別手当を申請しておくからな。
「ある程度見回ると、やはり腹が減ってくるな」
「なら飯にするか。お前の事だから、外で食べたいというのだろう」
「ふふ、お主は良く解っているではないか」
「ではいくか。飲食街はこっちだ」
外出するにあたって我らは名前を呼ばないようにしている。お前とお主と余りにも国主に対して失礼な呼び方だが、案外我らは気に入っている。我と対等な相手なぞ、身分や強さが邪魔をして中々作れるようなものではない。それはヒルダも同じの筈だ。
思えばこのように親しく呼び合うような同性――今の身体は女だから同性だな――の相手なんていなかった。
これが親友というものなのだろうな。うむ、存外に悪くない。
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