61話 意識改革
「A班。スケルトンの群れ、制圧完了しました」
「了解。B班、霊脈分断完了。大型レイス、弱体化確認できました」
「了解。C班、トドメ行きます」
各自に持たせた通信機から報告が入り、随時地図を更新していく。
マップはとある古戦場跡地であり、商人ギルドや冒険者ギルドからも問題が上がっていた忌地――いわゆる呪われた土地だ。
この古戦場跡地には昼間でも分厚い雲が掛かり薄暗く、瘴気が漂っている。それに誘き寄せられるように無数のアンデットが徘徊しており、国と国の間にあるにもかかわず両国が干渉できない危険地帯でもあった。
だが、その危険な古戦場跡地で平然とアンデット達を駆逐する者達がいる。
彼らは自分たちの支配下に置いたアンデットを使い、アンデットを効率よく倒して回っている。そして倒されたアンデットは彼らの支配下に置かれ、新たな戦力となっていく。
そう、この地にいるのはパンゲアの死霊術士たちだ。
「いかがだろうか。オーヴァ殿。彼らの手際は」
「いやはや……、ここまでの手際を見せつけられては認めるしかありませんな」
脱帽したかのように長い髭をさする神官服を纏った老人。彼はニーベルング教団の司祭で名前はオーヴァ・シードリック。
今回の意識改善の為にニーベルング教団にコンタクトを取った。
ニーベルング教団の教会は大陸全土にあり、この世界で一大勢力を誇る宗教だ。勿論、パンゲアにも教会はあるし、政治に口出しや無理な勧誘さえしなければ自由にして良いと言っているので国と教会の仲はそれなりにいい。国からも献金という名の多額の補助金を出しているからな。
その伝手でオーヴァ司祭と連絡を取り、彼らとしても放置はできない死霊術士とこの呪われた土地、古戦場跡地の両方の改善案があると提案し、御付の神官騎士達と共にこうして出向いてもらったという訳だ。
この古戦場は遥か昔から幾度となく戦いが繰り広げられた歴史があり、大量の屍と共に怨霊渦巻く危険地帯と化していた。
勿論、昔からこの土地の問題を解決しようと冒険者や傭兵、神官や騎士達が群を率いてやってきたが結果は芳しくなく、やがて放置され時折この地域から溢れ出るアンデットを退治する程度に留まっていた。
しかし、汚染された土地は徐々に植物が根を伸ばす様に範囲が広まり、遂には大陸随一の商業国家ダグザ商国との交易路まで伸びてしまった。
ダグザ商国は周辺各国に依頼を出し、土地の浄化を図ろうとしたがニーベルング教団でも多すぎる悪霊の数に苦戦し、それ以上の汚染を抑えるのが限度だった。
そこで我らが別のアプローチで攻める事にした。霊には霊の専門家をぶつける。死霊術士たちだ。
「彼らはいわば、霊の専門家。こういった事柄は得意だと思ったが……予想以上の結果を叩きだしているな」
「アプローチの違いですね。神官様達は目の前にいる亡霊達に目を向けてますが、私達はその根源。大地に根付く霊脈を掌握、又は分断し力の源を絶っています。供給源を失えば幾ら力が強い亡霊でも弱体化し、最終的には消えていくでしょう」
「なるほど……確かに儂らは目の前にいるものにしか目を向けんかった。死霊術士が持つ視点。これは盲点であったな。これでは神官騎士達の出番が無さそうですわい」
「俺も一応準備してきたが、これじゃ出る幕も無さそうだな」
そういって欠伸しながら地平線を眺めるのは全身を黄色い鎧で纏った騎士。クルセイジャーイエローである天野雷黄だ。
いやな、念のためにと聖騎士であるこいつを連れてきたんだが、本当に出番なしで終わりそうだ。悪霊やゾンビ相手なら聖騎士が丁度良いと思ったんだがな。他の戦闘員数人を連れてきたがこちらも出番はない。最初にこの天幕がある高台を確保するにも死霊術士たちがあっさりとやってのけたからな。今ではここは何処にでもあるような空気が綺麗な場所だ。
各自死霊術士たちに持たせた通信機からの報告を元に、天幕内に置かれた作戦本部で勢力図を随時更新し、死霊術士たちを束ねるリーダーの女性が適切に指示を出していた。
「A班はそのまま南西方向に進行。霊脈があったら支配権を奪って。B班は周辺にレイスを飛ばして周辺の警戒、C班は一度引いて休憩よ」
「「「了解」」」
さながら軍のようだが、指揮系統は問題無さそうなので良し。
「ご苦労様だ。ネーヴァ」
「ふう……、この通信機、というのは便利ですね」
そういうと、ネーヴァは黒く艶やかな黒髪を靡かせながら、今まで耳に嵌めていたヘッドホンを撫でる。
ネーヴァは罪人として囚われていた死霊術士たちの中でトップの実力を持ち、ノワールの師匠をやっている。今回はその実力も買って指揮官に選んでみたが適任だったようだ。
「確かに、それは私達の教団でも欲しいですね。遠くと話をする道具はあるにはありますが、魔導球は貴重な品で王家位しか持たぬ品。相談だが、イヴ女王陛下……」
この通信機が欲しいという事か。確かに、この世界では電話なんて便利な道具はなく、基本的に手紙でやり取りをしている。ヒルダとアリシアのように魔導球を持っているのは王家だけで、それも遺跡から発掘された物しかない。
いつまでも我が組織の通信機を使い続けるのも問題だ。壊れたら修理は出来るが、数は限られ何れは足りなくなる。という訳でこの世界の物で作れないかとレイに提案したら、三日で作り上げた。流石だと思う。
設計は携帯電話と同じで電力の代わりに魔物から取れる石、魔石とやらを使って魔法通信を可能にしたのだ。詳しい理論は専門家ではないので我には判らんが使えるなら良し。
「融通してほしい、ということか? ふむ、融和の為という事であれば譲ることも吝かではない」
レイからは交渉の材料にはしても良いと言われてるからな。通信距離は魔導球のように大陸を超えて通信する事は出来ないが、街から街への連絡ぐらいなら可能だ。
「誠か……!」
「本当だ。後日書類を纏めてそちらにお送りしよう」
「感謝しますぞ、イヴ女王陛下」
感謝するのはこっちだ。
この世界では盗聴という概念なぞ無い。人に知られたくない情報を伝える為に使いたいのだろうが、こちらにもその情報が貰えるのであれば喜んで差し上げようではないか。
くっくっく。いかんな、上手くいきすぎて笑ってしまいそうだ。
「話をしているところ悪いが、事態が進んでいるぞ」
「おお、すみませぬ」
おっと、話に夢中になっていてよそ見をしていた。
興奮したオーヴァと共に地図を見ていると、駒たちが円を描くように布陣を配置していた。
「A班、霊脈分断完了」
「B班、同じく完了」
「C班、霊脈切断しました」
「D班、もうすぐ終わります」
「E班、分断し終わり、何時でもいけます」
死霊術士たちは逆五芒星の形に陣取り、古戦場の半分以上を取り囲むように布陣していた。
彼らは死霊を使い、上空から位置を確認し各々が役割を果たしながら指定の位置に付いていた。
死霊は古戦場跡地ならば幾らでも使える上に、霊脈を分断すれば亡霊たちは弱り、彼らの支配下に置かれやすくなる。特に今回は一人、取って置きがいるので殆どは彼女の言う通りに動くだろう。
「ノワール、どうですか?」
「大丈夫です。皆素直に言う事聞いてくれます」
ティルファング共和国でも一際厳重に囚われていた死霊術士の申し子、ノワール。
ノワールは天性の才能が有り、普通は亡霊に対し根気よく説得もしくは力で押さえつける形で支配下に置くのだが、彼女の場合はただ単にお願いをするだけで亡霊たちが自ら支配下に置かれるという驚異的な力を持っている。
世が世なら世界の敵として見られてもおかしくない力だ。今はこうして大半の亡霊達をお友達として傍にいる。
「では、このまま霊脈の大元を切断にかかります。ノワールはその際に現れる強大な亡霊を相手にしてください」
「判りました。がんばります」
小さな可愛い声が聞こえ、通信が切断される。
「死霊術士は外法ではあるが――外法を処するには外法という手を認めねばならんか」
「それは、ニーベルング教団としての見解として受け取っても?」
「今の所、儂個人としてだがな。枢機卿さまにもこの件に関しては手紙をしたためるつもりだ。技術は悪でなく、それを扱うものの心だと儂は以前から思っておった。それは死霊術士とて同じだ」
確かにそれに関しては我も同じだ。要は使う人次第で、包丁で人を刺殺したとしても、包丁を作った者が咎められるのではなく、犯罪を犯した者が咎めなければならない。それは魔法使いや死霊術士とて同じだ。
今も目の前で巨大なスケルトン同士が組みあい、ノワールの友達となったリッチらしき強力な気配を持つアンデットが未だ抵抗するアンデット達を屈服させ、力を奪っていく。
そしてついには逆五芒星が完了し、輝かんばかりの光を放ったかと思うと大地に蠢いていたアンデット達が徐々に消えていく。
「上手くやったようだな」
「ええ、これでこの地も数十年前のように、多くの人々が通る街道へと戻るでしょう」
昔を思い出してるのかオーヴァ殿が感慨深く分厚くかかった雲が徐々に晴れていく空を眺めていた。
「イヴ女王様。無事、根源たる霊脈の分断が完了したようです。これでこの地にいる亡霊たちは自然と消滅するはずです」
「ご苦労だった。ネージュ」
「私達は私達がやれることをやっただけです」
優しげににこりと微笑むネージュ。
これだけの結果を出したのだ。ニーベルング教団も認めざる得ないだろう。
「おおーい!! 死霊術士さん達、ありがとなーー!!」
「これでやっと商品を運べるってもんだ!!」
「ありがとよーーー!!」
遠くから商人たちの声も聞こえる。今回の作戦を何処からか聞いたのか、急いでダグザ商国まで荷物を運ぼうと躍起になっていた商人のキャラバンだ。
噂により死霊術士たちが疎まれるのであれば、それを払しょくできるだけの何かがあれば良かった。今回の古戦場跡地の騒動は実に都合が良かった。まさに死霊術士たちの独壇場だったからな。
商人達のネットワークはこうした噂を流すにはもってこいだ。噂に尾びれが付き多くの街や村に死霊術士たちの話が広まるだろう。
死霊術士たちには今後もこういった事件や、人の手では難しい難題にも出て貰うつもりだ。
毒ガスにより採掘が不可能になった鉱山採掘や、スケルトンたちによる下水掃除、毒沼の希少薬草採取、うむ。パッと思い浮かぶだけで色々な案が出るな。
「女王様~~~!」
ノワールが元気に我らに向けて駆け寄って来て、いきなり飛びついてきた!?
おおぅ、元気だな。よしよし良い子だ。
「私、頑張りました!」
「良くやったな。ノワール」
うむ、此度の『国家認定』死霊術士の運用テストは大成功だな。
誰にも認められない死霊術士たちを『国』が認めれば他の者達も目を向けるだろう。そこに教会と商人が続くように好意の声を上げれば群衆は流されるだろう。一部は変わらずに嫌うだろうが、別に万人に好かれようとするのは無理なのでそこは無視だ。
この事実は今回の大討伐の成果と共に国民や他国にも公表する。
国が実力と人格を保証し、これだけの成果を上げたのだ。否が応でも見る目が変わる。後は彼らの頑張り次第だ。
他の死霊術士たちもうまく取り込まねばな。仕える人材は多ければ多いほどに良い。
悪の組織にこそ、死霊術士はお似合いだろう。我が手元で存分に働いてもらおう。無論――ホワイトな業務でな。
今日はここまで!
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それでは、次の日曜にまたお会いしましょう。




