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60話 禁忌の人々

 エルフ達との対談の結果、美月と栄一と数人の戦闘員を派遣することに決まった。

 美月がいなくなると回復役がいなくなるが、特に戦争や戦う予定もないので居ない期間ぐらいは大丈夫だろう。


 美月はそのままエルフ達と話し合うらしく、栄一と共にその場に残った。戦闘員の見繕いは後で栄一がやるだろう。


 エルフ達を訪ねた足でレイと共にそのまま向かうのは、次はドワーフ達だ。

 ドワーフは我らが知る通りの豊かな髭を蓄え小さな身体に寸胴といった姿だ。女性ドワーフですら髭は生えており、髭は人にとっての髪と同じで剃るとスキンヘッドと同じように見えるらしい。

 酒で忠誠を誓った彼らには既に仕事に就いてもらっている。ドワーフといえば酒の他にも特筆して秀でているのは鍛冶だが、この世界では鍛冶の他にも魔導兵器技術に秀でている。

 かつてのドワーフ達の国、トール王国は世界有数の魔導兵器国家で一時期は帝国すら凌ぐ技術を持っていたがその危険性を危惧したグランギニョル公国に滅ぼされている。彼らの言い分では魔導兵器は禁忌の兵器であるらしい。ふざけた話だ。

 彼らならば『戦艦ゲセルシャフト』も直せるだろうと思い、頼んでみたがどうだろうか。


「レイ、ドワーフ達の調子はどうだ? 魔導兵器とは勝手が違うと思うが問題なくやっているか?」

「全く問題ないね。彼らにとってもこの戦艦『ゲセルシャフト』は興味の塊みたいでね。早く元通りの姿を見たいって日夜励んでるよ」

「夜は休めよ……」


 なんにせよ、やる気は十分なようだ。

 如何せん、我が戦艦『ゲセルシャフト』は広い。ヒーロー達との戦いで壊れた外壁はそのままで、戦闘員や怪人達が待機していた区画は激戦の影響でそのままだ。

 今までは直そうにも人手が足りず、リペアロイドでも直せる範囲には限度がある。小さな修復なら問題はないが、大穴や外壁を直すなど大人数で取りかかるような修理は人の手で無ければ無理だ。

 ドワーフ達が配下に加わってくれたおかげでようやく修理の目途が立った。

 それにこの艦も人が増えたので、その辺りの区画を使えるようにしておかないと直ぐに溢れるようになってしまうからな。この辺りは足りなくなってから慌ててやるよりも、先を見越しておけばいざという時に色々と楽になる。

 差し入れに酒を持っていくわけにもいかんので、次に彼らが好む塩辛い物を持っていく。

 厨房に立ち寄り、予め頼んでいたポテチトップスや鳥皮チップス、ビーフジャーキーなどを箱に詰めてレイと共に修理区画へと向かう。

 防音シートを潜り抜けるとカーンカーンカーンと心地よい金属音が聞こえてくる。

 後は内壁を敷くだけのエリアを抜け、修理中の区画へとたどり着くとそこでは大勢のドワーフ達が忙しなく動いていた。

 奴隷から解放され、動けるようになったドワーフ達は大半がこうしてゲセルシャフトに仕える事を望んでくれた。少数のドワーフは里や国が気になるらしく、旅費を稼ぎ次第出ていく。我が組織は来るもの拒まず去る者追わずだからな。この辺りは割と自由にしている。無論、裏切りや不利益をもたらしたら容赦はしないが。

 よく見るとドワーフ達の中に混ざる形で人族やエルフまで見かけた。こういったのに興味があるエルフもいるのか。

 中の様子を観察していると、設計図らしき物を手にしている一人のドワーフが我らに気付いた。

 

「おお、イヴ女王ではないか」

「ドレイク、いつも使っている道具とは違うだろうが順調か?」

「順調も順調。こいつのお蔭で良いペースで進んでるよ。全く、こいつは大したもんだぜ。鉄ってのは中々くっ付かないもんだがよ、こいつのお蔭で簡単にくっ付きやがる。こいつがあれば魔導兵器作りも捗るだろうよ」


 そういってを溶接用レーザーを手に大はしゃぎしているのはドワーフ達を纏めている一人の男ドワーフ。

 今回の奴隷解放で一番の大当たりだった人物だ。

 彼の名はドレイク・バックホーン・トール(・・・)。あのトール王国王家の生き残りであり、ティルファング共和国に捕まっていたドワーフだ。

 トール王国の王族は全てグランギニョル公国の手により、一族郎党纏めて根切りにされている。

 彼が生き残れたのは魔王が生きていた頃に王家を出奔し、新しい技術を求めて旅に出ていたがそれが王家の血を繋ぐことになるとは何とも皮肉な。

 奴隷に捕まっていたが、王族であることは隠しており、我らに助け出されてやっと名前を名乗った位だ。周りのドワーフ達の驚く顔が見ものだったな。


「順調ならば何よりだ。ああ、そうだ。精霊結晶の件だが、向こうのまとめ役とも話が付いた。上手く話しが纏まればこの船が飛ぶ日が来るのもそう遠くはないだろう」

「おお! そうか!! 教えた甲斐があるってもんだ。後は推進装置や砲塔だな」

「それも心当たりがあるのだったか」

「代々王家の血筋しか教えて貰えない奴だが、国が滅んじまった以上は隠したって仕方ねぇよ」


 ドレイクは王家の血筋なだけあって、王家のみ伝えられる希少な鉱物や金属などに詳しく、反重力発生器のコアを精霊結晶だと見抜いたのも彼の功績だ。

 他にも推進装置や砲塔の金属も心当たりがあるのだから、本当にこいつを助け出せて出来て良かった。ガチャで言えば星五やらSSRといったところか。


「そうか。それなら何よりだが、無茶だけはしないようにな。これは差し入れだ」

「麦茶もあるよ」

「お、ありがてぇ。おーい、おめえら!! 女王様から差し入れだぞ! 休憩すっぞぉ!!」

「「「「うーっす!!!」」」


 まるで土方のようだなこいつらは。

 各々好き勝手に麦茶を飲み始め、バリバリと塩が効いたポテトや鳥皮を食べていく。よく動く分、こいつらは塩分がきいたものがいいようだ。


「で、何か困ったことはあるか?」

「今ん所は大丈夫だな。鉄材の方もドンドン入ってきてくれてるしよ」


 この辺りはトライデント連合王国と同盟を結んだ際、未だ様子見をしていた周辺各国の小国たちが我が『パンゲア』に下りたいと言ってきたのだ。

 風見鶏をする連中は正直、信用もないがここで断りグランギニョル公国側に付かれても困るのでこれを受諾。

 これにより、『パンゲア』は多くの国々を併合し、同じに多くの戦略物資を手に入れやすくなった。

 特に我らが必要だったのは鉄だ。鉱山はクサナギ国やトライデント連合王国にもあるが、それだけでは足りない。

 ならばと、ある場所から買い付けるのが一番だ。距離も近く、遠慮せずに買えるとなるとやはり傘下となった近隣の小国家だ。

 勿論暴利なんてするつもりはない。適正価格で大量に買い付けた。この辺りを渋るとロクな事にならん。

 そのお蔭か、今は軽い特需状態になっている。掘れば掘るだけ売れるのだ。

 こうして鉄や鋼、銅、なんとアルミの原料となるポーキサイトまで手に入った。アルミに関しては精錬にかなりの電力を喰らうが『ゲセルシャフト』を簡易の発電所として使えばそれも何とかなった。

 無論、鉄材は国だけで独占するわけにもいかないので調整しながら市場にも流しているので大した混乱も起きていない。むしろ冒険者が鉄鉱石を運ぶ依頼で賑わっているほどだ。

 我が国を中心に金が周り、経済が生きる。

 戦争で疲弊してきた小国家にも金が回り始め、今にも滅亡しそうだった国が息を吹き返しつつある国すらある。

 こうして旨味を互いに与えていけばグランギニョル公国や他国の手が伸びたとしても察知しやすく裏切ることもし難いはずだ。

 まぁ、各国にルートズは配置してるので何か企んでも直ぐに対処は出来るのだがな。


「飯も美味いし寝どこも柔らかい。酒は最高ときた。まさにここは天国ってもんだぜ。お蔭で仕事もはかどるってもんだ」

「そういってくれると助かる。いつまでもこいつを壊したままじゃ、可哀相だからな」

「可哀相ねぇ。なぁ、女王様よ。こいつは女王様の世界の空を飛ぶ船だっていうじゃねぇか」


 ドワーフ達にもだが、亜人達や国民たちにも我らが異世界から来た異邦人だと伝えている。この辺りは隠さずにむしろ大々的に公表した。異世界の勇者が知られた世界だ。今更隠す必要もないし、我らに気付いた他のヒーロー達が調べるなり接触を図るなりする可能性を見越しての事だ。


「俺はな、何時かこいつみたいな空飛ぶ船を作りたかったんだ。帝国にあるようなちゃちな飛行船じゃねぇ。伝説にあるような船だ。俺にとっちゃこれがそうとしかみえねぇ。巨大戦艦、実にロマンあふれる船じゃねぇか。人族が作れたんなら、ドワーフに作れない訳がねぇ。トールの名に懸けて必ず直してやるよ」


 自信を持って胸を叩くドレイクに、同じように頷くドワーフ達。それに共感するのは同じ職人気質なモノ好きばかりだ。

 くっくっく、実に良い拾い者をした。

 こうもやる気にあふれる連中は早々居ない。


「ならば、頼んだぞ。何か困ったことがあれば遠慮なく戦闘員やアリシア辺りにいうと良い。美月は少々出かける事になったからな」

「あいよ。おし、おいおめぇら! 休憩終わりだ! さっさと取り掛かって定時で終わらせっぞぉぉ!!」

「「「「うっす!! 親方!!」」」


 完全に土方の現場だな。これ。

 定時で終わらせる点は良好だな。無理に残業して仕事されるより定時で上がって次の日に備えて貰った方が我としても良い。


「あまりに暑苦しいね彼らは……ボクには合わないよ」

「物を作るという点ではレイと一緒だが、熱意のベクトルが全く別だからあ奴らは。体育系というべきか……」

「ボクはどちらかというと、文化系の方だからね。それで次は?」

「――第三区画だ」

「彼らだね」


 今から会いに行く者達はある意味、罪人である。

 ある意味というのは、別段その者達が犯罪を犯したわけじゃない。だが、そういう適正がある者、生まれつきそういう家系だった者達だ。生まれつきの咎人。


 進むにつれ、すれ違う人が減り直前までになると誰一人いなくなる。それほどまでにここは人を遠ざけている。

 まぁ、そういう仕掛けを施したのはレイだがな。


「レイ、術式とやらは問題なく起動しているようだな」

「ああ。エルフや魔族たち、それに此処にいる彼らから教えてもらった人払いの術式はちゃんと働いてるみたいだよ。いやはや、ボクが魔法を使うなんて思いもしなかった」


 確かにレイは科学の分野の人間だからな。魔法の適性があるとは我も思いもしなかった。

 第三区画と書かれたプレートの前に来ると椅子に座った門番が我の姿を見つけるや否や急いで立ち上がり敬礼する。


「問題はないか?」

「はっ!! 異常はありません」


 ここにいる門番は中と外のやり取りをするための門番で、常に三交代制でここに滞在している。俗に言う駐在人的な役割だな。

 死霊術士たちは今までの生い立ちからあまり人に紛れて暮らすのには慣れていない。常に孤独か、または独自のコミュニティを築くらしいので、今回は術の開発を兼ねて死霊術士たちで共同生活をしてもらっている。


「ですが、そのなんといっていいか」

「ふむ、何か気になることでも?」

「その、思ったより彼らのイメージが違いすぎて」

「あまりにも普通過ぎるだろう」

「はい。正直、死霊術士は陰鬱さを体現したような暗い闇の眷属かと思いましたが、ここで少し話を、流行りの恋愛小説や冒険の本などのですが、お話したのですが普通の人にしか見えず……他の同僚も同じような印象を抱いております」

「そういうものだ。噂ばかりに惑わされず、自分の目で確認することが大事だぞ」

「はっ!」


 門番を通じて死霊術士たちも人に慣れて貰えればと思ったが、日常会話ぐらいは出来るようになっているか。思いつきでやってみたが上手くいったようで何よりだ。

 通路を抜け、扉を開くとそこは真っ白な明るく清潔な部屋だった。

 部屋の中では各々が本を読んだり、一つのテーブルを囲むように集まって何やら議論をしている。

 はた目から見ると、何処にでもいるような者達だが、この者達は生まれつき罪人とされてきた者達。

 机の上には人骨や動物の毛、蝙蝠の羽根などが置かれており、本のタイトルは解体新書(異世界翻訳版)となっている。

 他にはじっと恋愛小説と思わしき本をじっと読む少女もいた。傍には頼んであろう本が10冊ほど重なっている。この辺りの資金は我持ちである。

 彼らは帝国ですら禁忌とされている死霊術士たち。総勢20名の死霊術士たちが清潔な衣服を纏い、健康そうに生きていた。


「あ、女王様。いらっしゃいませ」

「うむ。ノワールも元気そうだな」

「はい。ここ、美味しいごはんや暖かいベットもあって。本当に天国みたいです」


 にこぱっと擬音が出そうな程に満面の笑みを浮かべる少女。ドワーフと言ってる事が同じだが、差が激しいにも程がある。

 この子は美月が保護した死霊術士で他の者達の話によると生まれつき天性の才能があるらしく、こうして同じ死霊術士たちと共に過ごしてもらっている。同類ならば過ごしやすと思ったが正しかったようでホッとした。もし何かあったら我直々に処置を施さなければならない。

 

「ここの皆は優しくしてくれてるか?」

「はい、皆。ちゃんとした霊との付き合い方を教えてくれる、いい人たちばかりです。」


 ほぅ、リンがか。確かに数日前に我にここに来てもいいかと許可を得に来ていたな。何か話をしたいのかと思ったがそうか、ノワールと仲良くなっていたのか。良きかな良きかな。

 ノワールは最初、自分の周りを漂う霊に怯え竦み力を暴走させていたがここにいる死霊術士たちの手により、力を抑えこみ正しい霊との付き合い方を教えてもらっている。お蔭で陰に隠れていた顔も今では年頃の少女らしい良い笑顔を見せてくれるようになった。

 ここに集められたのは比較的、良識のある死霊術士たちだ。良識のある死霊術士と違和感を感じる者も多いだろうが、我としては別段先入観などが無いので気にもならない。

 良識の無い死霊術士に関しては、言わずとも記憶改ざん処置を施した上で働いてもらっている。これは奴隷達の中に混ざっていた凶悪な殺人鬼や外道極まりない下種なども同様だ。

 人の記憶を都合の良いように操り、人格を作り上げる我らの所業は間違いなく悪だ。だが、それで救われる命があるのであればどのような地獄の道でも歩もう。これぐらいできなければ悪の組織なぞやれぬ。


「でも、本当に私達がこんな良い生活して良いんでしょうか……死霊術士なのに」

「なのになんて言わずともいい」

「そうそう。それも立派な力だ。少なくともボク達はそう思っている」

「……立派な力なんて初めて言われました」


 悪の組織の総帥たる我が、死霊術を恐れる訳がない。それすらも受け入れ利用するのが上に立つ者の器というものだろう。

 ノワールと話をしていると、話し合いをしていた死霊術士の一人が我に声を掛けてきた。


「これはこれは女王様。このような所まで御足労ありがとうございます」

「様子を見に来ただけだ。気にしなくていい。皆元気そうで何よりだが、頼んでいた死霊術の開発は進んでいるか?」

「はい、それはもちろん。しかし……本当に宜しいのですか? 私達が言うのも何ですが、死霊術とは人の理を外れた魔術です。それを受け入れたとなると女王様の汚点になりかねないと思うのですが」

「安心しろ。皆を納得させるだけの材料はある。それだけの力をお前たちは持っていると自覚しろ」


 我は死霊術の可能性を消したくない。忌み嫌われている力だと言って、それで全て消してなかったことにするなぞ認められるものか。

 誰もやらぬ世の中ならば、我が認めさせてやる。




今日はここまで!




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それでは、次の日曜にまたお会いしましょう。





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