59話 エルフとの対談
最初に対談するのはエルフ達だ。
エルフはその見た目や魔力の高さから奴隷としての人気が高く、解放した四割がエルフだったことからその人気の高さが垣間見える。残り三割は獣人で三割は多種多様な種族たちだ。
今回の付き添いはいつも通りのレイと美月の二人。
レイと美月は人族だがレイは治療の為に何度もエルフ達と接しており、既に慣れているし美月は奴隷解放の時に多くのエルフ達にその姿を見られているので他の奴らよりはマシだろう。
エルフ達は基本的に緑を多い所を好む傾向にある。別に石造りの家でも暮らせるようだが、回復するとあれば緑が豊富な場所の方が体には良いようだ。
ゲセルシャフト艦内は殆どが鉄やセラミックなど人工物の部屋だが、艦内には農業エリアが有るので彼らにはそこに住んでもらっている。丁度そのエリアは植物系怪人の為に作った家屋があるので、エルフ達を住まわせるには都合が良かった。
家屋はログハウス風で大勢が泊まれる家で、以前はそこで寛ぐ怪人も多かった。
今では代わりにエルフ達の寛ぎの場となっており、エルフ達にそこを案内したら感激していたのは今でも思い出せる。
農業エリアへの扉を潜ると、百を超えるエルフ達が畑の世話をしている光景が目に入る。
我らに気づいた一人のエルフが汗をタオルで拭きながら、出迎えてくれた。
「おや、女王様じゃないですか。すみませんね、泥だらけで出迎えて」
「別に気にせずとも良い。リーダーは何処にいるか判るか?」
「シルフィーですね。今なら屋敷にいると思いますよ」
「判った。怪我が治ったばかりなんだから無理はしないようにな。気温調節はしているが、水分はしっかりと取るように」
勿論ですとエルフの青年は頷き、再び畑仕事に戻った。
この農業エリアは搭乗員全員の食糧を賄おうと思えば賄えるだけの場所を確保しており、土壌栽培の他に水耕栽培なども設置してある。
エルフ達は体力作りもかねて、自ら率先して畑仕事をやってくれるようになっていた。我としては普通に運動場や訓練室も貸すつもりだったが、どうやらこの農業エリアは土の力が強くここにいるだけで問題ないらしい。
この世界のエルフは狩猟だけで無く農耕もするようだ。通りで筋肉質なエルフも多いわけだ。
ログハウスに向かうと周りではエルフの子供たちが楽しそうに走り回っていた。これだけで助けた甲斐があるというものだ。
「あ、じょおうさまだー!」
「じょおうさまあそぼー!」
「あそんでー!」
「すまんが、今日はシルフィーに用事があるんだ。遊ぶのはまた今度だな」
「「「はーい」」」
子供たち一人一人の頭を撫でていると、やや驚いたようにレイと美月が我を見ていた。
「イヴ。君、子供と遊んでいたのかい?」
「うむ? 時間がある時様子を見に来たら、遊んでとせがまれてな。それで少々遊んでやったのだ。ブランコや棒のぼりなど適当に作ってやってな」
「……こう、凄く失礼かもしれませんけど今のイヴさんなら混ざってても判りませんね」
「……いうな。後で我もそう思ったぐらいだ」
別に我とて何の打算もなく遊んだわけじゃない。こうして子供から籠絡してな……といってもこの姿では信用もなにもないか。おのれ。
「シルフィー、いるか? 話があるのだが今大丈夫か?」
「イヴ女王!? はい、大丈夫ですわ」
扉を開くと、中では六人ぐらいのエルフが集まり何かしら話をしていた。
その中で一際目立つのが大きな木の机の上座にいる長い金の髪に翡翠色の瞳を持つエルフの女性。
彼女こそがエルフ達を束ねているエルフのシルフィー・グリーランドだ。
彼女はエルフの国の出身であり有力氏族の一人なので、こうしてエルフ達のまとめ役にはぴったりな人材だ。
「イヴ女王だけでなく、レイ先生にミツキさんまで……」
「邪魔するよ」
「えっと、お邪魔します」
「皆さまがいらっしゃったということは、それほどのお話という訳ですね」
「ああ、会議中だったようだが、何の話をしていたか聞かせてもらっても構わないか?」
「はい。構いません。イヴ女王のお蔭で同胞たちも怪我が治り、体力も戻ったので数人を里に戻らせようと話をしていたところですの。里の様子も気になりますし」
ふむ、向こうも同じ考えだったか。確かに安全が確保されたとなると次に気になるのは家族たちの安否だ。エルフの里も他の国と同様に戦乱に巻き込まれているという話だ。気になるのも当然だろう。これならばうまく話が進めれるかもしれん。
「なるほど。それは都合がいいな」
「といいますと?」
「エルフ達の怪我も完治し、旅が出来る程に体力が戻ったとレイから報告が上がったのでな。我らの方からも同じ提案をしようと思っていたのだ」
「そうでしたか。確かにこのままずっとお世話になる訳にもいきませんものね。イヴ女王様には大変お世話になりましたし、何とお詫びをしたらいいか」
「別に何の打算もなく助けたわけではない、それぐらいはお前たちも理解しているだろう?」
何も考えなく助ける人種も確かにいるだろう。ここにいるヒーローとかな。
だが、個人ならともかく組織で助けるとなると打算や思惑が絡むのは当然だ。シルフィーもそれは理解してるようではっきりと頷いた。
「……ええ。そうですわね。それで、何がお望みで? わ、わたしくしの身でしたら、その、皆の為に差し出すのも吝かでは」
「いやまて。別にそれを望むつもりはない! だからレイや美月! そんな目で我を見るな!」
確かにシルフィーは我から見ても綺麗だ。エルフとは確かに美の象徴といっても過言ではない程の美しさだ。実際我が男だった頃ならばって変な考え方をしてしまうな! ええい!
「話を戻すぞ。我らが望むのはエルフの国との繋がりだ。国として正式に友好関係を結びたい」
「国として正式にですか。ご存知だと思いますが、私達エルフは人族に襲われ、奴隷へと落とされました。普通でしたら即時襲撃されてもおかしくはありませんが……このように大勢の同胞を助けた貴国ならば、里の皆様も受け入れてくれる可能性が高いと思われます。私も助力いたします」
「助かる」
数人程度ならともかく、これだけ大勢のエルフを助け出したとなれば話ぐらいは聞いてくれるだろう。一度に全員を連れて行くわけにはいかないので、数回に分けて移動させるつもりだ。勿論、残りたい者がいるのであれば大歓迎。
もし争いになったとしたらその時は平和的に説得するしかないな。
「ところで、お聞きしたいのですがなぜエルフと友好を?」
「幾つは理由はあるが、一つはエルフの国が滅ぶのを黙って見過ごすことなど出来ん。亜人だからといって、人に滅ぼされて良いなぞあってたまるか」
このパンゲア自体が亜人との共存共栄を掲げているからな。もし、エルフが滅ぶのを見過ごせば亜人達との不和を招きかねない。それに、元々人とは相いれなかった怪人達がいるのだ。エルフぐらいどうという事はない。
「それに、大きな理由としてエルフの国には我が組織が欲してやまない素材がある。そうだな、レイ」
「うん、そうだね。シルフィー、エルフの国にはこれと同じような物がないかい?」
レイが取り出したのは、一つの小さな水晶の欠片だ。勿論ただの水晶ではない。
これは古代遺跡から発掘された未知のエネルギーを放つ水晶で、この戦艦ゲセルシャフトの反重力装置のコアとも呼ぶべき水晶だ。
艦を元通りとは言わずとも、元の世界へと帰還するためにこの世界で取れる金属や鉱石、果てには木材までくまなく調べた。
すると、似たようなものが幾つか見つかったのだ。
その一つがエルフの国にのみ取れる特殊な水晶だ。
「これは……!? 何故、これがここに……。手に取ってみても?」
「構わん」
シルフィーは真剣な目で水晶を覗きこむ。周りのエルフ達も成り行きを見守っている。
時間にして数分か。確認し終えたのか水晶を我らの元に戻し、一息つくと真面目な表情で我に視線を向ける。
「確かに、これはエルフの聖域で取れる精霊結晶で間違いありません。ですが、これはエルフの里でも貴重な品。手に入る可能性は限りなく低いかと……」
「……手に入らない訳ではないのだな?」
シルフィーははっきりと頷く。ならば良し。
強硬手段は我としても最後の手段だ。別に手に入る可能性があるのであればそれに全力を尽くす。その為に、こちらも最高の人材を送り込む。
「ならば、帰郷する時に護衛としてうちから数人戦闘員と――美月を連れて行ってくれ」
「え、ええ!?」
「はぁ、それはこちらとしてもありがたい申し出ですが、宜しいのですか?」
「構わん。エルフの里というのも興味があるしな。美月、という訳でお前に重大な任務を与える。エルフと仲良くして来い」
「えぇぇえ!?」
慌てる美月をよそにシルフィーは快く引き受けてくれた。護衛居た方が安全だからな。
ティルファング共和国、エッケザックス国といった好戦的な国々が滅んだとしてもまだ野盗や魔物の類は跋扈している。エルフは魔法に長けた種族らしいが、心強い護衛がいる方がより安心だろう。
「エルフと仲良くってそんな……」
「無論、ただ友好関係を結ぶだけではない。お前だからこそできると信じてこの任務を任せたい」
そろそろ美月にも幹部として働いてもらいたいからな。それに美月ならばやってくれるだろうと信じている。根拠は美月が魔法少女だからだ。
「エルフの里に向かい友好関係を結び、コアの代わりとなる精霊結晶を入手、もしくはコアの修復手段を見つけてきてほしい。出来るな?」
「え、ええ!? そんな、私そんな事……」
「美月君、イヴは出来ない事を人に押し付けたりなんてしない。イヴが出来ると判断したからこそ君に頼んだんだ」
「そう、なんですか?」
「当然だ。出来ない奴に頼むなぞせん。美月、お前だからこそ出来ると思い、頼んでいるのだ。魔法少女であるお前しか出来ない」
「私しか……」
実際、我が力づくでなんでもやってしまってもいいが、それではだめだ。
配下を育て、託し、信頼を重ねる。それを疎かにした組織はヒーローであっても悪の組織であっても滅ぶ運命にある。
我が組織が最後まで生き残れたのは、怪人達との信頼が強かったからに他ならない。
信頼はヒーロー達の特権ではない。悪の組織こそ、信頼が必要なのだ。
「判り、ました。やってみます!」
「頼んだぞ。栄一を付けるので困ったことがあれば聞くと良い」
こうして、エルフの国への派遣が決まった。栄一には苦労を掛けるが、二人ならばやっていけるだろう。




