64話 イヴの休日(強制)後編
一悶着あったが、改めてヒルダとギャラルホルン学園から来たミリアリアと共に目的地であるカフェカカオへと向かう。
名前から察することが出来る者が多いかもしれんが、ここはカカオを使ったデザートを出す店だ。
「おお、この店は!」
「匂いで判っただろう。例のチョコの原料を使った店だ。ここは我のおごりだ。二人とも遠慮なく食うが良い」
「え、ええ!? 私もいいんですか?」
「これも何かの縁だ。一人ぐらい増えても気にせん」
人の目を避けるためもあり、予約していた個室に入る。いつ予約していたかというと、艦を出る直前だな。我の権限を使えば個室の予約ぐらいどうという事はない。権力の無駄遣いかもしれんが、これぐらいは可愛い物だろう。
我はチョコケーキを、ヒルダはチョコパフェを、そしてミリアリアはガトーショコラを頼んだ。
飲み物は我とヒルダは珈琲、ミリアリアはホットミルクだ。
「へー、ヒルダさんって帝国の人なんですね。帝国って海の向こう側ですよね。ここに来るの大変じゃありませんでしたか?」
「余は個人で空を飛ぶ手段を持っておるからな。造作もない。お主の方こそ、それはギャラルホルン学園の制服だろう。学園から来るのも大変だったのではないか?」
「あ、知ってたんですね。はい、この辺りの戦争が終わったと聞いたので、ついこの間、里帰りをしてきたところなんです」
なるほど。確かに戦争中は移動もままならないが、戦争が終われば人の流れが良くなるからな。遠くの国に避難していた者が一度国本に戻る事もあり得るか。
「そうだったか。この国へは帰るついでに寄った、ということか?」
「はい。まさかあのエッケザックスが、こんな風に生まれ変わるだなんて思いもしませんでした」
まぁ、国丸ごと変わったからな。名残は残ってるものの、軍事国家としてのエッケザックスは完全に滅亡している。
「この国を見てどう思ったのか聞かせてくれないか」
「えっと、そうですね。前のエッケザックスは皆暗そうで、軍人さんはピリピリしてましたけど。パンゲアの人達は皆楽しそうにしてて、見た事ない食べ物やお洋服、それに亜人や人が一緒に過ごせていて凄く良いですね」
「そうか。聞かせてくれて感謝する。ほら、デザートが来た。皆で食べるとしよう」
「わぁっ! イヴリースさん、ありがとうございます」
「馳走になるぞ!」
この国の物でない第三者の話を聞く機会なんて早々ないからな。今のところ政策的には間違って無いようだが、油断せずにせねばな。
因みに砂糖自体は国を挙げて生産しているが、カカオは完全に輸入に頼っている。
この世界にもカカオに似た植物が生えていて、地球の物よりは育成が簡単なようだ。空を飛べる小鴉丸に一度見にいってもらったが、そこらへんに適当に生えていて驚いたと報告が上がっていた。
地球のは確か……平均気温27度以上で、年間を通じて気温の上下幅が狭く、日照時間の平均が1日5時間から7時間だったか。土も限定されていて降水量ともに土はけの良い土地じゃないと育たないんだったか。本で見た知識しかないからこの辺りは判らんがな。
カカオが取れる国では地球と同じく薬用として呑まれていたが、偶然にも行商人が仕入れたのを栄一が発見し、国と上げての取引となった。元々その国は農業を生業とした小国で細々とやっていたが、カカオの大商いに国王共々仰天してたな。金貨が飛び交う取引に何か裏があるのかと勘繰られれた程だ。甘い話には直ぐに飛びつかない分、見どころのある国王だったな。文字通り甘みが目的だったと告げたら呆然とされたのは良い思い出だ。
「うむ、美味いな」
「ん~~~♪ こんなに甘くて蕩けちゃうの初めて食べました♪」
「うむ!! 絶品だ! なぁ、イヴリース! この店持って帰っても」
店を持って帰ろうとするな皇帝。
「ダメに決まってるだろうが。せめて帝国にも店舗を拡げる位にしろ。話ぐらいは付けてやる」
「むー。仕方ない……。絶対だぞ」
「あの……もしかしてお二人とも、物凄い偉い人なんですか?」
「余は、ただのヒルダだ」
「我はただのイヴリースだ」
「嘘だ!!」
どこぞの鉈を持ったような子の台詞を言うでない。怖いからな。
とはいえ、この場で教えるのも酷すぎるだろう。ヒルダもそれが判ってるので正体は明かしてない。
「我らが誰か気にしても仕方ないのことだ。ここは素直におごられておく方が吉だぞ」
「むぅぅ……イヴリースさんって、見た目小さくて可愛いのに、何か年上に感じます」
そりゃ精神年齢は年上だからな。だからこそ、ヒルダとは馬が合うのだろう。
「そうだ、ミリアリアよ。ギャラルホルン学園に付いて何か話をしてくれないか? 如何せん、あの国は人の出入りが厳重だからな」
「え、えぇ? そんな、私が知ってる事なんて学校生活ぐらいですけど」
「それでも構わん。我としても学校生活には興味があるな」
「うむ、余もだ!」
「じゃ、じゃあ、それで良ければお話しますけど、そのイヴリースさん……」
ミリアリアの視線の先にはパフェが。うむ、食べたいのだな。了解。
「ウェイター。チョコパフェを一つ、とガトーショコラを一つ、後コーヒーのお替りを」
「わぁ、ありがとうございます♪」
「強かな子だな。余も嫌いではないぞ」
「てへ、えっと学校の事ですね」
ミリアリアが語ってくれたギャラルホルン学園の話は中々に興味深い物だった。
ギャラルホルン学園は別名、魔法学園とも呼ばれており魔法技術に秀でた国との事。
魔法に関しては千差万別であの死霊術でさえも魔法学園では認められているほどだ。
「それで、最近はいろんなところで戦争があって避難目的で学校に入ってくる人たちも多いんですよ」
「ギャラルホルン学園は完全中立としだからな。そういった難民も受け入れてるのか」
「はい。土地はあんまりないんですけど、住む場所なら沢山ありますからね」
「土地が無いのに住む場所が沢山ある?」
「はい。えっと、これも言って大丈夫だよね。学園で暮らしてる人たちは全員、ダンジョンの中に住んでるんですよ」
ダンジョンの中に住む!? そんなことできるのか。
「待て、ミリアリアよ。もしかして……ダンジョンマスターを身内に引き入れてるのか?」
「はい。と言っても一度も見た事ないんですけどね」
「ううむ、そうか。あの国にそんな秘密が」
「秘密って程じゃないと思うけどけど……それでですね、入学の為にはやっぱり魔法適性検査が必要で最近すっごい優秀な子が入学してきたんですよ」
「ほぅ、そういうものがいたのか。逃した国は災難だな。成績優秀者であれば帝国に引きこみたいものだ。一度打診すべきか」
ヒルダの言う打診は、学園長でなく恐らくそこに通っている学生を通じての話だろう。
ヒルダも人材発掘には余念がないようだからな。
「それで、ミリアリア。お前の成績はどうなのだ?」
「えっへん!! 私は学園の第七席です!」
「なんと、見かけによらんもんだな」
七席というと、学校全体で7位か。思った以上に成績が良いのだな。
「なら、あのような粗暴な冒険者なぞ蹴散らせたのではないか?」
「学園七席となると、そうというの実力者の筈だ。余が知る学生からもそう聞いている」
「あはは、そうだったらいいんですけど、私が得意なのは空間魔法でして」
空間魔法? 初めて聞く魔法の名前だな。
ヒルダの方を見て見ると、彼女にしては珍しく目を丸くして驚いていた。
「空間魔法の使い手だったか。確かにそれでは戦いに不向き、いや、あの場では不向きというべきか」
「え、空間魔法の事、知ってるんですか!? 私が言うのも何だけど、結構希少な魔法なのに」
「何、少々詳しい者に伝手があるだけだ。範囲が広く、無差別に巻き込まれるからあの場で使えなかったのだろう」
「はい。流石に街中で魔法を放つのはダメですし」
「なるほどな。そういう事情ならば納得だ。だが、自己防衛の為ならば軽度の魔法は許可されているぞ」
「ううん……軽度でも周りに被害が出そうなので」
「イヴリースよ。七席の名は伊達ではないのだ。下手すると近隣の店にも被害が出かねんぞ」
ふむ、ヒルダがそういうのであればそうなのだろう。我は魔法に関しては埒外だからな。文献や資料では知ってるが、実感がまだまだ薄いのは後々の問題になりそうだ。
「後は、そうだな。袋の中の時を止める事が出来るのであったか」
「はい。空間魔法の認識ではそっちの方が有名ですね」
「時を止めるとは、中身の物の時が止まるのか?」
「はい。こういった袋の中身位しか時は止められないんですけど、生ものとか料理とか保管する時に便利な魔法ですよ」
そういってミリアリアがテーブルの上に置くのはリュックサイズの袋だ。左程大きいとは言えないが、土産や生ものを保管するには不足ない大きさだ。
「実はいうと、学園町からもここのお店のデザートをお土産に買ってきてほしいって頼まれてて」
「それでこの店に来たかったわけか。だが、普通に買うとすれば髙いぞ?」
ミリアリアにメニューを手渡して値段を見せる。価格は普通に銀貨が飛ぶレベルだ。
基本的に我が取引で使うのは金貨以上なので今まで特に金に関しては言わなかったが、銅貨は日本円で換算すると大体一枚で一〇〇円、銀貨は一〇〇〇円、金貨は一〇〇〇〇円と思っていい。銅貨の下には石貨もあるが、こちらは10円と思っていい。それ以下はない。
メニューにあるのは最低でも銀貨一枚からだ。学生の身分だと銀貨一枚でも大金と言えずともホイホイ使うには躊躇う金額だろう。
現にミリアリアは顔を真っ青にしている。それはそうだろうな。今まで食べたのが銀貨5枚や6枚といった金額だ。あと、パフェは金貨一枚だな。
「安心せよ。ここはおごりと言ったはずだ。どれを持って帰りたいか言ってみろ」
「え、ええ!? そんな、悪いですよ」
「ならば自腹で土産を買えるのか?」
「う……それは」
旅費もあるので無駄遣いは出来ない筈だ。それを考えたらおごられるのが一番だと思うがな。
ミリアリアは少しの時間葛藤に苛まれ、最終的には項垂れていた。
「お願いします……え、っとこれとこれとこれとこれとこれとこれを」
「と言いつつ容赦がないな貴様は!」
「もう開き直る事にしました」
たゆんと豊かな胸を張るミリアリア。ええい、なぜ我の周りはこうも大きい者ばかりなのだ。
いかん、思考が女の子に染まってる。我は男なのだぞ。
金貨が飛ぶレベルでおごる羽目になったが、このぐらいならば我としては痛くもかゆくもない。ヒルダに奢ったあの武器なんて金貨百枚だからな。我にとっては小銭程度だ。
「おごる代わりに一つだけ。学園長に手紙を渡してほしいのだが、良いか?」
「はい。それぐらいなら大丈夫だと思います。返事の方はどうなるかわからないんですけど……」
「構わん。帰ってくるなら良し、帰ってこれないならそれまでだ。出来上がるまでの間に書いてしまうので二人ともまだ食べたいのがあるのであれば食べて良いぞ」
「イヴリースがこういってるのだ。余達は甘味を堪能するとしよう」
「はいっ!」
懐から紙とペンを取り出し、さらさらと書き連ねる。中身は一度会って話をしてみたいという事と、何かしらの形で交流を持ちたいという文章を書く。
最後にロウを垂らし、ハンコを押してっと、これで良し。
二人はフォンダンショコラを美味しそうに食べていた。良く入るなあの二人は……我はこのケーキだけで十分だ。
「ミリアリア、これを頼む」
「はい、判りました。あの最後にちょっとお願いがあるんですけど、いいですか?」
「遠慮が無くなってきた気がするが、言うだけ言ってみろ」
「はい。えっと――」
ミリアリアの最後の願いは素朴で、我としては叶えるのは特に問題はなかった。
最後の願いとは、この国だけで普及している写真で3人で移りたいという願いだ。
我にとっては素朴だが、この世界に住む人々にとっては写真は新鮮その物。記念に残したいというのであれば是非もない。
それに楽しみではないか。偶然出会った二人が女王と皇帝だったと知ると、その時のミリアリアの表情が実に楽しみで仕方ない。
手持ちの端末で栄一に連絡を入れ、店にまでカメラを持ってきてもらうように頼むと、物の十分で店にやってきた。早いな。
「それでは、戦艦をバックにして取りましょうか」
「頼む」
「綺麗にとるのだぞ!」
「き、緊張しますね」
栄一はごついカメラ機材を肩に担ぎ、レンズを我らに向ける。このカメラは地球から持ってきたものとは別物で、この世界にある素材で作った異世界カメラだ。仕組みを錬金術師や学者たちなどに伝えると、一か月ほどで仕上げてくれた。作り方や元となるものがあれば作るのはそう難しくないらしい。今は量産を進めてる最中で、既に新聞社や冒険者ギルドなどが購入予約を入れている。
――パシャッ――
シャッター音が鳴り戦艦をバックにヒルダとミリアリアに挟まれる形で写真を取る。
写真は出来上がるのに一時間かかるので、後は栄一に任せて我らは観光に戻る。
こうして我が関与した街を回るのは案外楽しい物だ。年甲斐もなくはしゃいでしまった気がする。
小物雑貨屋や公園、猫カフェに寄った時はヒルダが「これはうちの子にする!!」と子猫を抱えながら大騒ぎして大変だった。
時間はあっという間に過ぎて夕方。ミリアリアは宿に戻るというので、これで今日は解散となる。
「イヴリースさん、ヒルダさん、今日は本当にありがとうございました!」
「うむ、余も今日は楽しかったぞ。普段はこうやって触れ合うことなぞ出来んからな」
「我もだな」
「……やっぱりお二人ともお偉い立場だったんですね。何となく思ってましたけど」
何となく察してただろうが、イヴリースよ。話しをしてるのが国のトップとは最後まで気付いてないぞ。
その手には箱に入った写真が数枚。栄一が気を利かせて10枚ほどセットで現像してくれた様だ。あいつなんでも出来るので、こういった作業を任せるのにも信用がおける。
「それじゃ、暗くなるし私は宿に戻りますね。明日も早いので」
「ああ、また何れ、どこかで会おう」
「またな」
ミリアリアは夕暮れを受けながら手を振りつつ宿場街まで走って行った。
彼女とはどこかでまた会うだろう。そんな気がする。だから「またな」だ。
「それで、イヴよ。今日は楽しかったか」
「まぁ、そうだな。ヒルダ、お前はどうだ?」
「楽しかったに決まっておろう! さぁ、夜も楽しむぞ」
「おい待て。まだ遊ぶ気か」
「無論! 夜は夜でイヴで遊ぶのだ!」
待てい。聞き逃せない単語が出てきたぞ。
しかし、こうして遊ぶのは中々にない機会だった。
久々に感じた満足感を胸に感じつつ、我らは艦へと戻るのだった。
なお、艦内ではヒルダに夜這い掛けられ大変だったとだけ記す。我の唇……。
今日はここまでです。
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それでは、また次の日曜にお会いしましょう。




